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連載 ネパール・タライ平原の村から(103)
ロックダウン31日目の覚え書き

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その103回目。


 人口13億に対して医療設備が不足する隣国インドのコロナウィルス感染の予防措置に合わせ、ネパールでも2月末から予防措置が次々と強化されました。3月24日からはネパール全土でロックダウン、都市封鎖/外出禁止となりました。全フライトの運航停止、車両運行の禁止、インドとの国境の封鎖といった措置がとられています。

 ネパール政府はハイレベル調整委員会を開き、感染拡大を防ぐため8項目の決定を行いました。すなわち、◆医療上の緊急事態や食料購入を除き外出してはならない。◆各事務所責任者は医療・治安・食料・水・牛乳・電気・通信・税関・検疫・ゴミ処理など重要なサービスを除き休暇を許可しなければならない。◆医薬品・医療機器製造・食料品・水・牛乳・エネルギー会社を除く民間産業は従業員に休暇を与えなければならない――などです。

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 この間、中国政府からは医療物資やPCR検査キットなど巨額の支援が行われました。大気汚染の改善で、インドのパンジャブ州ではヒマラヤが30年ぶりに見えるようになったそうです。所得補償はありませんが、低所得者層には食糧配給が行われました。カトマンドゥなど各地では、家賃無償を表明する人がいるとの報道がありました。

 一方で、旅行会社による日本行きチャーター便(250席)が、残された旅行者や在留者を乗せて出発しました。ロックダウンが3回にわたって延長される中、カトマンドゥから地方へ数百キロ歩く帰省者も出ました。首都から180キロに位置する地元カワソティでも、西部ネパール各地へ向かう32人のグループに、自治体や有志による炊き出しが行われ、その後準備した大型トラック(許可車両)で目的地に運ばれました。とはいえ、未だ首都圏には外国人旅行者1000人と地方からの労働者が立ち往生し、インド国境の検問でも相当数の出稼ぎ労働者が帰れず足止めされている状況です。

 ネパール政府の対策は、まず早めのロックダウンを行い、経済的損失などは後から考える、という感じでしょうか。

 かつて当研究所でも講演された美馬達哉さん(本誌第82号、2010年10月参照)が、ロックダウンの「効果」について論じているのを目にしました(「新型コロナロックダウンの効果とは? 史上最悪のパンデミックの教訓」ウェブマガジン『現代ビジネス』)。

 そこでは、1918年~19年のスペイン・インフルエンザ流行の米国では死亡率そのものに大きな影響がなかった事例に触れ、ロックダウンで感染症ピーク(医療崩壊)を減らす可能性はあるが、都市により感染パターンの違い、また種類が異なるコロナウィルスでは効果は未知数だそうです。改めて考えさせられる内容です。

■普段は人々で賑わうカワソティーの町だが……

 インドやネパールでロックダウンが発表され、世界人口の約1/3がロックダウンの状態となった、ちょうどその頃。日本政府だけがオリンピック延期とか和牛商品券とか、コロナ対策で経済対策が議論されていました。大儲けが最優先で人命はその後に考える、という感じでしょうか。

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 非常事態だ、ロックダウンだ、と言われても、小さな農家農村では、小麦を刈り菜種を刈る。雨が降り夜の灯りにカゲロウが舞うとトウモロコシの種を蒔く、いつもと変わらぬ営みが続いています。

                               (藤井牧人)




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