HOME過去号>174号  


市民環境研究所から

若者たちへ、期待と反省


 先日、学生実習のお供で琵琶湖調査に出かけてきた。漁船2隻に学生と先生が十数名乗り込み、北湖の竹生島近くで水深、水温、透明度など水環境の基礎データを集めながら琵琶湖を理解するものだ。

 学生がどんな動きをするのか眺めていると、帰港後には調査機材などを船外に運び出し、宿舎に持ち帰っている。先生が大声で指示する必要もない。宿舎を退出するときも、いつの間にか後片付けを済ましていた。こんな若者もいるのだと嬉しくなった。

 とかく若者に対しては厳しい評価をしてしまい、後悔することが多いが、今回の実習は楽だった。

 市民環境研究所の隣に焼き肉屋があり、昼飯を時々食べに行く。京大生がよく来る店で、先週は隣の席に男子学生が2人座っていた。聴くともなしに会話が聞こえてくると、若い方が先輩に、「京大に入って、京大というブランドは得たが、それでなんぼのものか、なにをやったらいいのかと考えている」と問いかける声が聞こえてきた。

 驚いて顔を見た。若い学生に、原発や憲法問題を話す機会を持ちたいと思いながら、大したことができずにいる身にはうれしい会話だった。

 市民研に活動拠点を置いている「左京市民アクション」のメンバーに島津瑠美さんという女性がいる。彼女の活動にみんなが目を見張っている。彼女からのメールの一部を引用させてもらう。

 「私が“安倍9条改憲NO!3000万人署名”に取り組み始めたのは、2018年8月からです。署名が始まってから、随分日数が経ってからでした。理由は、国会で嘘の答弁を平気でするアベ首相が、請願書を真摯に受け止めたりするとは思えなかったからです。しかし、国民が民意を示すことができるのは、選挙と請願書しかありません。そう思い至りまして、署名活動を始めました。

 戦争する国になれば、若い人たちが、一番犠牲になりますので、若い人を重点的に取ることにしました。高校や大学の正門前の公道で、先ずは、彼等の目を見ながら、挨拶をします。

 この一瞬で、だいたいのことの行方が決まると言っていいほどです。そして、私の簡単な自己紹介をし、今の政治状況を丁寧に説明します。理解を深めるために、政治、戦争、憲法についての文章と、戦場を想像して詩を書きました。

 「何故、戦争はなくならないのでしょう」「自衛隊に国民を守る義務はありません」「この日本は今、危機的状況にあります」などの文章を、学生さんたちに説明しながら配布します。

 彼等は、一般の人より知識があり、加えて日本が戦争する国になれば、自分たちが、戦争させられることを知っているので、私に「戦争だけはしたくない。戦場になんか行きたくない。戦争を阻止してください」と訴えてくれます。

 高校生たちの反応は大変素早い。部活帰りの男子学生たちは、7人8人のグループで歩いているので、誰かが「知ってる知ってる。これは大切な署名だから、みんな書こう」と言ってくれると、一度に多くの署名が集まり、先輩、後輩まで呼んでくれます。

 大学生では、学部によって関心、理解力にかなりの差があります。やはり、一番理解力があるのは、法学関係の学生です。彼等は、私が説明をするまでもなく、現政権がしようとしていることを知っていますから、自ら進んで署名をしてくれます。他学部になると、高校生の方が知っているくらいです。

 しかし、知らないにも関わらず、彼等に説明をしようとすると、一方的な説明だけでは、判断できないのでと、署名には慎重です。それは、大切なことですが、彼等が左、右の考え方をまんべんなく勉強して判断してくれるかどうか心配です。まぁ、これを機会に勉強しますと言ってくれる言葉を信じたいです。

 署名数は3300筆に達しました。京都、滋賀の大学・高校を巡り続けます。

 一つ大切なお願いがあります。教育機関である学校が、権力に忖度して、戦争に反対し、平和を希求する私たちの活動を妨げるような恥ずべき行為だけはして欲しくありません。教育者として、厳に慎んでいただきたい。命と平和を愛する私たちとこそ、手を携えるべきではないでしょうか」。

 一人で若者相手に3300筆を集められた心意気と姿勢に、文句ばかり言っている筆者の反省を添えて今月のたよりとします。

                                                 (石田紀郎:市民環境研究所)




©2002-2019 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.