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連載 ネパール・タライ平原の村から(84)

ネパールのヒ素汚染地帯を探る(上)

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その84回目。

 関西よつ葉連絡会の機関紙『よつばつうしん』25号(2013年4月)に、「土呂久からアジアへ」と題して、佐藤マリ子さん(アジア砒素ネットワーク)の記事が掲載されており、“ガンジス河流域の地下水のヒ素汚染問題に取組むインド、バングラデシュ、ネパールによるワークショップが開かれた”とあります。

 その際、佐藤さんは、かつて土呂久でも水が汚染され健康を害して多くの住民が亡くなったが、住民自身が費用を出し合って水源を探し、自ら水道の管理運営にあたった事例を発表されたとのことです。

 そこで僕も、アジア砒素ネットワークのホームページや同団体の川原一之さんによる『アジアに共に歩む人がいる―ヒ素汚染にいどむ』(岩波ジュニア新書)など、ネパールのヒ素汚染問題についても触れた資料を調べてみました。

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 宮崎県土呂久では1920年代、鉱山操業による毒煙や排水で大気・水・土が汚染され、人体に被害が及んだそうです。

 対して南アジアのヒ素汚染は、ヒマラヤ山脈を源流にガンジス河・インダス河・ブラマプトラ河といった大河の中下流域で、近代化による水需要の拡大に伴い、浅井戸を掘った地下水から自然由来のヒ素成分が溶け出し発覚したという、日本の鉱工業と異なるタイプの汚染であることがわかります。

 ネパールでは1999年、タライ平原ナワルパラシ郡パラシでヒ素汚染による健康被害が明らかになり、政府・国際機関・研究者が集まり、プロジェクトが開始されたとのことです。

 ヒマラヤ山脈を源流とするガンジス河の支流、ナラヤニ河に沿ったナワルパラシ郡。僕が住んでいるところでもあります。ただし、住居のあるカワソティは、同じナワルパラシ郡であっても、丘陵地帯と低地帯の間に盆地を形成している南東部の内タライ(インナータライ)と呼ばれる旧ナワルプル郡で、地下水からヒ素が検出されていない地域になります。

 そのカワソティから約50キロにある、大規模水田が広がる低地帯、旧パラシ郡パラシ周辺の農村が高濃度ヒ素の検出されるホットスポットで、内タライとは地質地形や気候も異なる特徴があります。

ヒ素検査
■ヒ素濃度の簡易検査キットを手に解説するパラシ水道局員スレンドラさん(右)
 また内タライは、山岳部からの入植者が多く住む地域であるのに対して、低地のパラシ周辺はインド国境沿いに分布するインド系住民が多く、住人や文化の面でも大きく異なる特徴があります。

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 冒頭で触れた佐藤さんはバングラデシュを例に、“現在5万7000人のヒ素中毒患者が確認されている。海外NGOなどの支援で代替水源施設が作られたが管理がうまくいかなかった施設もあり、住民の自分たちの水源は自分たちで守り管理するという意識の低さも原因の一つだろうという”と述べられています。

 とすれば、ネパールではどうなのか。恐らく似たような状況なのではないだろうか。ヒ素汚染地域の住民の関心が低いのは、どうしてか。ネパールでヒ素汚染が確認されて来年で20年が経過するが、その後の実態や現状はどうなっているのか――。

 そんなことを考えながら、ローカルバスを乗り継ぎ、ヒ素汚染地にあるパラシ水道・公衆衛生局を訪問してみました。(次号に続く)

                                                      (藤井牧人)



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