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地域から政治を考える

安倍政権の「安定」に思う

人々を立ち上がらせるような対抗軸
いまこそ求められている



 安倍政権の嘘にはへきえきするが、歴史的に権力は嘘をつくものと相場は決まっている。どの権力であろうと、権力は国民を恐れ、嘘と暴力で国民の怒りを鎮圧してきた。

 キリストが復活したときも、ユダヤの権力者たちは見張っていた兵士たちに金を渡し、“キリストの遺体は盗賊に持って行かれたと触れ回れ”と嘘を流した。これは、民衆がそれを知ればキリストへの信仰を強めると思ったからである。

 いま世界では、既得権益への抗議行動が拡大している。レバノンではSNSの無料通話に税金をかけるという政府の政策に対して多くの民衆が立ち上がり、それが宗教各派の利権構造にまみれている政府に対する抗議行動に拡大した。

 また、チリでは地下鉄の運賃の値上げへの抗議から抗議行動が拡大した。同様に、エクアドル、アルゼンチン、ジンバブエ、ヨルダン、ハイチ、イラク、そしてイランでも同様の事態が発生している。共通しているのは、緊縮政策と生活必需品の価格の上昇が引き金となって、反政府デモへと拡大していることだ。

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 日本でも、これだけ福祉、社会保障など国民のセーフティネットが削られ、新自由主義政策のもとで賃金が一貫して低下し、おまけに消費税の増税が行われているにもかかわらず、何事もなかったかのように、少数の抗議者以外に広がっていない。

 その上に「嘘」である。しかも、すぐわかるような嘘をついて国民の怒りを回避しようとしている。およそ国民をバカにしたつじつま合わせである。そして、マスコミや官僚などを買収し、事実を隠している。キリストの昔から行われていることではあるが、不都合な真実を隠している。

 自分に近しいものに税金を使い、政権を支持する企業には減税で応え、国民には緊縮を強いながら増税するという、昔の王様がやっているような政治である。はたして先進国(これは最近怪しくなっているが)で民主主義国の政治なのかと思ってしまう。

 もうそろそろ、国民の怒りが他の諸国と同様に爆発してもいいはずなのに、11月7日に投開票された高知県知事選挙では、野党統一候補が敗北し、自公候補が当選した。また、高知市長選挙では、現職で立民、国民、社民に推薦された候補が当選した。いずれも、投票率は47.67%、43.40%と半分に満たない。

 日経新聞の世論調査を見ると、安倍内閣の支持率は下がったとはいえ50%もあり、不支持の37%をはるかに上回っている。

 詳細を見ると、安倍政権の政策で評価されているのは「外交防衛」となっているが、これも理解しがたい。外交で成功している例はないし、むしろ日韓関係は最悪になっている。防衛といっても米国の押し付けで高価な装備を買わされているだけだろう。それなのに、評価されるのは、「外交の安倍」を宣伝してきたマスコミのおかげだろうか。

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 日本は経済成長どころか、デフレを脱却できないまま、国民の生活はさらに困難に曝され、国民の生活と将来に関わる教育や福祉への支出は削減され続けている。大企業にいくら減税をしても、その結果大企業がいくら最高の利益を上げても、その恩恵は国民に届いてこない構造がある。

 “他に代わりがないから”とか“他に任せると状況が悪化するかもしれないから”といった理由で、こんな現状をこのままにしておいていいのだろうか。むしろ、政権を本気で打倒する闘いが必要ではないだろうか。

 もちろん、そのためには、国民の怒りを焚きつけ、立ち上がらせるような対抗軸が必要だ。改憲阻止なども大切な課題だが、残念ながら、すべての人に実感として届いているわけではない。“自分の生活とは関係ない”――そう思っている人々に届くような対抗軸がいまこそ求められている。

                                         (戸平和夫:北摂反戦民主政治連盟)



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