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連載 ネパール・タライ平原の村から(92)

介護サービス、介入の余地なし

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その92回目。


 4月末から5月末まで一時帰国しました。数年ぶりや1年ぶりによつ葉の人と会う時は、忙しそうに仕事に追われているのではと、緊張しながら会いに行くのですが、「久しぶりやなぁ、元気しとったか」とか「元気そうやなぁ」と声かけてもらえるのは、素直に一番嬉しいです。

 でも、ある職員からこんな印象深い一言もありました。「ひょっとして、あれからまだ帰ってなかったのですか…」。

 彼が言う「あれから」というのは、1年前に会った時からという意味です。半分冗談なのですが、ここ数年、一時帰国のたびによつ葉ビル界隈の会議や勉強会で、お互い申し合わせてもないのによく会うものだから、会ってもまったく違和感がなかったということです。

 ネパールに住んでいる僕の感覚からすれば、彼はよく会う「ご近所さん」みたい。日本に住んでいる彼の感覚からすれば、「同じグループの中にいても1年に1回会うか会わないかという人もいるのに」というわけです。

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 また滞在中、お年寄りの方からたくさん話を聞いたり、たくさん質問攻めに会う機会もありました。

 「家は老々介護で大変だけど、何か協力できることがあれば手伝いますよ、と言ってくれる人はたくさんいる」。

 「だけどいざという時」例えば深夜に救急車を呼んだりと「本当に駆けつけてほしい時にすぐに駆けつけてくれる人はいるのだろうか」。

 「同じ境遇の人たちと気軽に情報を交換できるような場所があればなぁ」。

 「福祉施設の利用者としてではなくボランティアに行くような感覚でカフェーに手伝いに行くようなそんな気軽な感じの場所が行きやすいみたい」。

 「将棋をしていたら途中で次のプログラムに移らなければいけなくなった」。

 「一人で外を歩くのは“安全”でないから外出する時は責任もって付き添ってくれる人が必要で」。

 「その方の責任でもって安全に連れ帰って来てもらえることが必要で」。

 「集団生活だからわがまま言えないけれど病院食は合わない」。

 「ネパールのお年寄りはどんなふうに過ごしていますか、医療はどうなっていますか、病院はありますか、老人ホームというのはありますか」。

 「姥捨て山という日本語があるけれどもネパールにもありますか」。

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 切実な「○○ありますか?」という疑問に、たいてい「いいえ」という返事をすることが多いのですが、そこを詳しく答えられた気がしません。
■祭りで伝統の歌を率先して唄う
  お年寄りたち

 だけど、はっきり言えることは、ムラや農家のじぃちゃん・ばぁちゃんらは家の中で役割があったりと、何だか元気そうということです。

 息子や嫁の文句を言いながらも、ちょっとおっかない足取りで突然訪ねて来られたり、収穫した雑穀を蓑で選別したり乾かしたり、子どもは親よりじぃちゃん・ばぁちゃんを探したり。

 今のところ、介護サービス業者が介入する余地はなさそうです。

                                                           (藤井牧人)



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