HOME過去号>167号  

アソシ研リレーエッセイ


欧州の右派ポピュリズムから考える

社会の分断と排外主義の危機

 ヨーロッパの中世文学『ロランの歌』は、キリスト教徒とイスラム教徒の文明の対立を描いています。フランク王国のカール大帝とその家臣のロランは、イスラム教徒の住むイスパニア(スペイン)との戦いを有利に進めていましたが、ロランの継父ガヌロンがイスパニアのマルシル王と内通し、フランク王国に反撃を始めます。凄惨な戦いが続く中、ロランは力尽きてしまいますが、カール大帝はイスパニア軍を打ち破り、裏切り者のガヌロンを八つ裂きの刑に処しました。

 歴史は繰り返す、一度目は悲劇として――と言った人がいますが、2018年8月にドイツ東部のケムニッツで、難民申請中の中東出身の二人の男性が一人のドイツ人を殺害したとされる事件の後、数千人の極右の暴徒が難民あるいはドイツ人でないと思える人々を口汚く罵りながら追いかけ回し、現地の警察と衝突しました。その後、移民受け入れを進めたメルケル首相率いる与党が選挙で敗北し、代わりに移民に反対する右派ポピュリスト政党が躍進しました。

 ヨーロッパではポピュリズムが広まっていますが、国によってかなり事情が違います。スペインのポデモスやギリシャの急進左派連合など左派ポピュリスト政党は、グローバル化による社会や経済へのマイナスの影響を改善するよう求めています。それに対して北欧や東欧で台頭している右派ポピュリスト政党は、移民、特にイスラム諸国からの流入の反対、多文化主義を批判しています。

                          ▼     ▼     ▼

 これまでヨーロッパのポピュリズム現象については幅広く研究され、経済的、社会的、文化的要因が複雑に絡み合いながら高まってきたと分析されています。その上で、アムステルダム大学のイボンヌ・ドンダース氏は先行研究を振り返り、ヨーロッパのポピュリズム、特に右派ポピュリズムの広まりを説明する時に重要なのは、人々にとって重要な政治問題が、経済問題から社会的、文化的問題に変化してきていることだと述べています。右派ポピュリスト政党がその変化に応えながら拡大していると考えられています。

 また、カリフォルニア大学教授のロジャーズ・ブルベーカー氏は、「欧州ポピュリストが演出する「文明の衝突」―文明論を語り始めたポピュリストたち」で、現在のヨーロッパのポピュリストは、ヨーロッパを包み込む文明を「キリスト教」という言葉で表現してイスラム文明と対比させ、その違いを鮮明にさせていると報告しています。EU連合は「人格の尊重、自由、民主主義、平等、法の支配、そして少数派の権利も含めた人権の尊重」(欧州連合条約第2条)という理念に基づいて設立されましたが、その理念も崩壊しつつあり、人々が分断されています。

                            ▼     ▼     ▼

 翻って日本では国会で、外国人労働者の受け入れの拡大に向けて、出入国管理法改正案が審議入りしました。現在のところ、政府は移民政策をとる考えはないようです。人手不足を解消するための道具のように外国人を受け入れるというのであれば、ヨーロッパのような事態になりかねません。歴史は繰り返す、二度目は喜劇として――。そうならないよう、広い視野持った議論が必要でしょう。

【参考文献】
 ゲオルク・ディーツ「ドイツにおける「ポスト真実」の政治―民主主義と憲法の危機」(『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2018年11月号)
 ロジャーズ・ブルベーカー「欧州ポピュリストが演出する「文明の衝突」―文明論を語り始めたポピュリストたち」(同前)
 イボンヌ・ドンダース「ヨーロッパにおける多様性:多元主義からポピュリズムへ」(大阪大学未来戦略機構『未来共生学』第5号、2018年3月)


                                 (河村明美:よつ葉ホームデリバリー京都南)


©2002-2019 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.