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アソシ研リレーエッセイ

現代人の免疫機能不全と新型コロナウイルス


 「なぜある感染症が流行するのか。僕たち研究者はウイルスの種類や特性を調べ、原因を突き止めようとしてきました。しかし、僕は最近、実は逆ではないかと考えるようになりました。流行するウイルスを選び出し、パンデミックへと性格づけるのは、その時々の社会のあり方ではないかと」。

 これは長崎大熱帯医学研究所の山本太郎教授が読売新聞のインタビューで語ったものです。

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 今回の新型コロナウイルスのパンデミックに際して私たちが考えるべきことは、ウイルスの形状や特性ではなくて、現代社会のひずみやそこに住む人々の弱体化の方ではないでしょうか。資本のグローバリズムと新自由主義の政治が今回のパンデミックをひきおこした原因ですが、もうひとつ、あまり言及されていませんが、世界中のあらゆる国の人々の免疫力が下がっているのではないかと思います。

 今回のコロナ禍が起きる前に、たまたま免疫についておさらいをしておこうと、『免疫力を強くする』(宮坂昌之著、講談社)を読んでいました。「『風邪』とは感染によって上気道の炎症が起きる病気のことを指します。症状としては、鼻水、鼻づまり、喉の痛み、咳、痰などが見られます。かぜ症候群の約9割はウイルス感染によるものです」「かぜ症候群を起こす主なウイルスは、ライノウイルス(全体の30~40%)、コロナウイルス(10~15%)、インフルエンザウイルス(5~15%)、RSウイルス(~5%)です」。

 上気道というのは鼻と喉で、呼吸器系に入ってきた異物を排除する最前線です。鼻水も咳も痰もいずれも免疫反応で、それによってウイルスを排除します。しかも発熱は免疫機能を高める役割があります。

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 そして今回の新型コロナウイルスです。何故これまでのコロナウイルスと同じようにカゼですんでいないのか。例えば阪神の藤波選手は味覚障害と嗅覚障害があったぐらいで発熱もしませんでした。これを新型コロナウイルスの特性ととらえるのか、彼の免疫機能不全ととらえるのか。口や鼻にウイルスが侵入しているのに免疫機構はほとんど働かず、味覚細胞と嗅覚細胞の一部がやられたぐらいですんだということでしょう。体力はありますから。あの京都産業大の学生たちもそうです。自覚症状がないから2次感染、3次感染まで起こしたのでしょう。

 SARSの時はアジアの病気で終わりました。今回は中国からイタリアへ飛んであっという間に世界中に広がりました。アメリカはもともとまともな医療保険制度がないのですから犠牲者が増えます。オバマケアをこわしたトランプによって、何人もの命が奪われました。同じように、イギリスの人々はサッチャーによってたくさん殺されたと言ってもいいでしょう。

 それよりも、世界中で伝統的な食生活が失われ、ファストフードとジャンクフードがはびこることで、人々の免疫機構は大きく傷ついています。従来のコロナウイルスのようにカゼですまされないのは、受け止める人間の側の問題です。

                                           (河合左千夫:㈱やさい村)



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