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アソシ研リレーエッセイ
「終末」の前に「システム・チェンジ」



 天変地異と疫病の蔓延、まさに「終末」、世界の崩壊が始まった!

 これって大げさでしょうか? でも、いま起きていることを考えれば、そんなに大げさなこともでもないのでは? 世界各地で起きている気候災害、年々深刻化する超巨大ハリケーンや洪水、干ばつ、山火事などなど。日本では、10年前の「東日本大震災」における巨大地震と津波で死者1万5899人、行方不明者2529人、避難者は最大で約47万人、2020年3月現在も4万7737人が仮設住宅暮らし。

 その後も国内各地で繰り返される地震や記録的豪雨、巨大化した台風。加えて、この先何世紀にもわたって解決の見込みが立たない「炉心溶融」など、一連の放射性物質の放出を伴った福島第一原発事故の後始末。「原発事故」は明らかに人災だが、気候災害も「地球温暖化」が原因なので、やっぱり人災でしょう!

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 そして今年、ついに起こった世界的パンデミック! 8月23日時点で、世界の感染者数は2320万3532人、死者数は80万4416人、国内の感染者数は6万3503人、死亡者数は1203人(空港・クルーズ船含む)に達している。この世界的パンデミックの被害をより深刻化させたのは、市場経済のグローバル化と医療などの社会保障を切り捨ててきた新自由主義。こんなことばかり続いたら、本当に「終末」になってしまいそうだ。

 そのうち雲に乗った救世主が現れて「悔い改めよ!」と人類みんな怒られてしまうかも。でも、世界はすでに市場原理主義という別の宗教に席巻されている。「市場での自由な競争に任せておけば、価格・生産ともに適切に調節され、ひいては生活全体も向上する」という教義。米国の経済学者ミルトン・フリードマンが提唱、政府による市場への介入や規制の極小化を主張した(米国のレーガン政権、英国のサッチャー政権の経済政策に大きな影響を与えた)。あれから数十年、新自由主義によって世界は格差と貧困、自殺者に満ち溢れている。

 長崎大学の山本太郎教授によると、14世紀のヨーロッパで流行した黒死病によって、ヨーロッパ人口の1/4から1/3が失われたそうだ。労働力の急激な減少(賃金の上昇)と荘園制の崩壊、ペストの脅威を防げなかった教会の権威の失墜が、封建的身分制度の実質的解体へとつながっていった。ペスト後のヨーロッパ世界は文化的復興、強力な主権国家の形成など、中世が終焉し近代を迎えることになった。

 パンデミックは社会変革のきっかけになることもあるようだ。新型コロナウイルス感染症のパンデミック後の世界がどうなるのか、よくわからないけど、確実に変化が求められていると思う。

 新しい薬やワクチンが開発されたとしても、この先何年間も付き合っていかざるを得ないし、もともと人類とウイルスの関係なんてそんなものらしい。逆に言うと、この先「新型ウイルス」は何回でも現れるし、その都度パンデミックが起こる可能性だって否定できない。いま各国の政権はコロナ対応そっちのけで、経済活動の再開に血眼になっているとか。でも、政治家諸君! ちょっとだけ落ち着いて考えてみよう。この「天変地異と疫病の蔓延」を引き起こしたものが何だったのか。経済活動の再開だけでは何の解決にもならないことは、誰の目にも明らか。

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 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんに象徴される若者たちを中心とした「地球温暖化」をテーマにした運動がある。斎藤幸平さんによると、そこでは明確に「システム・チェンジ」という言葉が使われているそうだ。

 ドイツの舞台監督ミヒャエル・エンデの著作「モモ」に登場する女の子は、物語に登場する灰色の男たちの「人間から時間を盗む」という不気味な陰謀を阻止してしまう。盗まれた時間を人間に取り返してくれた女の子「モモ」とグレタさんがシンクロして見えてくる。

 僕自身、「時間泥棒」に盗まれた日常の中で、いまでも畑に行くと足下の土や緑、遠くに見える山や川、そして澄んだ空気が、私たち自身が人と自然の大いなる循環の中で生かされていることを気づかせてくれる。「システム・チェンジ」は、そんな小さなきっかけからはじまるのかもしれない。

                                    (田中昭彦:関西よつ葉連絡会事務局)



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