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地域から政治を考える

          シュタットベルケの実現に向けて

エネルギーと食糧の自給こそ

                         地域自立の要となる



 本誌第169号でも触れたように、能勢町が「日本シュタットベルケネットワーク」に入っていると聞き、具体的にどんなことを行おうとしているのか、気になりました。「シュタットベルケ(Stadtwerke)」とは、ドイツにおける自治体所有の公益企業を意味し、自然エネルギーによるエネルギーの自給自足を中心に、地域おこしの考え方で地域の再生を図る取り組みです。

 ネットで探すと、環境省の補助金事業「地域の多様な課題に応える低炭素な都市・地域づくりモデル形成事業」の中に、「里地と都市の再エネ地域連携による持続可能な北摂モデルの構築」というものを見つけました。木材によるバイオマス発電を中心に、地域の経済循環を生み出すビジネスモデル等について調査・検討を行う、とのことです。実施地域は能勢町と豊能町、吹田市となっています。

 山林の木を使ってバイオマス発電を行い、山林の整備と併せて、再生可能エネルギーを獲得し、その電力を吹田市まで供給することで、農村と都市の交流を図るという内容です。

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 能勢町では、その前段階として「木の駅」と題する施設をつくり、山林の所有者などに、倒木や間伐材を一定の大きさにして「木の駅」に持って行けば買い取るという事業を開始しています。

 実際にうまく行っているか分かりませんが、常識的に考えて、倒木にしろ間伐材にしろ、山から切りだし、加工して運ぶのは容易なことではありません。まして、高齢化の進む能勢で、そうした作業をできる人がどれほどいるでしょうか。人を雇ったり重機を借りるにしても、お金がかかります。

 実際に稼働している全国の類似の事例では、補助金なしの単体の事業としては採算が取れず、持続性に疑問が出されているようです。かといって、補助金事業になってしまえば、町民の主体性は不明確なものになりかねません。

 たしかにバイオマス発電は、発電のために木を燃やしても、発生する二酸化炭素を山林が吸収するので、温暖化ガスを増やさないとされています。とはいえ、材木を切りだしたり、トラックで運んだりする過程では化石燃料が使われるので、少なからず二酸化炭素を排出することになります。

 また、せっかく電気をつくっても、送電の仕組みが現在のままならば、関西電力が支配する電力系統にのるしかありません。

 昨年、九州電力が電力供給が過剰になったとの理由で太陽光発電などの再生可能エネルギーを制限したように、原発を軸とする大規模発電優先の系統では、せっかくの電気も制限されてしまうでしょう。

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 シュタットベルケのめざす地域の自立という点では、エネルギーだけでなく、家族農業の発展に基づく食糧の自給も重要な課題です。利益第一主義の下で、農業が巨大資本によって支配されるとすれば、農業が地域で培ってきた様々な要素が破壊され、資本の利益に従属させられることになります。地域の自立など、とうてい望めません。

 世界的に食糧主権の確立が問題とされていますが、日本も例外ではありません。本誌前号の報告で鈴木宣弘さんが指摘されているように、経済のグローバル化が進む中で日本の家族農業が売り渡され、その最後の仕上げとして種子法の廃止、種苗法の改定などが行われ、グローバル企業による農業支配が進められています。

 それを跳ね返すべく、各地で種子法の復活条例をつくる運動が取り組まれています。大阪のように、そもそも種子法の下でも取り組みが行われていなかった地域では、自分たちの手で種子を守る種子銀行をつくり、種子を守り、種子の多様性を維持することを基本として、家族農業を守っていくことが必要とされています。

 エネルギーと食糧の自給自足は、グローバル資本主義を超える社会をつくりだす要となるはずです。

                                             (戸平和夫:北摂反戦民主政治連盟)


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