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アソシ研リレーエッセイ
社会のあり方にも免疫を



 「動的平衡」で知られる生物学者・福岡伸一さんが朝日新聞に書かれたコラムによると、コロナウイルスの感染を細胞レベルで観察してみれば、私たちの細胞は能動的にウイルスの侵入を手引きしていることが分かるそうです。

 それは何を意味するのか。ウイルスに感染すれば様々な症状が現れ、今回の新型コロナウイルスのように時に死に至ることもありますが、デメリットだけでなく、それまでに宿主になった生物の遺伝子情報を伝えてくれるという効果をもたらすようです。基本的に生殖による垂直伝達しかできない私たちの身体は、ウイルスがもたらす水平伝達による遺伝子のバージョンアップを歓迎しているということなのでしょう。

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 もちろん、その代償として命を失うことを私たちは受け入れられません。しかし、ウイルスを敵視するばかりでは進むべき道を誤ると思います。そして、それを防ぎ“いいとこ取り”するために、前号で河合さんが強調した自己免疫力が存在します。

 生命の誕生以来、90%以上の種が絶滅しているそうです。その大半がウイルスを始めとした微生物がもたらす感染症によってです。そのため、私たちの遺伝子には、預かり知らない太古の昔を含めたパンデミックの記憶がインプットされており、それがいわゆる自己免疫です。

 その機能を、自ら汚染した大気や水、化学物質まみれの食べ物、現在の社会システムに強制された生活習慣とそこからくるストレス等によって、わざわざ低下させてしまっているのが、私たちの現状なのです。

 グローバルに展開する資本の際限なき開発や、工業的畜産・農業が未知のウイルスとの遭遇やウイルスの突然変異を促すこと、戦争や搾取を要因とした構造的貧困に苦しむ地域が大規模感染の温床となりやすいこと、人やモノが過剰に行き交いする時代だから、その局地的に拡がったウイルスが地球規模の危機につながること、前述のような要因で免疫力が低下しているため感染が拡がりやすいこと、さらに社会の隅々まで資本の論理が浸透することで、短期的には“利益”にならない分野が切り捨てられ、医療をはじめとした社会的インフラが、今回のような事態に対応できず多くの命が失われること……、どのレベルでみても、今回のコロナ禍は、降って湧いた理不尽な危機ではなく、現在の社会システムが抱える構造的問題の具体的発露のひとつだと言えます。

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 私たちがすべきは、今まで謳歌してきた生活を肯定し、過度な衛生習慣の強制や「オンライン〇〇」に代表されるような、受動的対応に終始することではありません。それに気付かない限り、私たちの未来には緩慢な自殺が待ち受けています。

                    (松原竜生:㈱大阪産地直送センター)



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