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連載 ネパール・タライ平原の村から(98)

ありあわせの素材で暮らす

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その98回目。



 稲刈り脱穀が終わり、「バカリ」と呼ぶ竹を裂いて編み合わせた壁材の中に、籾米を流し込んで保管した日の話。

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 今年から、米の余剰を置く場所がないので、戸外の軒下に小型のバカリを1つ追加することにしました。乾季は雨が少ないので、たぶんこれで大丈夫です。このバカリ、ご近所の水田を所有しないお年寄りが米との交換で作りました。

 バカリは竹編みなので籾米がこぼれないよう、湿らせた油粕を塗って隙間を埋め堅めます。雑穀や乾燥野菜を干すネパール農家の必需品、竹編みの蓑にも同じように油粕が用いられます。バカリの底には板が引かれ、板とバカリの設置部分の隙は、牛糞とモミガラと土を混ぜて塗り固めます。

 最後に使い古しの蚊帳を吊るして、バカリの上部を覆う長さに切り被せ、スズメ除けネットにして、ようやくほっとしたところです。

 ところがその日の晩、夕食中に騒がしく地面を棒で叩く音がするので、表に出てみると、隣家の側で蛇を追い払っていました。その蛇があろうことか、わが家の籾米を保管したバカリの下に潜り込んでしまいました。

 こんな時期にと思いつつ、ケータイの灯りで照らして、長い竹棒で突いてみると“シャーシャー”と威嚇するので、これはコブラだとわかりました。

 追い払えばよいと思ったのですが、妻曰く、コブラは仕留めないと暖かいワラ山の中などを住処にするかもしれず危険なのだ、と。妻は近所のピッタム君を呼びに行ったのですが、留守なのでケータイに連絡。さらに妻の農作業仲間、そういうことに詳しそうなトゥロカンチ(末女の上の子の意味)に連絡したら、昨日近所のシバラジ兄さんらがコブラを仕留めたと聞いたから呼んで来るわ、と。

 しばらくして、トゥロカンチと灯油の入ったペットボトル片手にシバラジ兄さんら、ちょっと酒の匂いがした陽気なおじさんらがかけ付けて来ました。

 “照らしてもどこにいるのかよく見えん”とか、“もっと頑丈な棒はないのか”とか、“あまり棒で揺すると逃げるから”とか。

 統率がとれてないようにも見えたけれども、竹棒でサッと引きずり出し、遅れて来たピッタム君が恐れることなく、コブラの後頭部を叩き、シバラジ兄さんがペットボトルのキャップの穴から噴射する灯油を何度もかけて、弱らせ仕留めました。

 コブラは灯油が苦手らしく、シバラジ兄さん宅では暑季、戸外で就寝前、近辺に灯油のスプレーをかけるとのことです。

 最後に仕留めたコブラ。飼っている犬に見せ、こいつが出たら吠えるようにと教えた後、コブラは蛇神だから牛糞のティカ(吉祥の印)を与えて、穴に埋めて葬らなければ、と妻は昔のしきたりを語りつつ、結局もう夜も遅かったので、くぼ地にポイと捨てて一件落着。
  ■撹籾米を保管するバカリ

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 竹編み、油粕、牛糞、使い古しの蚊帳、灯油、ミネラルウォーターのペットボトル。そこら辺にある、ありあわせの素材の1つ1つに、生活の知恵がたくさん詰まっているのが、ここでの暮らしなのです。

                                    (藤井牧人)



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