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連載 ネパール・タライ平原の村から(107)

今日も明日もゴギスープ

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その107回目。


 いつも窓口で電卓叩いている銀行員も、鍛冶屋の母子も、近くの田んぼで草取りしていた女性グループも、畦を下向きながら歩いています。あっちの田んぼ、こっちの田んぼ、誰かの田んぼを下向きながら。畦越しに水が送られ、滞留している辺りで立ち止まっては、じっと水底を見つめて、ゴギ(タニシ)を拾っているのです。

 僕ら夫婦も草取りしながらゴギを1つ2つ見つけては、泥付きのままポケットへ。その日の草取りが終わると畦道を下向きながらゆっくりと、時々立ち止まり、じっと水底を見つめては、ゴギ拾いしながら帰ります。2人で30匹くらい採れば、一家4人の晩ご飯のスープにちょうどよい量。

 今日も明日も草取りが続く間、辛みを効かせたゴギスープも毎晩続くのです。たまに家の娘も連れて来ると、ゴギ探しに没入します。

 そういえば去年、一度草取りで6人雇ったら、畦に腰かけた時に、3人はポケットから僅かなゴギを取り出していました。「4匹だけでも出汁になるのよ」と、わりとみんな楽しそうです。

 これがこの季節の田んぼのつきあい方なのです。

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 持ち帰った殻高1~2センチに満たないゴギ。水洗いしては一晩水に浸し、何度か水を換えて泥抜きをします。殻(巻貝)に付着した苔は、かき回してみたり、ゴギ同士や指で擦り落としてみたり。後は多少、苔が残るのは気にせず、みみちいゴギを1つ1つ、殻の尖がり部分を小鉈で落として、塩やマサラ(スパイス))が染み込みやすくします。

 下処理後は油で香辛料のフェヌグリーク(和名コロハ)と殻をよく加熱して、ニンニクと自生している小粒で激辛のトウガラシ(沖縄のシマトウガラシと同系)をすり鉢でつぶしたペースト、赤玉ねぎを一緒に炒めます。そこへクミンとコリアンダー(種実)を煎って調合した家のシンプルなマサラやターメリックと塩を加え、トウモロコシ粉を混ぜます。

 次に水を入れ蓋してしばらく煮込み、こってりと仕上げます。子どもらは最初、身を食べるのに殻の穴からチューチューと吸い上げるのがなかなか面倒で、虫を食べるような見た目に思わず、「そんなのいらない」と言っていました。けれど、うまいうまいと食べているうちに。一緒に食べるようになりました。

 ゴギはベトナム・ラオス・中国などでは市場で売られているそうです。ネパールに限らず、アジアの稲作文化圏では、市場に出回ることがなくても、今もふつうに田舎の食材として料理されている地域もあるのではないでしょうか。

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 ゴギは一般には、珍味とかゲテモノ喰いと思われるかもしれません。栄養学的に、あるいは開発援助の視点では、これを農村の貴重なタンパク質源と呼ぶのかもしれません。
■ご飯とゴギスープ(ゴギカレー)

 そんな少量では割に合わんでしょと、呆れるかもしれません。水田を見回ることがあっても水底をじっくり見ている暇なんかないわと、おっしゃられるのかもしれません。

 だけど僕は言いたい。「これがほんまのスローフードです」。

 近年は水田の除草剤・農薬散布が気になっています。
                              (藤井牧人)



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