HOME過去号>183号  


市民環境研究所から

新型コロナ禍でも忘却を許さず


 いつの間にか3月も中旬を過ぎ、本稿の締め切りが迫っていることに気づき、久しぶりに市民環境研究所のパソコンに向き合っている。窓外は数分刻みに天気が変わって行く。青空が出ていて明るい春の日差しがあったかと思えば、今は霙が激しく降っている。気温も上がらず、部屋は寒い。

             ▼      ▼      ▼

 昨年末から関わってきた京都市長選に敗れ、ハッと気づくと今度は新型コロナウイルスの襲撃である。中国は湖北省武漢市の出来事と思っていたウイルス病は横浜港に接岸した豪華客船内での発生が報じられ、日本のこととなり、世界中のこととなった。テレビ画面に毎日示される世界地図の発生国データでは、アジアもヨーロッパも南米もアフリカも区別なく発生国に赤色が塗られている。もはや数ヶ国の問題ではなく地球規模の問題になった。

 その中で、中央アジアだけは赤色が塗られていなかった。筆者がこの30年間、通い続けているカザフスタンはどうかと思い、カザフの友人にメールで問い合わせた。友人からの返信では、カザフでも罹病者が発生し出したという。最大都市のアルマティで7名、首都のヌルスルタンで2名の患者が確認され、入院しているそうだ。

 カザフ政府は、カザフスタン国民の渡航が推奨されない70ヶ国のリストを発表した。アルマティ国際空港では、「コロナウイルス感染症の発生により、カザフスタンへの感染症の持ち込みと拡散を予防する目的で、疫学的状況が好ましくないことから、以下の国々には渡航が推奨されない」との決定が掲示されている。その上位10ヶ国は「中国、韓国、イタリア、イラン、日本、ドイツ、フランス、シンガポール、香港(中国)、米国」である。

 この20年ほど、カザフへの航路は関空から韓国の仁川に飛び、エア・アスタナ航空機でアルマティに行ったが、この便も週5便から1便に削減されていた。しかも、カザフに到着してから14日間はアルマティ市内の宿に滞在し、病状がないことを証明するまで地方への移動はできない。日本に帰っても14日間は自宅待機と決められているから、これではカザフに出かけるわけには行かない。

 「20世紀最大の環境改変」と言われ、9割の湖面積が干上がったアラル海旧湖底砂漠での植林事業をこの10年間続けてきたが、当分は出かけられない。多くの国際事業も国内事業も停滞停止状態に陥っているのだろう。そして、人々の生活は苦しいものになっている。

 新型コロナウイルスとの戦いはどれほど続くのか。まだまだ誰も予測できない状態である。今は身近な範囲での感染がこれ以上進まないよう、自分の身を守ることを中心に、心を配るくらいしかないだろう。

              ▼      ▼      ▼

 東北大震災が9年前に発生し、福島第一原発の大崩壊によって国内難民となった福島や周辺地方の人々と連携し、原発の早期全廃を求めて京都で始めた「バイバイ原発・きょうと」集会も、今年は残念ながら中止した。反原発運動の歴史的違いを乗り越えて、毎年3000人以上の人々が円山野外音楽堂で集合し、市役所までのデモを「オールきょうと」でやってきたが、コロナウイルス感染防止のために中止せざるを得なくなった。

 とはいえ集会当日、円山音楽堂の観覧席は無人ながら、ステージには決議事項用に準備していた横断幕が何本も張られた。

 曰く、●福島原発事故によって奪われた暮らし・健康・地域社会を国と東京電力に償わせよう。●東京電力に旧経営陣の刑事責任を東京高裁で認めさせよう。●避難者の切捨て、汚染地域への帰還強要は許さない。●お金まみれの高浜原発動かすな。●老朽原発をはじめ、すべての原発の再稼働をやめさせよう。●脱原発社会を1日も早く実現しよう。

 コロナウイルスの脅威の中では動きは鈍るだろうが、これらの呼びかけは多くの人々の共感を得て実現して行かねばならない。

 福島原発の崩壊から9年も経つのに、なんの後始末もされないままで、放射能に汚染されたこの国で復興オリンピックなどとウソを言い続ける――。そんな安倍内閣との闘いは、1日たりとも休むことはできない。改めて決意表明をしたところである。

                      (石田紀郎:市民環境研究所)



©2002-2020 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.