HOME過去号>177号  


よつ葉の地場野菜研究会 報告

改めて考える「産消提携」の意味

 関西よつ葉連絡会が続ける地場野菜の取り組みの現状を調査・分析する研究会。2017年5月の開始からおよそ2年半。生産農家、流通職員、消費者会員を対象にアンケート調査を行い、とりまとめ役の綱島洋之さん(大阪市大)の奮闘で、作業は最終段階にさしかかった。綱島さんに調査概要と簡単な報告をお願いした。


 本誌第171号(2019年3月)では、生産者を対象に実施したアンケート調査の結果を報告しました。その後、配送および事務担当者、そして消費者の会員の皆さんにも調査にご協力いただきました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

 本稿では、これらの新たに得られた調査結果の概要とともに、これまで本研究会が実施してきたさまざまな調査の結果を統合すると何が見えてくるのか、簡単に報告したいと思います。


1.消費者アンケート結果

 全部で226名の方にご回答いただいた。まず、回答者およびご家族の皆さんの年齢は図1(次頁)のとおりである。

図1 回答者と家族の年階層別人数
 回答者の平均年齢は現在58歳、入会時42歳であり、会員歴が20年近い方が大勢おられることが分かる。主たる生計手段が年金、家族の稼ぎという方がそれぞれ34%、59%である。産消提携運動は消費者側も高齢化が進んでいると言われている。確かにその通りであるが、関西よつば連絡会を知ったきっかけについて「家族や知人から聞いて」が58%を占めたことを考えれば、回答者のご家族が今後も購入を続ける可能性は残されている。

 そして、会員になろうと決めた理由は、「商品の質が良さそうだから」77%、「宅配が便利だから」43%、「配送費が無料だから」27%(複数回答可)など。つまり「質」と「宅配」がキーワードである。

 配達のときにお宅に「大抵いる」方が83%。その理由は主に「配送員が困らないように」という。むしろ、そういう方がアンケートに回答して下さったのかも知れない。配送員とやり取りする内容については、47%が「商品とは関係ない世間話をする」、34%が「以前届いた商品について感想を言う」、30%が「今回届いた商品について説明してもらう」とのことである。

 ふだん野菜や果物を購入するときに重視していることについて、アンケートでは皆さんに選択肢ごとに順位を付けるようお願いしたが、それを点数化して集計したところ、第1位から順に「旬のもの」「健康に良さそうなもの」「作りたい料理に必要なもの」「美味しそうなもの」「お買い得なもの」などとなり、一般的な消費者に比べて特に旬と健康を重視していることが伺える。さらに、回答者の多くは、野菜や果物を購入する際に一般小売店や他の宅配・通販業者をあまり利用していない(図2)。


図2 店舗や宅配・通販におけるよつ葉商品の地位
 それでは「地場野菜」について。まず、関係者から説明を受けたことはあるかという質問に対して、「ない」が42%、反対に「(説明の)内容を部分的に覚えている」「全て覚えている」はそれぞれ42%、3%である。それでも、野菜や果物のうちどれが「地場野菜」なのか把握している方は83%にのぼった。また、地場野菜を全くあるいはほとんど購入しないという方が12%おられた。その理由として主に「店舗を利用している(自分の目で見て買う)」「値段が高い」「省農薬ではなく無農薬のものが欲しい」があげられている。一方、「地場野菜」を購入しているという方が、商品を選ぶにあたり重視していることは、第1位から順に「減農薬」60%、「無農薬」58%、「季節感」51%、「鮮度」43%など、「特になし」という方はわずか3%である。「見栄え」「荷姿」という選択肢を選んだ方はいずれもゼロであることは特筆すべきであろう。後述するように、ここに消費者と生産者それぞれのこだわりに食い違いを見ることができる。

 次いで、商品に対する不満について。カタログに掲載されている写真と実際に届いたものが違うと感じる頻度は、45%が「全くない」、しかし32%が「数か月に1回くらいある」という。商品に不満があるとき「よつば農産や産直センターに」「配送員にクレームをつける」がそれぞれ24%、26%だが、「我慢する」方も40%いた。「我慢する」頻度は、「全くない」が37%、「数年前にあったきりない」が21%、「数か月に1回くらいある」が39%。クレームを付ける理由は主に「お互いのためになるから」。我慢する理由は「次から買わない」「自然のものなので仕方がない」など複数あげられた。クレームを付けたり我慢したりした実際の例としては「腐れ」が最も多い。「腐れ」は他の不具合に比べて表面化しやすい傾向にある(図3)。


図3 クレームを付けたり我慢したりした例

 「地場野菜」で悩ましいのが需給調整である。第一に、欠品について「他産地の代替品でも構わない」が68%、「他産地の代替品が届くくらいなら欠品でも構わない」が19%。「その他」の内容は、気にしないという方と代替品でも困るという方に大きく分かれた。また、そのときの対処法についても「他業者から買う」が36%、「ふだんから届く野菜に合わせている」が48%と、二分されている。例えば無農薬と低農薬を混同しないで欲しいというように、代替品として認められないものが届けられているという意見も書かれていた。

