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連載 ネパール・タライ平原の村から(88)

ジャングルを歩く-森林利用の変容について-

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その88回目。


 冷蔵庫・洗濯機・テレビなど電気製品やスクーターが並ぶ店頭。銀行ATM・留学斡旋・海外送金サービスの看板など地元カワソティの国道沿に、かつて主要都市でのみ見かけた店舗がここ数年、急速に増えました。

 反対に町からわずか5キロの地域では、都市的な生活様式とは異なる暮らしが減りつつも“残っています”。それは住居や畜舎・塀の素材・屋根の葺き方・家畜飼葉などから見てとれます。これらはジャングルから採取される有用植物であります。
  ■カヤ葺き屋根の民家と畜舎

 そうした生活と結びつくジャングルの一つ「ナムナー・バッファゾーンコミュニティーフォレスト」に入ってみました。

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 野生動物保護局とネパール国軍により管理される、一角サイやベンガルトラなど絶滅危惧種が生息するチトワン国立公園。そこを利用して来た地元住民の居住地域の境界に設けられた、住民も野生動物も利用する緩衝地帯がバッファゾーン(中立地帯)です。

 また地元住民による森林の保護と利用を一定度委ねた森林という意味で、コミュニティーフォレストと呼ばれます。

 そして乾季の1月上旬、年1回「カルカダイ・コルネ」と言って3日間このジャングルが開放されます。そこで実際に地元男性2人とジャングルを歩いてみることに。

 「ジャングルを1人、2人で歩くのは危険なので最低3人はいる、サイが出たら木によじ登って」とのことです。「カルカダイ」のカルは屋根葺き材のカヤ、カダイは民家の壁や柵に利用するヨシで、「コルネ」は開くという意味。カヤやヨシの刈取り開放期間ということです。

 その他ロープ材のバビヨ(和名不明)、稲ワラより長く丈夫で大型のムシロを編む材料のタータ(和名不明)の刈取りも可能ですが、ロープは市販のモノで大型のムシロは需要がなくなり、今は刈る人がいないとのこと。ジャングルの入域には地元住民(会員)は1人1日25ルピー(約25円)、他村住民は50ルピー、外国人観光客は別料金です。

 ジャングルの道すがら、サイの糞がゴロゴロ転がってあるのを見ては「これは今朝の糞で、あれは1日前」「向こうのは別のサイの糞で、サイは一頭一頭同じ場所を通り同じ場所に糞を落とす」「大抵茂みに潜んでいる」――と、これまで何度と聞いたサイの習性を彼らも詳しく説明してくれます。

 その道中、刈取り作業の住民以外に国立公園のアクティビティを楽しむ観光客を載せたジープが3台通り過ぎました。それを見て「サイを見る展望台には行かなくて本当に構わないのか?」と何度も聞かれ、僕は不思議がられた次第です。

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 サイは人が集まるところは近寄らないので、地元住民はいくつかの場所である程度固まって作業に当っていました。草原で乾燥したカヤを刈る人、水辺に自生しているヨシを刈る人たち。

 その手を止めるのは申し訳ないので、少しづつ尋ねて地元住民のジャングルの利用や近年の変容について教えてもらいました。次号は、住民の話について紹介します。

                                                            (藤井牧人)


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