HOME過去号>184号  


コラム 南から北から

島の暮らしと農業と


 今回は、種子島について詳しく紹介したいと思います。南北58km、東西幅6~12km、標高最高282.4mという平坦で細長い種子島。一市二町から成り、私の住む中種子町は、その名の通り、島の中央部の最もくびれたところに位置しています。

 人口は約8000人。高齢化率34%と高いですが、前回もお伝えしたように、とても元気な高齢者が多いです。町に一つだけある診療所はお年寄りの語り場となっていて、いつも賑わっています。病院が少ないせいかドラッグストアが異様に多く、まるで聖地のようです。コンビニはありませんが、生活に必要なものは全て手に入ります。

            ※      ※      ※

 町の中心部を外れると、田畑や山林ばかり。とにかく竹が多く、畑を一年放置すると、すぐ竹山になってしまいます。畑にとっては、にっくき竹ですが、貴重な食材でもあります。高い山や建物がないので、車で少し走れば海が見えます。西側に12kmにわたって続く長浜海岸には、アカウミガメが産卵に訪れるほど美しい自然が残っています。小・中・高校は一校ずつあり、ほとんどの人が高校卒業と共に島を出てしまいますが、Uターンする人が多いのは、そんな自然を求めるからかもしれません。

 隣の市ほど栄えず、隣の町みたいにロケットという目玉もない、そんな中種子町ですが、農業では負けていません。農業の就業人口は、約33%で島内一位です。年平均気温は19.6℃。サトウキビやバナナなどの亜熱帯植物の北限と、イチゴや米などの温帯性植物の南限を同時にもつ珍しい島で、多種多様な作物を育てることができます。

 サトウキビと、日本で初めて栽培に成功したサツマイモが主に作られていて、全作付面積の62%を占めています。私たちも、この二つを中心に、米、ジャガイモ、漬物用大根、ブロッコリーを作っています。

 一年中温暖なイメージのある種子島ですが、冬の平均気温は10℃程度。北西の強い風が吹き、体感では能勢より寒く感じることもあります。そんな冬は農繁期で、サトウキビ、ブロッコリー、大根、ジャガイモの収穫をします。春になると田植え、サトウキビ、サツマイモの植付け。夏には稲刈り、草取りなどの維持・管理作業。秋にはサツマイモの収穫が始まり、冬に向けてブロッコリー、ジャガイモの植付け、大根の播種。一年の作業の流れはこんな感じです。収入が秋・冬に偏りますが、台風の多い島ならではの作物体系で、自然と上手く付き合っていくためには仕方ないと実感しました。

             ※      ※      ※

 自家用の野菜は家庭菜園で栽培し、時々、近所の無人市に出荷しています。島には無人市が多く、いろいろな人が出せるものを出し合っています。離島なので、波が高いとフェリーが出ず、物資が届きません。そんな時、島内で穫れた野菜たちは、とても心強い存在です。地元で生産、消費する仕組みが大切だと感じました。

■はるか海を望む
 最近では外国人観光客や輸出に力を入れてきた結果、今回の新型コロナウイルスの問題で大きな影響を受けてしまいました。こんな時だからこそ、国産のもの、地場のものを見直したいし、消費者の意識が変わることで、生産現場の意識も変わると思います。その意味では、消費者として生産者として、これからを考えるいい機会となりました。

 渡り鳥のアサギマダラがやって来る季節になりました。畑の周りの草払いに竹払い、毎日、草刈機を背負って腕と腰がパンパンですが、ふと見る蝶に癒されています。

                     (古市木の実:鹿児島県種子島在住)



©2002-2020 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.