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連載 ネパール・タライ平原の村から(93)

中途半端な副業=複業を営む


ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その93回目。



 生計手段の柱として、妻や歩いていける範囲の友人と手縫いや足踏みミシンで縫製したハンディクラフトを販売しています。「クルタ・スルワール」という、インドやネパール女性の上下セットの普段着があります。そのズボン部分にあたる「スルワール」を、僕らは勝手に“ネパールモンペ”と呼んでいます。

 くるぶし丈ですっきり見えて涼しく、履きごごちがよく、風通しよく、動きやすいこともあり、地元では日頃の農作業でも着られています。それを裾のところを絞ったデザインにしたり、タックを等間隔できっちり入れたりと、日本人好みの規格(型)に作り替えて、日本向けに販売しています。

 いろんな国の食材・料理が入ってくる現在、いろんな国のファッションも、抵抗なく着こなす時代でもあります。もちろん、ファッションに全く無頓着な僕の発想から始まった訳じゃないのですが……。

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 ハンディクラフトを作るメンバーはそれぞれ、農作業の傍ら近所の人たちから縫製の受注を受け、子育てをしながら家事の暇々に作業にあたります。それぞれ家の事情や受注量に応じて、呼びかけたり呼びかけなかったり、参加したり参加しなかったりとゆるやかです。
 ■スルワール(ネパールもんぺ)

 顔ぶれは、日本人みたいに几帳面できっちりしているけど、何時もゆっくりわずかな量だけ縫製するネワール人のお母さん。細かい雑務は夫に任せ、効率重視で一番早く縫い上げてくれるから、急ぐ時など助かる時もあるのですが、B級品もたびたび作ってしまうタマン人のお母さん。教えた通り言われた通り、真面目に一生懸命きっちり縫製してくれるのですが、一つ間違えると全部きっちり間違って縫ってしまうマガル人のお母さん。

 さらに、手際よく働くけれど、発送期限が迫っているのにペースを乱さず、野良で延々とヤギのノミ取りや水牛としゃべるルーティンを崩す気配が全く感じられないプン・マガルの…わが妻(“家畜の管理・観察をおろそかにしない”、とも言えますが)。

 こうして四苦八苦しながら、改善も進めて10年。当初は、稲刈りが終わった後“農閑期の女性らの貴重な収入です”を謳い文句にしてたのですが、そもそも農閑期にだけ縫製をしていたら間に合わず、収入にもならず。そもそも亜熱帯のタライには、日本で言う“農閑期”があるようなないような……。

 そもそも農業の機械化が進むにつれて農作業が一時に集中するようになり、1週間や1日の中に農閑期というべきか、“農閑週”や“農閑時”が案外たくさんあったり。

 それでも、自宅でできる内職として、ミシン1台で増収も大事だけれども、子育ても大事にしたい、ヤギとしゃべる時間も大事にしたい、自給的な暮らしも大事にしたい…というところで専業化せず、“甘いなぁ”と言われそうですが、中途半端な副業=複業を営んでいます。

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 ところが最近、物価や人件費の上昇が激しく、ロスを最小限に抑えたいこともあり、あまり気軽にあの人、この人に作業をお願いする訳にもいかなくなってきました。最近は実働2人だけです。ただ稼ぐことだけを考えていてはいけないと思いつつ、やっぱりちゃんと稼ぐことを考えないといけないと思ってみたり。やっぱり中途半端な複業の私です。

                                                                (藤井牧人)


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