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アソシ研リレーエッセイ

歴史的経験の継承と「確信」


 先日、北大阪合同労働組合(北合同)の定期大会が行われ、「若手」のSさんが新書記長、Nさんが新執行委員に就任、執行部の世代交代が進んだ。

 その2人から「若い人たち向けにHPを一新したい。ついては北合同の歴史も紹介したいので何か資料を」と要請された。岩井会の西川さんに送ってもらった資料の中に、故・上田等さんの「労働者を工作するについての立場(考え方と方法)」と題するレジュメがあった。その冒頭部分を紹介する。

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 ◇労働者階級は自らの要求を自らの力で達成する能力と力量を持っているということについての確信に基づくことによってのみ大衆路線を進むことができる

 *いついかなる条件の下でもどんな労働者とでも無条件で団結・結合できる能力の養成(労働者はどんな労働者でも常に闘っているということ)。たえず人民の海の中で泳げ。服務せよ、自らを捨てよ。

 *労働者の要求を具体的に身で感じ取れる能力の養成(理屈でこじつけるのでなく、労働者を教えるのでなく、学び取ること)。

 *要求の本質とまわりの条件とのからみ合い(力関係その他)を実際に即して理解する能力―主観・願望主義の克服。

 *運動とは労働者の意識を変えて行うものではない。団結して行動する中で意識が経験を通して変わるのである。具体的要求で行動が起こるのであって、理屈で行動が起こるのではない。

 *大衆は要求に応じて組織をつくり出すものである―自主的創意性。組織は内容であり形式ではない。形態の押し付けは必ず組織を殺してしまう。

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 このレジュメは、上田さんが1982年に執行委員長に就任する際に、「北合同の活動の歴史の中に積み重ねられているたくさんの貴重な経験を正しく整理して身につける」ために当時の「若手」、つまり我々の世代に向けた学習会用に作成したものである。実は、他の資料と一緒にこのレジメも先の2人にそのまま渡そうと思ったのだが、留保してしまった。

 ひとつは、用語の問題も含め、このままでは何も伝わらない、ひょっとしたら拒絶感の方が強かったりするのではないかと思ったからだ。たとえば「労働者階級」という言葉自体、既成社会主義の崩壊による労働運動も含めた左翼運動の混迷の中で、もはや死語になってしまった感すらある。

 まして、北合同のような個人加盟のユニオンでは、相談に来る労働者の多くは職場で孤立を強いられ、会社からのみならず同じ労働者からハラスメントを受けていたりもする。現象だけを見ると「どんな労働者でも常に闘っている」「どんな労働者とでも無条件で団結・結合」という話は「絵に描いた餅」になりかねない。

 もうひとつは、このレジメから三十数年、我々自身が「世代交代・継承」を意識せざるを得なくなる中で、“では自分は、その後の経験を通して何をどう整理し、何を次に継承すべき「確信」として身につけてきたのか”と、改めて考え込まざるを得なかったからだ。我々の世代は、できたかどうかは別として、おおむね上田さんたちの世代の総括や経験を頭の片隅に置いて活動してきたのではないかと思う。「伝わらない」とすれば、当たり前だがそれは我々自身の活動の問題に他ならない……。

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 言うまでもなく、問題は北合同に限った話ではない。レジメの「労働者」を「人民」に代えてみれば明らかなように、提起は変革を目指す運動全体に関わるものだ。キーは「人民は自らの要求を自らの力で達成する能力と力量を持っているということについての確信」だろう。

 しかし、ウジウジ自問を繰り返していても何も始まらない。それは一生の努力目標なのだから。「自由・民主」を求め香港で、「環境破壊ストップ」を掲げ世界中で若者たちが立ち上がっている。まずは次代を担う若者たちと共に働き議論し闘い続けること。その中で最期まで考え続けるしかないか……などと気を取り直したりしている今日この頃。

                                                         (津林 邦夫:NPO法人関西仕事づくりセンター)



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