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地域・アソシエーション研究所 第17回総会報告

転換期の世界
将来を展望する構想力を求めて


 去る11月16日(金)、茨木市のよつ葉ビルで当研究所の第17回総会を開催しました。当日は各所から30名近くのご参加をいただき、前期の活動報告・総括と来期の活動方針について承認をいただくことができました。以下、簡単ですが報告します。

この1年を振り返る


 総会では活動報告に先立ち、議案書の「はじめに」で、この一年を次のように振り返りました。



 昨年の総会で言及した世界秩序の構造変動をめぐって、気になる動きが生じてきました。

 この四半世紀ほど、東西冷戦の勝利者たる米国は、自らの価値観に基づいて世界秩序を設定し、それを自らの手で維持してきました。しかし、それは結果として米国の手に余る任務でした。中国やEU(欧州連合)、ロシアの台頭、国内からの突き上げなどもあり、米国がこれまでのような覇権のあり方を変えざるを得ない状況にあるのは明らかです。

 とはいえ、その先の世界は混沌としています。米国トランプ政権に明らかなのは、自らを頂点とする世界秩序は手放さないものの、頂点であるがゆえに引き受けてきた責任は手放すという態度です。今年に入って勃発した米中貿易戦争に見られるように、自らの地位を脅かす恐れのある新興国に対しては、自由貿易体制や多国間協調など自らが築いてきた秩序すらかなぐり捨てて叩き潰す姿勢を鮮明にしました。

 こうした独善的な世界観が長続きするとは思えません。他方で、米国に変わって中国が新たな覇権国となるのか、なるとすればどのような価値観に基づくのか、どのような世界秩序が現れるのか――。世間では、覇権国と新興国の角逐が武力的な衝突へと至る「ツキジデスの罠」が取り沙汰されています。なんとも不穏な空気を感じないわけにはいきません。

 いずれにせよ時代は転換期を迎えつつある中、大局的な視点で現在を捉え、将来を展望していく構想力が問われているように思います。

 また昨年の総会では、米国や欧州などにおける社会の分断についても言及しました。それから1年で、分断は解消の方向に向かうどころか、ますます深化しつつあるように見えます。先日行われた米国の中間選挙では若者や女性や少数者が奮起し、トランプ流の政治に対する批判の力を示しました。しかし半面、トランプ支持層の強固な結束に大きな変化は見られず、むしろ両者のミゾはさらに深まったのかもしれません。

 欧州でも、イタリアでは「反エスタブリッシュメント」の連立政権が発足する一方、「米国第一主義」に反対して国際協調やEUの結束を訴えてきたドイツのメルケル政権は州議会選挙で大敗北を喫しました。政界主流の中道がソッポを向かれ、左右の反主流派に支持が集まる「ポピュリズム」の勢いは、弱まる気配を見せません。世界規模で富の一極集中と格差の拡大が進み、生存の危機に迫られながら、にもかかわらず既存の政治の世界からは忘れ去られた人々の、悪戦苦闘の現れと言えるでしょう。この点でも、時代はたしかに転換期を迎えています。
 
 翻って日本では、こうした時代の転換期を反映しているのかどうか、それほど鮮明な動きは(少なくともポジティブな形では)現れていないように見えます。しかし、やはり胎動は始まっているのではないか、そんな気もします。

 いま世界は、日本は、どうなっているのか。なにが問題で、どこに解決の糸口があるのか――。私たちは、出来合いの思想や処方箋に頼るのではなく、自ら自身で見つけ出さなくてはなりません。
 そのための一助としての役割を果たすべく、地域・アソシエーション研究所は活動を継続し、発展させていきます。

 そうした自覚のもと、今期の成果と反省を明らかにし、来期の展開を論議したいと思います。



改めて世界に向き合う勇気を

 トランプ政権の独善的な振る舞いが示すもの、その一つは、アメリカ覇権の衰退だと思います。地球温暖化をめぐるパリ協定からの離脱、イランと6カ国の間で結んだ核合意からの離脱、旧ソ連・ロシアとの間で結んだINF(中距離核戦力全廃)条約の破棄といった一連の動きは、覇権の衰退に直面しながら自らの既得権益を維持しようとする往生際の悪さを反映しているように見えます。

 そんなアメリカにとっての脅威は、経済力を背景に台頭する中国です。中国が改革開放に踏み出して以降、アメリカは中国を封じ込めるよりも、関与を通じて自らの世界秩序に取り込もうとしてきました。しかし、習近平政権の中国では、経済成長が政治的民主化を促すどころか、国家主導の資本主義化を成功モデルとして周辺諸国に介入し、自らの勢力圏を拡大しているように見えます。国内の社会統制についても、躍進するデジタル技術を利用して急速に強化されています。

 こうした背景を踏まえると、米中貿易戦争が「貿易」に止まるものではなく、その根底に世界的な覇権の争奪をめぐる闘いがあることは明らかでしょう。

 こうした世界の構造的変化をどう捉え、それにどう対応するのか。かつてのように、資本主義対社会主義といった東西の軸はもちろん、先進諸国と第三世界といった南北の軸に頼ることもできない中、改めて世界に向き合う勇気が求められています。

