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新規研究会の提案

「カタログ研究会」という試み
商品宣伝の媒体は社会運動の宣伝媒体になりうるか?

 昨年11月に行われた当研究所の第17回総会で、新規研究会として「カタログ研究会」が提案された。以下、研究会の主旨や提案の問題意識について、提案者の説明を紹介する。

出発点は「商品」への違和感

 これまでも、「よつばらしさの根源を探る研究会」とか「『最終講義』を読む研究会」とか、ちょっとよくわからない研究会を呼びかけて、自分自身が考えを深めていく作業を、同じ関心を持つ仲間たちと一緒に共同して進めたいと思い、研究会というカタチで勉強して来たことがあります。

 学生時代に、ちょっとマルクスを読んで以来、「商品」は自分の中では諸悪の根源として強くインプットされてしまいました。もちろん、マルクスの資本主義批判とはまったく無縁な非科学的感情だとはわかっているのですが、貨幣でモノを売ったり買ったりする行為自体に嫌悪感が強くつきまとっているのは、今も続いています。

 逃れられるはずもないし、適当に金を使ってずいぶん長く生活して来たのですから、この年齢になっても、そんなことを思うのは、もはや「妄想」に近い感覚なのかもしれません。でも、自分の人生の尺度で振り返ってみても、教育や医療や介護や人間の臓器までもが商品になってしまったのは、そんなに昔からではなかったように思います。

 人は慣れていく動物なのかもしれません。慣れて、使いこなす人が評価され、力を持って行く。でも、現場で日々繰り返され、積み重ねられている日常の中で、「商品」からはみ出た関係や感性は今も、生き生きと存在し続けていることも、また事実です。例え、その行為が、その交換が、貨幣を媒介に生まれたものであったとしても、そこには人間の生と生の関係が積み重ねられている。その事実の方に常に関心を寄せたいと考えて来ました。

 能勢農場で、牛を飼ったり、畑をつくったりしながら、闘争や組織づくりという領域だけで政治を考えていた時代を経て、自分も含めた人間一人一人の生活領域での変革を基礎に置かない政治では、人間の全面的、世界的な解放という目標を実現することはできないと、決定的に思い知らされた頃から、事業や商売にかかわる機会が増えました。

 自分の意志で商品とかかわりながら、その諸悪の根源とどのように闘っていけるのか。おおげさに構えて言うと、カタログ研究会の試みは、そんな問題意識の中から構想されたものです。


花森安治の仕事に学ぶ

 カタログは商品を宣伝するための媒体です。その最強の言語が価格であることは言うまでもありません。カタログの最もシンプルな形態であるスーパーの折り込みチラシに、デカデカと踊る価格を示す数字が、その事実を明確に表現しています。
 でも、ちょっと違う、読んで楽しい、考えさせられるカタログをつくれないものか。しかも、それなりにきちっと購買につながるカタログとはどんなものだろうか。よつば農産で、少しだけよつ葉のカタログづくりにかかわるようになって、そんなことを考え始めました。そして、その頃、いろいろ読んだものの中に、雑誌『暮しの手帖』の名編集長としてよく知られている花森安治の仕事があります。

 これは あなたの手帖です
 いろいろのことが ここには書きつけてある
 この中の どれか 一つ二つは
 すぐ今日 あなたの暮らしに役立ち
 せめて どれか もう一つ二つは
 すぐには役に立たないように見えても
 やがて こころの底ふかく沈んで
 いつか あなたの暮し方を変えてしまう
 そんなふうな
 これは あなたの暮しの手帖です

 この文章は花森安治が『暮しの手帖』に毎号掲載し続けていた、彼がめざした雑誌づくりの理念を示すものです。こんなカタログをよつ葉もつくれるようになるために、どんなことを学び、どんな言葉や画像が必要なのかを、少し、抽象的に考えてみたい。そう考えて、カタログ研究会の試みを提案しました。

 もう、具体的なカタログづくりからはずいぶんと離れているので、僕に可能なカタチは、こんな研究会で論議を深めることだと思ったからです。


「宣伝・広告」から社会を問う

 もう一つ、最近、読んだイタリアの政治経済学者、ステファーノ・バルトリーニ氏の『幸せのマニフェスト』という本にも、大きな刺激を受けました。

 この本の中で、バルトリーニは、現代資本主義社会の中での広告の役割を痛烈に批判し、「広告は人々の中に不満足を生み出す装置」だと主張しています。広告産業は商品を買うことでしか人々が幸せを感じられなくすることで、資本主義社会が陥っている人間関係の喪失状況を、おおい隠しているというわけです。

 過剰な商品の氾濫の中で、商品に埋もれることでしか心の充足を得ることができなくされている現代社会をどのように変革して行くのか。そんな問題意識を共有する学者の主張について学ぶ機会がつくれるように、カタログ研究会が呼びかけ、彼の著作についての講演会も企画できればと考えています。

 何はともあれ、研究会を呼びかけた自分の頭の中が混沌としているわけで、ここは、一緒に考えてみようと応えて、研究会への参加をお願いする皆さんの存在が頼りです。よつ葉で働く職員の皆さんやよつ葉の会員の皆さん、当研究所の会員の皆さん、本誌の読者の皆さんの御参加をお待ちしています。


研究会の具体化について

◎研究会の内容
・関連する書籍の読書会
・研究会テーマに沿った問題提起者を招いての議論
 ・SNSの普及が生み出した宣伝、広告の質的変化
 ・カタログ製作の最先端の現状
 ・「消費社会と広告産業」をテーマにした講演会
 などなど

◎研究会の準備
 ・中心となる協力者の事前相談会 →1月下旬
 ・オリエンテーションを兼ねた第1回目の会合
 →2月中・下旬
 ・以後、毎月1回開催し、年内に終了

                                                     (津田道夫:当研究所事務局)



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