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市民環境研究所から

大学人よ、目を覚まし、立ち上がれ!


 参議院選挙も終わり、安倍への痛撃はなし得なかった。安倍自民党に日本人は怒りを持たないのだろうか。韓国ときびしく対決して国益を守ってくれていると国民は思っているらしいが、そう思わせ、データ改ざんや便宜供用や議員の忖度などなどから目をそらせるためだけの対韓国政策なのに、安倍はよくやっていると思っている。

我が家の前の交差点に面する民家には安倍の顔写真の大判ポスターが十枚以上貼ってある。“日本一汚い交差点”だと写真を撮りにくる人もいる。キャッチコピーとして、「明日の日本を切り拓く」などと書かれているが、「切り拓く」のではなく「切り裂く」安部政治だと見抜く人はいないのか、と情けない。

 そして軍需費は肥大化し、庶民の生活は質量ともに低下している。年金では生きていけないから2000万円を用意しておけと調査委員会がまとめ上げた報告書を受け取らないという。誰が発注した調査報告なのかと呆れるばかりである。野党連合も大した結果を出せなかった。

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 そんなニュースをぼんやりとテレビで眺めていると、就職活動で卒業後の進路も決まったが、気が晴れない学生がやって来て、しばらく雑談した。話はこの学生が4年間に借りた奨学金の返済をどうするかであったが、さして名案があるわけではなく、頑張って早期に完了して、自由な身になってくれと願う一方、50年以上も昔の自分のことを思い出し、実に呑気な気分であった自分を反省した。

 田舎の中学校を卒業する前に親父が定年になり、田舎の田圃を引き継いで農家として再出発した。高校までその田舎で過ごし、農作業を随分と手伝ったから、百姓もどきくらいにはなっていた。京都に出て、農学部の学生となったが、60年安保闘争に明け暮れて勉強もたいしてしなかった反省から大学院に進学し、修士、博士課程の5年間は奨学金と家庭教師による自活生活を続けた。

 親が働いていないので授業料もほとんどが免除されたので、なんとか大学院から追い出されることもなく終えることができた。学部の3年半と大学院の5年間の奨学金支給総額を現在の相場で計算すると低く見積もって500万円はあり、800万円以上にもなりそうである。とても返却できる額ではなく、大学院に進むとしても修士課程までが精一杯だったかもしれない。

 けれども、この時代の育英会の奨学金制度では教育職に就けば返還が免除されたから、大学に就職できる当てはなかったが博士課程まで残った。そして、ありがたいことに大学に職を得て、返還は免除された。

 現在の学生支援機構の奨学金にも貸与型だけではなく給付型もあるというが、それがどれほどの学生数に提供されるのかは知らない。奨学金に頼る学生数も増え、総額も増えているだろうが、次代の研究者や技術者を育てる気があるのなら、返還困難な貧乏人を支えてもらいたいものである。

 ところが、聞くところによると学生支援機構とは名ばかりの金貸し業にすぎないとも言われているそうである。大学院を出たものの、教育職や研究職は減らされているから、オーバードクターの連中は職探しに四苦八苦の状態である。そのような免除制度がなくても、苦しい経済状態に置かれた若者を救済する制度を構築する動きを大学人や教育関係者が立ち上げるべきであろう。

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 学生の奨学金だけではなく、研究者への研究費も、かっての制度とは大きく変わり、競争的資金を取れる研究分野はそれなりの研究資金を得られるが、地道な基礎的分野は研究費が全くない状態だという。大学関係者がこのような事態に対してなぜ戦おうとしないのだろうか。

 文科省や財界の言いなりになる教育分野の嘆かわしい現状を見るにつけ、大学人よ目を覚まし、立ち上がれと言いたい。安倍との戦いを大学が挑んでくれない限り、奨学金に頼ってでも勉強を続けようという若者はいなくなるだろうし、貧乏人の子供が頑張ろうと思っても術はない。

 そして、我が国の教育も研究も金が儲かるだけの分野が広がり、全体として研究活動は三流四流になるだろう。     

                                               (石田紀郎:市民環境研究所)




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