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ささえあい生協新潟・高見さん講演会 報告

協同を通じて地域のイニシアティブを

ささえあい生協新潟の経験から

さる8月24日、北大阪商工協同組合の主催により、ささえあいコミュニティ生活協同組合新潟・代表理事、高見優さんの講演会が行われた。以下、お話の内容をかいつまんで紹介したい。


 本誌149号(2017年5月)で報告したように、昨年3月25日、「大阪労働学校アソシエ・社会的連帯経済研究会」と「ソウル宣言の会・関西」の共催で行われたシンポジウム「社会的連帯経済をめざして」に参加した。その際、パネラーの一人として登壇されたのが高見さんである。

 長く市民運動に携わった後、一から「協同労働の協同組合」を作り上げ、地域に広げようとされていること、目標を明確に掲げながらリーダーシップを発揮していこうとする姿勢など、お話を聞きながら北大阪商工協同組合の活動に重なる部分があると感じ、後日、訪問を呼びかけた。それを受け、商工協同組合から代表理事と専務理事が新潟を訪れ、具体的にお話をうかがったことから、今回の講演会に至ったという次第である。

社会運動から事業へ

 さて、高見さんは京都生まれ京都育ちの団塊世代。大学時代に全共闘運動やベトナム反戦運動に加わる中で、折から社会問題として浮上していた公害問題に触れる。公害を生み出した科学技術、それを支える大学の学問を批判する一方、その一角を否応なく構成している自分自身の存在にも問い直しを迫られた。そこで、高見さんは新潟水俣病の現場に飛び込み、それ以降、加害者企業との闘争や被害者支援に明け暮れることになる。こうして新潟に定着し、人権・環境・平和などさまざまな市民運動に従事した。

 1994年には「市民新党にいがた」を結成、日本のローカル・パーティ運動の先駆けともなった。

 しかし、そんな高見さんにも転機が訪れる。

 「選挙に落選したり、元祖フリーターで社会運動に明け暮れ満足な収入もなかったりした仲間たちとそれぞれの半世紀を振り返り、五〇代を過ぎると急に老後が心配になり出す。」(高見優「「協同組合」で事業・運動を―ささえあい生協新潟の取り組み」季刊『変革のアソシエ』No.29、2017年6月)

 その過程で、2000年代初頭に高齢者生活協同組合(高齢協)との接点が生まれる。

 高齢協の前身は、戦後の失業対策事業で働く労働者たちが作った労働組合「全日自労」だ。時間の経過とともに失業対策事業が打ち切られる際、国や行政に頼らず自分たちで仕事をつくり出すことを目的に労働者協同組合(ワーカーズコープ)が結成される。その中から、労働者たちが高齢になっても地域社会で生きていけるように作られたのが高齢協である。「寝たきりにならない、しない」「元気な高齢者がもっと元気に」を共通目標に、「仕事・福祉・生きがい」を活動の柱とした。1995年の三重県を皮切りに各地に設立され、介護保険制度の施行を追い風に、2001年には各地の高齢協があつまって日本高齢者生活協同組合連合会が結成された。

 このころ、新潟にも連合会から働きかけがあり、高見さんたちは2003年に準備会を設立する。

 「生ある限り、人間としての誇り、生きがいをもって安全かつ安心して生きていきたい。経験や能力を生かして社会に役に立ちたい。体が不自由になっても、住み慣れた地域でゆったりと暮らしたい。そうした私たちの願いを実現するためには、私たちが住む地域の中でお互いに支えあい、助け合っていく組織が必要だと考えました。」

 3回ほど立ち上げに失敗した末、ようやく2006年、新潟高齢協が設立される。とはいえ、道は平坦ではない。
高見さん
  ■高見優さん

 「設立に関わった理事メンバーの多くは、それまで市民運動の経験はあっても、事業経営はまったくやったことのない素人集団です。理念や理想を高く掲げつつも、手探りの出発で、それこそ七転八倒の日々でした。お金もない、人もいない、あるのは看板だけ。立ち上げ当初の事業もすぐに頓挫します。それこそ『運転資金』という概念も分からないところからはじめました。」

