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連載 ネパール・タライ平原の村から(106)

コロナ禍の世界経済と連動していても

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その106回目。


 7月22日、ネパール政府は段階的なロックダウンの解除を発表しました。ところがその後、首都カトマンドゥでCovid-19(新型コロナウイルス感染症)の感染者が急増したため、感染者数200人を超える郡を対象に、8月6日から再び厳しく移動が制限されるようになりました。

 メディアは「都市封鎖は経済破壊」「計画なき解除」と書き立てました。政府の統治者は対策が行き届かない地方が窮状に直面していたとしても、真剣に取り組み始めたのは首都カトマンドゥで感染が拡大した後だったと、批判の声が上がっています。この原稿を執筆時の8月21日、これまで確認された感染者数は30838人、死亡者は137人。過去24時間のPCR検査実施件数は1万3679件、陽性者838人です。

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 空の路線は引き続き全フライト運航停止中ですが、失業やビザの有効期限が切れた移民労働者5万1000人が6月15日以降、ペルシャ湾岸諸国、マレーシア、韓国からチャーター便で帰国しました。日本へも輸送と在日ネパール人の帰還を目的としたチャーター便が2便ほどありました。それでも、未だに各国大使館には帰還希望者の登録が25万人あり、その数は今後も日を追うごとに増え、数ヶ月で40万人以上が帰国すると予測されています。

 インドには200万とも350万人とも言われる移住労働者がいて(※)、現在は隔離施設の不足などで混乱したインドからの帰還者は減少していますが、すでに10万人以上が帰国したと言われています。

 一方、国内外の移住労働者が家に帰ったことで、何十年も続いた農家の人手不足が解消された地方もあります。今年は雨季のタイムリーな降雨と労働力により、米の高い生産量が予測されているようです。

 こうして都市部から農村部へ人が移動する中、これをチャンスと捉えて、政府は失業対策に農業部門と農産品加工への投資・活性化に焦点を当ててもいます。「人口の66%を雇用している」にも関わらず「大半の農民が遅れた自給自足的農業に従事している」とか、「輸入を削減し国家の食糧自給率を高めなければ」いけないとか、「国際市場でオーガニック製品の需要が高く成長産業である」と吹聴しています。

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■青草飼料を担ぐ「娘」、わが家の人手不足も解消か
 海外からの送金が激減した大多数の小さな農山村。職を失い、収入を失い、地元へ戻った帰還者たち。けれども、そんな困難な状況を尻目に、「必死に稼がなければ」「金がないと食っていけない」「これしかない」といった固定観念に強くとらわれている様子もありません。そんなに切迫感もなく、そんなに肩に力が入る訳でもありません。不安ではあるけれど、わりと穏やかな心持ちで田んぼの草取りをしている風景も思い浮かびます。

 Covid-19パンデミックによる世界経済急落の影響を受けつつも、もともと生きるための農業を続けていたからなのでしょうか。僕も慌てず過ごすことにします。

                                                   (藤井牧人)

 
(※)前々号でインド移住労働者数は推定約88万人以上と記載しましたが、季節労働者など含め200万、350万人と、調査機関により数字は大きく異なります。実際には、インド・ネパール国境は両国民に対してはパスポート不要のオープン・ボーダーであるため、明確な数字はありません。


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