 そのための基盤となるのは、私たちを含めた民衆の動きです。アメリカの中間選挙で示された若者・女性・マイノリティの活躍、あるいは欧州での左派ポピュリズムの動き。それらの背景には何があるのか、人々はどんな世の中を目指し、何を求めているのか。日本の状況と比べてどこが違い、どこに共通点があるのか――。考えるための材料は不断に提供されているように思います。

 いずれにせよ、研究所としては、可能な限り広い思考の枠組みと時間幅を意識しながら現在に対応していく姿勢を堅持したいと思い、今回その点を改めて提起した次第です。


研究会活動をめぐって

 さて、昨年の総会で提案した次期の活動方針についていえば、基本的に大きな問題なく達成できたように思います。

 まず、「研究機能の強化・充実に向けた取り組み」として、研究所の中心テーマである「協同」「連帯」「アソシエーション」の原理に関わる理論や実践を対象に、機関誌に公表していくつもりでした。これについては、研究所の活動全体にわたって、そうした観点を貫けたと思います。今後、講演会や見学を企画するなど、さらに充実させていくべきでしょう。

 研究会については、前期に予定しながら果たせず懸案となっていた「グローバルな政治経済領域について考える研究会」について、本誌でも活動を紹介したことのある若者労働者協同組合「北摂ワーカーズ」と共催する形でオルタナティブ研究会を始めました。共同の学習の機会としてはもちろん、異なる世代間における議論や問題意識の共有に向けた取り組みとしても展開していきたいと考えます。

 また、「よつ葉の地場野菜」研究会は、一つのヤマ場である生産者農家へのアンケート調査の達成にこぎ着け、実務面では大きく進展しました。引き続き職員アンケート、消費者アンケートを実施し、分析を加えた上で、来期中に報告書として公表できるよう尽力していきます。

 既存の研究会については、職場横断的な学習・論議の場として継続しているものの、参加者に偏りがあることは否めません。研究所の基本的な性格の一つに、関西よつ葉グループの諸活動や問題意識を整理し、深め、次世代への継承の基盤をつくることがあります。その意味では、さらに多くの人々に研究会への参加を呼びかけたいと思いますが、関西よつ葉グループ全体でもさまざまな形で学習・論議の取り組みがなされており、“機会過多”の状態にあることも事実です。研究所の独自活動を増やすよりも、関西よつ葉グループの活動を通じて役割を果たす方向を強化すべきかもしれません。

 一方、前期の総会で“次期こそは実現を”と提案した「地域と国家を考える」シリーズは、残念ながら諸般の事情で今期も具体化に至りませんでした。とはいえ、提案者からは着実に構想が深まっている旨の報告もあり、来期は実現の運びとなりそうです。中国を軸とした東アジアにおける帝国秩序と近代国家システムの歴史的展開を考える内容であり、昨今の情勢とも深く関連するものとなるでしょう。


フィールドワーク・訪問も充実

 研究所ではこれまで、2016年の「大阪・大正区リトル沖縄」、2017年の「大阪・生野区コリアタウン」に続いて、今期は「箕面・北芝、部落解放運動とまちづくり」との内容でフィールドワークを実施しました。私たちの身近にある全国的もユニークな取り組みであり、有意義な紹介ができたと思います。今後も継続していく予定です。

 また、日本の現状を逆照射する地域として、とくに福島をはじめとする東北、沖縄の2つの地域を対象に取り組んできた訪問企画ですが、今期は沖縄の中でも宮古島・石垣島の先島諸島における自衛隊配備強化の現状について、現地の方々にお話をうかがい、実情を知ることができました。来期は福島・東北を対象に考えたいと思います。

 以上、ほとんどの活動については機関誌上で報告してきました。今期も毎月定期発行することができましたが、来期も維持していきます。質の面でも、さらに充実を図りたいと思います。


新規研究会の提案

 総会では、来期の活動方針の中で、研究会活動の充実に向け、以下の主旨で「カタログ研究会」が提案されました。

 「花森安治の仕事に学ぶことを基礎に置いて、「カタログ」の持つ「商品宣伝」と「楽しさ」「おもしろさ」という二面をどう統一的に捉えるのかといったテーマを論じ、学ぶ研究会を構想しています。もちろん、研究会の論議がよつ葉のカタログ『ライフ』の製作に間接的によい影響を少しでも与えることができればいいなぁということも考えています。」

 上記のように、対象領域はカタログの実務的な内容というより、カタログという媒体の意味、あり方となります。「一般企業でカタログ製作に関わっている人、よつ葉のような宅配組織でカタログ製作に関わっている人、マーケティングや商品宣伝などの研究者、ジャーナリスト」などに協力を仰ぐ形で内容を具体化し、2019年早々にも呼びかけを行う予定です。

 以上、来期も今期に劣らず活動を活発にしていく予定です。引き続き、会員の皆様をはじめ、関係者の皆様の御協力、御批判をお願いします。

                                                     (山口 協:研究所代表)



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