 第二に、「地場野菜」では、内容が配送側に一任される野菜セットを注文することもできる。これに対する好みも二分された(表1)。



表1 野菜セットを購入する頻度とその理由

 注文しない、あるいは既にやめた会員は、「単品の方が注文しやすい」として「何が来るか分からない」ことをデメリットとして捉えている。欲しいものに過不足が生じてしまうという。一方、「ほぼ毎週」など頻繁に注文し続けている会員は、その理由を「お買い得」「注文の手間が省ける」などの合理的なものだけでなく、食べたことがない、あるいはまったく知らない野菜との遭遇を期待している。知らない野菜が入っていたときは、61%が「レシピを本やインターネットで調べる」42%が「適当に食べる」という。その野菜が何であるかが分かれば自分で料理法を調べられる、あるいはレシピが付いているので楽しめるそうだ。内容量の変動については、「多い時に助かる」が39%、「少ない時は割高に感じる」が32%。ただし「多い時に困る」という方も14%にのぼる。野菜セットを食べきれない時があると答えたのは64%。その対処法は「保存食を作る」が41%、「お裾分けする」が33%、「ふだん作らない料理に挑戦する」が22%であり、「廃棄する」は4%に止まった。

 第三に、引き売り野菜についてどう思うかという質問に対しては、最多が「買うか買わないか実物を見て判断できるので有難い」が48%、次いで、「生産者を応援したいので、できるだけ買いたい」46%、「配送員を応援したいので、できるだけ買いたい」31%、「値引きされているので有難い」30%。否定的な回答は少ないが、それよりも「経験したことがない」と書かれた方が多くおられた。

 「地場野菜」は、一般小売店で売られている物に比べて割高であると言われているが、どのように会員は感じているだろうか。「いつも納得できないくらいに割高である」「納得できないくらいに割高なときがある」合わせてわずか7%に対して、「品質が良いので納得できる」69%、「生産者を支えるためなら納得できる」44%、さらに「そもそも値段が違うとは思わない」が17%である。どのような点で品質が良いのかを分類して集計したところ、「安全・安心」が78%、「美味しい」が48%、「新鮮」が26%、「無農薬・無化学肥料」が12%となった。冒頭で示したキーワードのひとつ「品質」の内容が、ここで明らかにされている。

 そして、会員になった理由と現在会員を続けている理由を比較すると、「配送員が信頼できるから」が圧倒的な伸びを見せ、「有機農業を支えたいから」「理念に共感しているから」が次いだ(表2)。「品質」がキーワードでありながら、会員はモノよりもコトを重視するようになったということであろうか。



表2 会員になった理由と会員を続けている理由の比較

 今後、生産者とどれくらい深く関わりたいかについては、「自分から積極的に関わりたい」1%、「よつ葉が呼びかける範囲内で最大限関わりたい」8%、「よつ葉が呼びかける範囲内でそこそこの関わりがあればよい」33%、「よつ葉にお任せしたい」53%、「直接には関わりたくない」5%、である。最初のふたつの選択肢を選んだ方に、考えられる関わり方の具体例をあげていただいたところ、「畑を見学するイベント」41%、「野菜作りを指導してもらう」36%、「料理を指導してもらう」26%に加えて、「その他」として多数の提案が出された。

 最後に、生産者や配送担当者に伝えたいことは何かという自由記述式の質問には、激励、感謝、提案、要望など140件の回答が寄せられた。また、会員以外の消費者一般に訴えたいこととして、67件もの熱いメッセージが集められた。質的調査法の手法を用いて分析した後、改めてその結果を報告したい。


2.総括―生産者アンケート結果と比較しつつ

 生産者アンケート結果の要点は以下の点に集約される。

 第一に、多くの生産者は、高齢で年金を受給しているためと考えられるが、家計における農業収入の地位は高くなく、さらに「地場野菜」から得られる収入の割合も多くない。一方で、ごく一部だが、家計のほぼ全てを農業収入で賄い、「地場野菜」を主たる収入源としている若手が存在する。以上ふたつの中間にあたる生産者は少なく、「地場野菜」で稼ぐ者とそうでない者の両極に二分されている。今後は少数の若手が主力を担うことになりそうである。今しばらくは「地場野菜」における全量引き取りは、年齢に拘わらず多くの生産者に評価されている。

 第二に、農作業で譲れないことについては、「美味しいものを出品する」が最も多く36.3%、次いで「減農薬」が34.2%、「特になし」が28.3%。自由記述欄に「無農薬で通せない品目があり農薬を使用せざるを得ない時は心を痛めます」とある。「減農薬」は妥協の産物であることが伺える。
 実は、この質問とほぼ同じ選択肢を、消費者アンケートで会員が野菜や果物を購入するとき重視していることについての質問でも使用した。結果を比較すると、消費者側は前述のとおりだが、生産者側の第1位は「美味しいものをつくる」36%、第2位は「減農薬」34%、第3位は「特になし」28%であり、「荷姿」や「見栄え」に配慮する方がいるというように、一定の隔たりがあることが分かる(表3)。


