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地域・アソシエーション研究所第18回総会 報告

歴史的な転換期とともに
活動主体の転換期をも見据えて


 去る11月15日(金)、茨木市のよつ葉ビルで当研究所の第18回総会を開催しました。当日は各所から30名以上のご参加をいただき、前期の活動報告・総括と来期の活動方針について承認をいただくことができました。以下、簡単ですが報告します。


冷戦崩壊から30年


 毎年の総会では総会議案書の冒頭で、主にこの1年の出来事を振り返って論議の題材としています。今回は時間幅をやや広くとり、東西冷戦の終焉から30年にちなんで、あれこれ考えてみました。

 いまから30年前の1989年といえば、強く記憶に残っているのが、6月4日に中国で起きた「天安門事件」です。自由と民主を求める学生や労働者を「人民解放軍」が武力で蹂躙した光景は、わずかに残っていたであろう「現存社会主義」への共感を最終的に打ち砕く役割を果たしたと言えます。

 とはいえ、まさかそれから半年後のうちにベルリンの壁が崩壊し、米国とソ連(当時)の首脳によるマルタ会談で東西冷戦の終結が宣言されるとは、夢にも思わなかったのも事実です。

 ともあれ、こうした一連の出来事を受けて、国内外を問わず喧伝されのは、資本主義経済システムやリベラルデモクラシーの勝利でした。一部では“人類が理想を目指す歩みとしての歴史は終わった”とまで言われたものです。

 もちろん、資本主義経済とリベラルデモクラシーはさまざまな問題を孕んでおり、その勝利をそのまま首肯できるわけではありません。しかし、それまで代案となってきた現存社会主義の実情が、自らの謳う理念とはかけ離れたものだったと判明した以上、もはや現存社会主義に頼ることはできず、改めて資本主義経済とリベラルデモクラシーに対するトータルな代案を模索しなければなりません。

 当研究所の名称にある「アソシエーション」とは、そうした模索へ向けた立脚点を示すものです。国家主導による上からの変革ではなく、連帯的なつながりによる下からの自発的な運動、その積み重ねを通じて、新たな変革の展望を見出そうとするものでした。その意味では、冷戦崩壊は一つのチャンスでもあったのです。

 もっとも、冷戦崩壊後の30年、そのチャンスを生かすことはできていません。利潤追求のためにすべてを競争と効率に委ねる新自由主義が世界中を席捲し、格差の拡大や社会の分断を生み出しました。バブルと恐慌を繰り返しながら、富者は貧者を食い物にますます肥え太っています。かつて現存社会主義が曲がりなりにも示したような、現状を批判し、新たな社会の展望を示すトータルな代案が存在しないことが、こうした状況を許している原因の一つであることはたしかでしょう。

 とはいえ、こうした現状に怒りを覚え、変革に立ち上がる人々は常に現れています。最近では、フランスの黄色いベスト運動や共産党支配に抗する香港民衆の抗争、中東のレバノンやイラク、南米のチリでも民衆が街頭に繰り出し、自らの要求や政治主張を訴えています。こうした運動の多くは、「右/左」「保守/革新」といった既成政治の枠組みに収斂されることを拒否し、直接行動で訴える不定型な運動です。不定型であるがゆえに権威主義や排外主義に接近する可能性もありますが、逆に民衆の自己解放に向けた新たな政治の枠組みを引き寄せる可能性も孕んでいます。日本では明確な形で現れてはいませんが、客観的条件はそれほど違っていないはずです。

 そうであればこそ、不定型な変革への願望を新たな社会の展望を示すトータルな代案の模索へとつなげていくような、理論と実践の枠組みが求められるのは当然です。この点で当研究所としては、改めて「アソシエーション」に軸を置く重要性を強調しつつ、自らの役割を果たしていきたいと思います。


「地域」と変革の関係を問い直す

 また、冷戦終焉と現存社会主義崩壊は、「政治権力」や「制度」に依拠した社会変革の展望にも反省を迫るものだったと言えるでしょう。人々の具体的な日常生活のあり方や人間同士の関係が変わらない限り、いくら外側から枠組みを強制したところで、枠組みがなくなれば容易に元に戻るのは明らかです。

 その意味で、これも当研究所の名称にある「地域」への着目が生じます。日々の生活が営まれ、多様な関係が取り結ばれる場としての「地域」こそ、変革の地盤に据えられるべきだとの問題意識を示しています。その背景をなしているのは、当研究所の設立にあたって後ろ盾となった北大阪商工協同組合や関西よつ葉連絡会など、北摂地域で歴史的に積み重ねられてきた政治活動や事業活動です。

 もっとも、「地域」に内在したからといって、自然に変革の地盤が形成されるわけではないでしょう。「地域」が社会変革へとつながるには、「地域」にそうした意味づけを行う視点が必要です。それは外部世界との関係において「地域」を意識したり、個別の事例ではなくトータルな代案の必要性を意識したりすることによって得られるでしょう。そうでなければ、「地域」への内在は自己満足に終わってしまう危険性も含んでいます。

 これは、北大阪商工協同組合や関西よつ葉連絡会の事業活動についても言えるでしょう。事業活動が人々を結びつける強い力を持っていることはたしかですが、そうした力の源泉は人間関係だけでなく利害関係も含んでいます。むしろ現状では利害関係の比重が高く、人間関係もそれに引きずられがちです。そうした中で、いかにして人間関係の比重を高めていけるか、その点が顧慮されなければ、事業活動は単なる資金源に過ぎず、事業活動の衰退が他の諸活動の衰退を招く可能性も考えられます。

