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市民環境研究所から


個人情報は個人のもの、勝手に使うな!


 昨年11月18日付けの京都新聞に「自衛官募集に協力、京都市が18歳と22歳の市民名簿提供へ」の見出しで、衝撃的な記事が掲載された。京都市が自衛官の募集に協力するため、18歳と22歳になる市民の宛名シールを住民基本台帳データから作成し、自衛隊に提供する方針を決めたというのである。

 全国の自治体では過半数が閲覧対応にとどめており、20政令都市のうち紙媒体で名簿情報を提供したのは川崎と熊本の2市のみ。京都市でも昨年までは自衛隊関係者が閲覧し筆記していたが、「紙や電子データでは自衛隊側に名簿が残ってしまうから、個人情報保護の観点からシールの方が望ましい」と2万5000人ほどの宛名シールの提供を決めた。

 なぜこんな論理が成り立つのか、質問しても納得いく回答はない。シールでも保存はできる。そうしない保証はまったくないままの提供である。

 この記事で事態を知った人々が動き出し、筆者も担当部局への問い合わせや抗議行動を開始した。京都市の決定経過は次のようだ。

 2018年11月9日の情報公開・個人情報保護審議会で「自衛官募集に係る適齢者情報の抽出及び情報提供事務」を審議した結果、宛名シールを自衛隊に提供すると決めた。審議内容の文書は次回、2019年1月末の審議会で文案を審議し、確定したのちに公開するが、自衛隊への提供は文書が確定する前に実施するという。

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 筆者も加わって「わたしの個人情報を守って!市民の会」が結成され、福山和人弁護士を中心に「京都市は自衛隊に宛名シールを渡すのをやめてください」、「個人情報は個人のものです」を要求項目として、京都市への追及と交渉に入った。

 関連する法的条項は①自衛隊法97条:自治体が募集業務を担当する、②自衛隊法施行令120条:防衛大臣が市長に資料を要求できる、③京都市個人情報保護条例8条:法の定めがない場合には本人の確認が必要――の3つである。

 募集業務は自治体が実施するとされ、防衛大臣が市長に資料を要求することはできるが、個人情報を提出する義務はない。自衛隊担当者が住民基本台帳を閲覧し、必要な情報の記録が認められているに過ぎない。要するに、基本台帳から当該年齢者の住所氏名を抜き出し、宛名シールを作成するなどとは、施行令のどこにも書かれていないのだ。

 審議会では宛名シールの作成手順と技術を議論しただけで、本人の了承も得ないままに自衛隊に個人情報を提出することに対して、個人情報保護の視点からの議論を行った形跡はない。筆者はこの点について審議会会長へ質問書を送ったが、未だ回答はないままだ。

 審議会は真面目に個人情報の保護を議論しているのだろうか。会長も副会長も法学部の憲法学の教授だというが、審議は形だけのようだ。どうやら門川市長が宛名シール提供を決済したようで、この市長ならではの行為である。地方自治体と国との関係は対等なのに、こんな決定は地方自治体の中立性を破壊するものと言わざるをえない。

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 そんな中で、問題発言が登場した。安倍総理が「都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力を拒否している悲しい実態がある。この状況を変えよう。憲法にしっかりと自衛隊と明記して違憲論争に終止符を打とうではありませんか」と述べたのだ。

 このとんでもない発言で、宛名シール問題は全国化した。また、京都では18歳、22歳の当事者が異議を申し立て、12名の若者が利用停止請求を公表し、近く独自でデモをするという。

 京都市もホームページで「本件が条例に違反する提供ではないことは前述のとおりですが、条例に基づく個人情報の利用停止請求が行われた場合は、自衛官募集に係る対象者情報の提供事務の趣旨・目的を踏まえ、請求者の個人情報については、自衛隊へ提供する宛名シールから除外することとします」と付け加えた。

 3月25日現在、宛名シールは自衛隊に送られていないようである。今回の事件は、個人情報保護とは、自治体と国との関係とは、という本質的な議論を深めることを要求している。黙して語らない政党・政治家をきびしく批判し、京都市議選挙の争点にしたい。
 
                                         (石田紀郎:市民環境研究所)



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