表3 「地場野菜」の出荷や購入にあたり生産者や消費者が重視していること
*値は各選択肢を選んだ回答者数の割合を各列の合計値が100になるように配分した数値。質問は複数回答可とした。

 消費者のこだわりは狭く深いのに対して、生産者は広く浅い、つまり流通側、消費側、生産者自身のそれぞれに配慮していることが示された。そして、消費者が言う「品質」とは、前述のとおり概ね「安全・安心」であり、それは恐らく減農薬栽培あるいは減(省)農薬栽培により達成できると考えられている。両者を厳格に区別し、無農薬でなければならないという意見もある。その結果、「地場野菜」が忌避されることもある。一方で、若手の生産者の中には、無農薬栽培をあきらめた結果として減農薬栽培、あるいは無農薬栽培が可能な作目のみを栽培するところに落ち着いた事例がある。この食い違いをどのように考えればよいだろうか。

 よつば農産に「産地野菜」を供給している他地域の産消提携団体にも意見を求めた。

 「全量引き取りを前提とした需給調整の方法は、生産者が世代交代していく中で単なる売るツールになってしまっている。個人的にインターネットでPRするような時代に、生産者組合とは何なのか。流通ルートを作った人の熱い思いを次世代に受け渡すためにはどういうビジョンが必要なのか。」

 「目標が生産者と消費者で共有できているか。お互い理解し合うための距離感が必要。やらなければならない理由付けがなければ、有機認証がついた輸入品でもいいということになる。若い消費者は、安全性など自分の価値観に合うかどうかで、買うか買わないかを決める。」

 消費者が自らの嗜好に合う生産者を選ぶようになることは、生産者同士が競合に曝されてしてしまうことを意味する。それが資本主義経済としては健全である。しかし、それで良いのだろうか、と問うてみる必要がありそうである。北摂協同農場は、自らの圃場で無農薬栽培したものでも敢えて「省農薬」と表示することにより、他の生産者が不利になることを避けているという。無農薬栽培の野菜を求めている消費者には、謙虚あるいは不親切、どちらと映るだろうか。ある私の知り合いで無農薬を追求している生産者は「勿体ない」と嘆いていた。

 実は私自身も無農薬で栽培した野菜を販売していたことがある。たかだか100坪程度の「実践研修農園」なので、地場野菜の生産者の方々と同列には論じられないかもしれない。ただ私は「安全・安心」というキャッチフレーズに違和感を覚えていた。いわゆるリーマン・ショックの直後、2009年に大阪市の長居公園で開催されたイベント「大輪まつり」では、出店にあたり次のようにアピールしていた。

--------------------------------------------------

「安全・安心」糞喰らえ!都市公園の戦闘的適正使用
堺産新鮮野菜直販―非認証有機栽培につき大変危険―



 前回の大輪まつりで「非認証有機野菜=戦闘的非言語」を出店してから、まる一年が過ぎた。当店が発したメッセージもむなしく、未曾有の経済危機が発生した。エリート・資本家階級が、肉体労働を蔑みながら、汗水たらさずに不労所得をむさぼることに没頭してきた結果である。しかし、連中は恥知らずにも、そのツケを自己責任として労働者階級に押し付けている。行政権力は、あたかも貧窮が犯罪であるかのように、公共財産を私物化し、司法権力もそれに追従している。さらに行政権力は資本家階級とつるんで、安全・安心を得るためには軍備増強や治安管理が必要だと嘯く。しかし騙されてはいけない。このような「安全・安心」など、本来の有機農業が希求してきた平和とは全く相容れない。だから敢えて言おう、これらの野菜は危険であると! イチゴ、ソラマメ、スナップエンドウ、うすいエンドウ、ニンニク、タマネギ、キャベツ、葉ダイコンなど、旬の朝どれ野菜の危険な味、是非ご堪能ください。

--------------------------------------------------

 今となっては恥ずかしい駄文であるが、有機農業を敢えて「危険」と言ってみることの是非については、読者の皆さんに忌憚なき批判を仰ぎたい。

 日本の有機農業運動の特徴として国際的に注目された「産消提携」だが、関係者の高齢化などにより停滞傾向にあると指摘されて久しい。その目的は単に安全な農産物を購入することではなく、農業の安定と食べ物の安全をめざすことにあるという①。

 しかし、それらは本当に両立できるのか。実は「食と農をめぐる環境教育」②において未解決の課題であるという。「食べ物の安全」が単に、無農薬栽培で守られるとされる消費者の安全を意味するのであれば、生産者同士が競合に曝されるという意味で「農業の安定」が脅かされる可能性がある。

 これらふたつの言葉が何を意味するのか、あるいはこれらにどのような意味を込めるべきなのか、改めて問われているように感じ始めている。これが本研究会で私が学んだ最大の成果であると思う。

  
①保田茂(1986)日本の有機農業―運動の展開と経済的考察、ダイアモンド社。
  ②野村卓(2009)食と農をめぐる環境教育―「食・農(生産・消費)」一体化の流れと教育実践の課題、環境教育19(1):113~124。


                         (綱島洋之:大阪市立大学都市研究プラザ特任講師




©2002-2020 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.