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アソシ研リレーエッセイ

コンビニ弁当と「食」と「家」


 前号の話によると、タイのコンビニで日本式のコンビニ弁当が流行し、露店の屋台が打撃を受けているとのこと。マジっすか!Σ(゚д゚;)

 昔タイに行ったときの記憶だと、街にはそこここに露店の屋台や庶民的な食堂があり、手頃な値段でコンビニ弁当よりもはるかにうまいメシを食わせてくれる。ふんだんに野菜が摂れるのもありがたい。もちろんテイクアウトもOKだ。

 だいたい、バンコクなどの大都市では外食が基本らしく、キッチンがない家も少なくないという。ご飯は炊いても、おかずは買ってくるのが一般的らしい。材料や味付けなどを指定すれば、思った通りのものをつくってくれるし、需要と供給の関係からか、自炊するよりもむしろ安くつくのだから、なんでわざわざ自炊せなあかんのか、というわけだ。

 タイだけではない。他の国でも、しっかりした食事から小腹を満たすところまで、それぞれのレベルに応じて実にたくさんの選択肢がある。中国では早朝から、そのへんの街角でリヤカーにコンロを積んだおばさんが油条(揚げパン)と豆漿(豆乳)を売っているし、台湾では至るところに夜市が出て、食べ歩きのネタには困らない。そうした中にコンビニも含まれるが、あくまで一部でしかなく、比重は低い。アジア諸国はどこもそんな感じではないだろうか。

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 それに比べ、日本は極めて選択肢が限られているように思う。都市部でも朝食を外で食べるのは少ないし、場所もチェーン店や喫茶店に限られてくる。昼食、夕食で考えても、一般の食堂で気軽にテイクアウトできるところは少ない。その結果、コンビニの比重が高まることになっているのだろう。

 コンビニやスーパーの総菜売り場、あるいはホカ弁でも、料理を買って帰る点では、屋台や食堂の場合と違いはない。にもかかわらず、何となく街に対して食が開かれていないように感じる。なぜだろう。露店の屋台が少なくなったのは衛生面を考えれば仕方ないのかもしれないが、それだけでもなさそうだ。

 どうやら日本では、食事は家庭でするべきだという規範らしきものがあるのではないか。外食や中食はあくまで例外、あるいはレジャーのようなものでしかなく、自宅で素材を調理し、家族で食卓を囲むのが基本なのだという考え方は、けっこう根強い。

 さらに言うと、外食や中食の浸透によってこうした基本が揺らぎ、伝統的な食文化が失われていくことで、人々は健康を損ない、子どもはキレやすくなり、家庭は崩壊し、ひいては社会のモラルも危機に瀕しているのではないか、とも……。

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 しかし、どうなんだろうか。食生活研究家の魚柄仁之助によると、家族で食卓を囲む「食卓の団らん」は、実はけっこう近年の話だという。伝統的な家庭の食事といえば、それぞれのお膳に料理が配置され、黙々と食べることが基本だった。

 ただし、昔の日本家屋は寒くて暗く、家庭内にテレビやゲームなどの娯楽もなかったから、必然的に家族が集まらざるを得ず、好むと好まざるとに関わらず家族の団らんが営まれたとのことだ。

 考えてみれば、かつて「家」は血縁の人間同士が暮らす集合単位である以上に、むしろ労働と経済のための集合単位だった。田舎では農業、都市では商工業。いずれにせよ、人々が労働を通じて生産活動を行うと同時に、生命の再生産を行うための拠点として「家」が存在した。凝縮力が強かったのも当然と言えるだろう。

 しかし、生産と再生産の場所が大きく分離した現在、伝統的な「家」の役割はほぼ必要とされなくなった。同じ場所に所属してはいても、家族成員は間違いなくそれぞれ個人化する傾向にある。そうした構造的な変化の中で、はたして食あるいは食卓によって変化の趨勢は押しとどめ得るだろうか。

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 さて、そんなことを考える私は、最寄りのコンビニまで車で10分というド田舎に住みながら、家族なしの単独者。もっと近くにコンビニがあれば便利だなぁと思うのはやまやまだが、正直言ってコンビニ弁当を食べようとは思わない。

 味の問題や健康の問題もたしかにある。しかし何よりも、食べ終わった後の空容器を見ると、そこはかとないわびしさを感じてしまうからだ。さみしい気持ちになるのだよ!  

                                                                                         (山口協:当研究所代表)



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