 法人を設立したとはいえ、実績も信用もないため金融機関から借り入れはできない。そこで、職員や組合員が一口5000円といった形で資金を持ち寄り、300万~400万円ほどの出資金を集めたという。それ以降、失敗を繰り返しながらも仕事をつくり、コツコツ剰余を積み立てては新規展開に回していった。こうして、2017年3月の段階で、事業所17ヶ所、職員225人、事業高8億2000万円、組合員1413人、出資金1億2000万円超という事業基盤が形成されたのである。

自力更生と自治・分権

 高見さんたちは試行錯誤を続ける中で、事業と組織(法人)の立ち上げ、運営の基本方針を確立し、2013年に「事業所立ち上げマニュアル」としてまとめている。

 「仕事おこしの基本として、最大のポイントは『人』です。何を実現したいか、そのためにどんな事業をしたいか、明確なイメージを持った人たちが『人・モノ・カネ』を集めて事業を立ち上げます。それに対して、私たち本部は法人格を貸し、事業運営のノウハウなどある程度の支援はしますが、基本は自力更生です。」

 事業の立ち上げに際して、やはり問題になるのは「カネ」だ。やる気はあっても先立つものが……とはよくある話だが、この点でも高見さんは自力更生を強調する。

 「開業資金、運転資金の見積もりと調達方法、資金計画も収支計画も基本的に自力でやってもらいます。事業をやりたいという人が相談にきたとき、まずその点をはっきり言います。『自分たちで出資金を集めて下さい。縁故をすべてあたって1000万でも2000万でもつくって下さい』と。本当にやりたければ、そこがクリアーできないとできません。」

 そうした準備段階を経た上で、高見さんたち本部は、「事業理念と職員確保」「資金計画」「利用者見通し」について、これまで経験から得られた基準に基づいて査定し、最終判断を下す。

 「『事業理念と職員確保』が最大4点、『資金計画』が3点、『利用者見通し』が3点。合計10点の中で6点以上なければ開業は認めないというのがルールです。だから必死になって集めないといけない。そのうえで、どうしても足りない場合は本部で応援する場合もあります。」

 自力更生の徹底は、一面では厳しい対応に見えるが、裏を返せば徹底した現場主義、自治・分権とも言える。これは「協同労働の協同組合」という組織のアイデンティティに則したものと言えるだろうが、また素人集団が一から作り上げてきた経験のなせる業でもあるだろう。

 「17ヶ所の事業所は、規模も収支もバラバラです。基本的に独立採算で、給料もボーナスも額はまちまち。事業所ごとに事業計画を立て、職員の給料も各々の経営委員会で決定し、理事会で承認する。だから職員を多めに採用して緩やかに働いている事業所もあれば、人数を絞って職員一人あたりの取り分を増やす事業所もあります。それぞれ、自分たちがやりたい事業のやり方を主体的に決めて実行し、その中で次のリーダーを育てていくということです。ただ、最近は少々見直しをしています。というのも、独立採算を徹底しすぎると、法人としての一体性が薄れがちになってしまうんですね。」

自分の職場は自分のもの

 では、それぞれの事業所の中はどうだろうか。「協同労働の協同組合」としての特色はどのように現れているのだろうか。

 「その点では、2014年に『ささえあい生協で働くこと』という指針を作っています。私たちは一般の会社と違って協同組合、そこで働くには自ら出資が必要なんだ、と書いています。一番言いたいことは“自分の職場は自分のものなんですよ”ということ。いま“会社は株主のものだ”という考え方も少なくありません。一株一票の株式会社制度は、株をたくさん握っている者に決定権があり、そうなるとカネがすべてということになります。しかし、協同組合の場合は一人一票、決定権は全員にある。」

