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地域から政治を考える

参院選の結果を受けて

改憲勢力の力量侮るべからず
山本太郎氏の動向に期待する



 参議院選挙が終わった。個人的には、投票した候補者がすべて落選し、残念なのはもちろんだが、毎回同じことの繰り返しには、正直うんざりする部分もある。

 そんな中でも、改憲勢力全体で参議院の議席の3分の2に届かなかったことは朗報と言えるだろう。ただし、3分の2から減ったとはいえ、改憲勢力は160議席を持っており、3分の2を取るのに必要な4議席くらいは何とでもなりそうだ。そういう意味では、これまでの力関係が大きく変わったわけではなく、改憲の道が閉ざされたわけでもない。

 自民党は前回選挙から9議席減らし、公明党も比例での得票を減らし続けているにもかかわらず、安倍政権は勝利宣言をした。

 一方野党は、立憲民主党が議席を倍増させたものの、国民民主党は議席を減らした。全国で10あった1人区で野党共闘が勝利し、自民の議席を減らすことに貢献したが、全体として決定的なものとなってはいない。

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 その一方で、今回の選挙では新しい流れが生まれた。それは、比例で2議席を獲得した「れいわ新選組」だ。代表の山本太郎氏は、個人の比例得票が99万票にのぼるという。まさに快挙である。

 なにしろ、山本氏が一人で立ち上げたのが4月。それが告示までに10人の候補者をそろえ、最終的には4億円近い資金をカンパで集めたのだ。山本氏の街頭演説は、たくさんの人を引き付けた。それも動員ではなく、人々が自然に集まってきたという。

 山本氏が一貫して強調していたのは、「消費税廃止」など個々の政策ももちろんだが、新自由主義によって浸透した、生産性で人間を判断するような価値観、弱肉強食を当然とするような社会風潮に対する批判である。

 人間は誰でも生きる権利があり、生きる価値がある。そんな誰でも生きられる社会をつくろうと、正面から呼びかけていた。もちろん、単なるスローガンではない。比例区の優先枠にはALS(筋萎縮性側索硬化症)と脳性麻痺の当事者を配置したことに、鮮明に現れている。

 まさに、与党や日本維新の会などが振り撒く、弱者を切り捨て、強者を守る政治に真っ向から対立するものである。

 個々の政策についても、改憲阻止などではなく、人々の生活に最も関わる「消費税廃止」、あるいは景気を底上げするための財政支出などを中心に置いた。こうした姿勢を「左派ポピュリズム」と呼ぶ人もいる。何と呼ぶかは別にして、生活の問題を前面に出していることは注目に値する。

 選挙運動の仕方も、既存の組織に依存せず、人々の自発的な結集と活動が支えになっている。これまで政治に接点のなかった人々の中からも、山本氏の訴えや姿勢に共感する人々がたくさん生まれたという。その結果、ポスティングからポスター貼りまで、市民のボランティアによって賄われたとのことだ。

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 一方で批判も少なくない。

 一時的な風に終わるのではないか? これまでのいろいろなブームと同じく、ほどなく消えてしまうのではないか?――などなど。現時点では何とも言えないだろう。

 とはいえ、山本氏は当初から“政権獲得”を明言し、衆議院選挙を目指している。その勢いを目の当たりにして、立憲、国民、共産、社民などの野党も共闘を望んでおり、山本氏自身も政権の獲得のために野党共闘の必要性を明言している。その意味では、当分“台風の目”となり続けることは確かだろう。

 今回の選挙を通じて、山本氏の最大の功績は、全体に低調な選挙情勢に波乱を持ち込み、政治をめぐる人々の関心を活性化させたことだ。この点については引き続き期待したいと思う。

                                          (戸平和夫:北摂反戦民主政治連盟)




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