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連載 ネパール・タライ平原の村から(85)

ネパールのヒ素汚染地帯を探る(中)

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その85回目。



 1999年に地下水を汲み上げる管井戸(手押しポンプ)から高濃度ヒ素が検出されたナワルパラシ郡パラシ。そこにある水道・公衆衛生局を訪ねました。「ヒ素について今はみな知っているがまだ解決していない」と語る局員の方々に、ヒ素汚染問題の現状をうかがいました。

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 「もう少し早く来ていたら水質検査をするところを見られたのに」と局員。簡易検査キットでヒ素濃度を調べるため、管井戸を設置した住人2人がサンプルを持ってきていたとのこと。測定結果は「一人が15ppbでもう一人が25ppbと基準値50ppb以下で問題なかった」と言います。

 しかし、ネパールでは1993年以前のWHOの旧基準値のままで、現在WHOの基準値は10ppbです。その事を訪ねると「WHOの基準値だと誰も(管井戸を利用する人)水が飲めなくなる」との返事でした。また地下水のヒ素濃度は、雨季に変化することがあり、1~2年ごとの検査が必要とのこと。

 水道局のレポートによると、2004年ユニセフの援助で低地パラシ周辺行政村の管井戸2万8000基のヒ素濃度調査があり、2530基が50ppbを超えていたとのこと(10~50ppbの記載はなし)。

 現在は代替水源の貯水タンクから、安全な水道水が汚染地域の40~50%に供給されていると局員の話し。ただし使用可能な時間は朝夕1時間から常時と季節や地域により差がある様子。

 ヒ素は河川・湧水・集落で共同利用されていた古い堀井戸からは検出されていないが衛生的でないとのこと。ヒ素は近年普及した管井戸から検出されていることから、地域ごとにある一定の地層(透水層)にヒ素が含まれているようです。

 最近の海外援助で深くボーリングされた地下水は、問題ないとのこと。対策として、ボーリングして汲み上げる貯水タンクと水道管設置はコストが高いため、バイオサンドフィルターの無料配布事業などが行われたとのことです。

バイオフィルター
  ■バイオサンドフィルター(ヒ素除去装置)
 フィルターは、ポリバケツの流入槽の上層に煉瓦の砕片と釘5キロを入れます。釘の鉄分がヒ素を吸引する性質があるとのこと。その下層の炭、小石、砂利などで水がろ過される仕組みです。

 バザールで手に入る素材で2~3ヶ月に1回素材を取り出し掃除が必要など、熱心な説明を受けたのですが「だけど住民にフィルターは定着しなかった」とのことです。


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セフ・赤十字など国際機関・行政・NGOなどがさまざま型のフィルター普及事業に取組んだものの、プロジェクト終了後「継続的なモニタリングがない」と局員は何度も語ります。行政は予算不足でフィルターを配布して終わったと。

 今も「海外からたくさん研究に来るけれども、ヒ素中毒患者の手足の写真を撮って調査するだけ」「高濃度ヒ素が検出されていたある村は、いつも来るので怒っている」という局員。

 賛否ありますが、その話に気が引いてしまった僕です。しかし、後日改めて、あからさまに写真は撮らないこと、単にヒ素問題だけでなく地域の暮らしや農業を見たいことを伝えて、局員の方に案内をお願いしました。(つづく)
                                                               (藤井牧人)


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