 そのため、ハローワークで職員を募集する際にも出資(1口=5000円、以上)という条件を記した上で、新しく入った職員に組合員になるよう働きかけているという。

 さらに、出資に加え、各自の給料2ヶ月分(以上)を目標に増資積み立ても要請しているとのことだ。

 世間一般の企業では、雇われる側が出資や増資を行うようなことはない。いくら「雇う・雇われる」関係ではない協同組合なんだと説明しても、なかなか理解されにくいはずである。実際、入って間もない職員の中には、家族に相談したところ「そんな怪しいところはやめたほうがいい」などと言われて辞める事例もあったそうだ。

 「しかし、これは重要なことなんです。事業を行うには運転資金が必要です。ところが、介護保険事業では今月の事業の収入が入るのは2ヶ月後ですから、事業の立ち上げから2ヶ月は収入がありません。それでも家賃、水光熱費、まして給料を払わないといけない。その間どうするのか。」

 要するに、自分がその事業所で働くには、事業所が継続できなければならないし、そのためには運転資金の安定が必要であり、出資や増資はそのために必要なのだ。言い換えれば、自らを「雇われる側」に限定せず事業運営への参加まで含めて主体的に働くこと、それが協同労働ということだろう。

 「そんなことを説明します。ほとんどの人は半分ぐらいしか分からないでしょう。実は12年前、最初の事業立ち上げの時にも同じようなやり方をしたんですが、総スカンをくって棚上げせざるを得ませんでした。そこで、必死になってとにかく食えるような事業計画を立て、3年ぐらいして事業が回りはじめたところ、ようやく職員の中に受け容れられそうな雰囲気が生まれたんですね。その上で、2014年になって、この指針が理事会で通りました。」

 現在では、225人いる職員のうち、およそ8割が毎月、自分の給料から1口=5000円の単位で給料の2ヶ月を目標に増資を継続しているという。5000円が厳しい場合には分割も可能とのことだが、単純計算で一人あたり一年6万円、それがおよそ200人分積み立てられると考えれば、運転資金の安定化に大いに役立つのは明らかだ。

 それだけでなく、最近は当の職員にも感謝されているらしい。というのも、何かの都合で辞めざるをえなくなった場合、すぐに失業保険は出ないが、出資金の返還分があるため余裕が生まれるからだ。

 「僕らも職員に対して、最初は自信を持ってお願いできませんでした。でも、そんな及び腰では誰も協力してくれません。確信を持って、熱を込めて言うと、ようやく協力してくれるんです。」

 高見さんが確信を持ったきっかけは、スペインの協同組合の集合体「モンドラゴン」の事例を知ったからだという。

 「モンドラゴンでは、職員は給料の1年分を出資しています。全部で300ほどの協同組合の中心に労働人民金庫という金融機関がありますが、そこに各組合の1年分の増資分が積み立てられます。資金に余裕のない職員には労働人民金庫が貸し付けもするそうです。そうした資金があると、たとえばリーマンショックのような避け難い外部状況の変化によって、ある業態の協同組合がうまくいかなくなったとしても、それをバックアップしたり、あるいは整理して別の業態に転換するといった作業がスムーズに行えます。さらに、減収にも人員削減で対応することなく、一律給料カットで持ちこたえ、不足分を労働人民金庫から補填することも可能です。私たちも、ゆくゆくはそうした方向を目指しています。」

地域に協同を開く

 以上のように、12年にわたる積み重ねによって、ささえあい生協の運営は盤石と言える状態を迎えた。しかし、そこに止まることなく、高見さんは「次」を見据えている。

 「現在は地域に広げていこうと考え、実践しています。ささえあい生協は法律の上では『消費生活協同組合法』で括られ、サービスの対象が組合員に限られるという制約があるんです。だから、生協としてできないことについては一般社団法人をつくったり、医療のことは医療法人をつくったり、社会福祉法人をつくったりしています。