 北大阪商工協同組合や関西よつ葉連絡会の創設期を支えた世代にとっては、こうした問題の構図は前提として意識されていたようです。だからこそ、「地域」に内在し、事業活動を継続しながらも、常にその意味を捉え返そうとしてきました。当研究所を設立したのもその一環でしょう。

 しかし、いま事業活動の中心を担っている世代にとっては、必ずしもそうではありません。歴史的・社会的な条件が異なる以上、当然でしょう。そもそも、前提にしていたはずの問題意識が知らないうちに変質することもよくある話です。

 むしろ、そうだからこそ、「地域」で自己満足したり、事業活動を自己目的化するような傾向に対抗する動きが不断に必要とされるはずです。単なるお題目でもなく、外からの枠付けでもなく、活動主体の確信を深めていけるような働きかけが求められます。この点でも、当研究所の果たすべき役割があるものと考えています。


「内向き」傾向に対する指摘

 以上の問題意識に対しては、特段の批判や意見が寄せられたわけではありませんが、研究所の姿勢について、会員でもある豊中市議の木村真さんから指摘をいただきました。以下に大意を紹介します。

 「自分はかつて研究所の運営委員をしていたことがある。議員活動に忙しく、それほど深く関われたわけではないが、当時はもっと対外的な活動が多かったように記憶している。それに比べると現在は、北大阪商工協同組合や関西よつ葉連絡会のための研究所になってしまったように感じる。

 研究会や講演学習会の呼びかけなどもグループ内に閉じられ、実施するのもグループのビルで、“内向き”傾向にあるのではないか。もっと外に開いた活動を考えてみてはどうか。」

 この間を省みて、指摘はたしかに当たっていると思います。というのも、私自身に則して言えば、㈱よつば農産で働いた3年間を境に、それ以前とそれ以後で自覚的にポジションを変えているからです。

 いまから10年ほど前あたりは、研究所として外部の諸団体と連携しつつ、反グローバリゼーション関連の企画や行動を頻繁に行っていました。それらは、たしかに目に見える研究所の活動であり、私にとっても貴重な経験を蓄積する機会でした。しかし、はたしてそれが会員の中でも大半を占め、現実に研究所の活動を支えてもらっている北大阪商工協同組合や関西よつ葉連絡会にとって同じような蓄積の機会になったかといえば疑問でした。

 ㈱よつば農産で働く中で、この疑問はさらに深まりました。日々の事業活動に追われる中では、一般的な議論や学習をする意欲はなかなか湧きません。一方で、自分の携わる仕事がどのような社会的意味を持ち、どのような可能性を展望できるのか、といった問題については関心が高まりました。

 北大阪商工協同組合や関西よつ葉連絡会は外から見れば特異な性格を持っていますが、内部にいる人々はそのことあまり自覚的に捉えていません。だからこそ、内部にいる人々に今後の方向性を考えるための材料を提供したり、議論の場を設定したりすることこそ研究所の基本的な役割ではないかと改めて思い直したわけです。

 とはいえ、当事者としては、必ずしもそれが「内向き」だとは捉えていません。今期も国内外にフィールドを広げ、外部で得られた知見については、それなりに内部に還元できたと考えています。

 その上で、木村さんの指摘を前向きに受けとめ、さらに活動の幅を広げていきたいと考えます。


来期も活動のさらなる発展を

 さて、研究所の活動の柱の一つである研究会活動について言えば、新規に開設したカタログ研究会は、関西よつ葉連絡会の関係者だけでなく、これまでとは異なる参加者を得ることができました。参加者の一人、㈱安全農産供給センターの吉永剛志さんには、当研究所の来期の運営委員に加わっていただくこともできました。

 また、足かけ3年にわたって継続してきた「よつ葉の地場野菜」研究会は、具体的な実地調査が終了し、遠からず成果を形に残して終結する予定となりました。来期、新たに研究会を組織する余力はありませんが、研究所が基本的なフィールドとする「協同」「連帯」「アソシエーション」に関わる理論や実践について、さらに北大阪商工協同組合や関西よつ葉連絡会と連携する形で取り組むためには何が必要か、考えを深める機会にしたいと思います。

 来期の方針に関連して言えば、これまで取り組んできたフィールドワークについて、私たちの身近にありながら日常的には見過ごされているような場所を対象に継続していく予定です。

 また、日本の現状を逆照射する地域として、とくに福島をはじめとする東北、沖縄の2つの地域を対象に取り組んできた訪問企画ですが、来期は沖縄を訪問するつもりです。

 他方、これまで2回にわたる総会で“来期こそは実現を”と提案した「地域と国家を考える」シリーズは、提案者がカタログ研究会の主宰者でもあり、今期も実現するための時間が取れませんでした。中国を軸とした東アジアにおける帝国秩序と近代国家システムの歴史的展開を考える内容であり、昨今の情勢とも関連するタイムリーな主題です。それだけに、拙速に陥ることなく、着実に具体化していければと考えています。

 以上、簡単ながら第18回総会について報告しました。来期もよろしくお願いします。

                                                       (山口協:当研究所代表)



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