 最近では、2017年に社会福祉法人「けやき福祉会」が設立され、今年6月には同福祉会の拠点となる高齢者総合生活支援施設「あい・いからしの郷」が開業した。特別養護老人ホームと小規模多機能型居宅介護事業所を事業の中心としながら、子ども食堂やコミュニティ・サロンも併せ持つ、地域に開かれた拠点である。

 「ささえあい生協の組合員の方から“土地があるので事業をやりませんか”と申し出があったことがきっかけです。“特別養護老人ホームをやろう”となりましたが、生協法人では法律上できません。そこで社会福祉法人をつくりました。

 準備会の段階で言ったのは、“生協として応援するから、地域の人たちと一緒になってつくってほしい。半々でやりましょう”ということです。具体的には“生協で5000万用意するから、皆さんも地域で5000万用意して欲しい”と。

 ただし、この5000万は出資でなく寄付になります。生協の内部では“ただでさえ現場は低賃金なのに、なんでそんな大金を?”と反発もありました。」

 そうした意見に対して、高見さんは各事業所を回って職員に説得を繰り返したという。生協の地域に対する貢献の意義、事業面でのメリット。まさに「情けは人のためならず」。その結果、なんとか合意形成にこぎ着けたそうだ。

 「地域の人も大変でした。事業の申し出をした組合員さんが、文字どおり一軒一軒、“地域の福祉拠点を作りたいので協力してくれませんか”と地域を回られました。およそ6000軒を回って、最終的には400軒から5000万を集め切ったんです。それで事業計画を立てて、国や県から補助金をもらいながら、建物だけで5億円、事業費全体で7億円ぐらいかけてつくることができました。」

 さまざまな制度、使えるものは使いながら、主人公はあくまでも地域に暮らす自分たちであるという原則に基づいて事業をおこし運営する。高見さんは、それこそが協同組合の真骨頂だという。

 「自分がやりたいこと、夢や理念、住民のニーズを生業にしていくというのが、ささえあい生協の仕事のつくり方です。たとえば、生活困窮者がいる、孤食の子どもたちがいる、そうした実態から出発して、いっしょに学び、考えながら、自分たちの考えを伝え、仲間を増やし、共に行動していく。基本的には、その繰り返しなんです。」

 昨年の報告でも触れたが、新潟には協同労働や協同組合に関心を持つ団体や個人、学識者などが参加する「にいがた協同ネット」という枠組みが存在する。もちろん、ささえあい生協も中心的な参加者だ。

 それ自体は「持続可能な地域づくり」に向け、現に地域に存在する貧困・格差、少子化、エネルギーといった共通課題の解決にむけた協同の取り組みを目指すネットワークだが、その中から「NPOフードバンクにいがた」が生まれたり、再生可能なエネルギーづくりに取り組む市民運動との連携の中から「おらって市民エネルギー株式会社」が設立されたりしている。ささえあい生協だけではないにせよ、ささえあい生協も含めた地域における協同の相乗効果と言える動きであることは間違いない。

 ちなみに、高見さんによれば、ご自身も含め、ささえあい生協の創設メンバーはもともと市民運動、社会運動の出身だが、生協の活動そのものは、そうした運動経験を直接の基盤にしたものではないそうだ。とはいえ、そうした運動経験があったからこそ、社会的な課題に取り組む諸団体との連携や地域のさまざまなニーズへの着目が可能になったのではないかと思われる。

地域の主人公は私たち

 高見さんは、協同組合の歴史的な意義について、こう触れられた。

 「いまのような時代だからこそ、逆に協同組合が必要とされると思います。先ほど触れましたが、モンドラゴンはリーマンショックでも持ちこたえました。みんなで支えあう文化や先人の思いを受け継ぐことができていたからでしょう。おカネではなく人、人の集まりが協同組合だということです。」

 とはいえ、それは仲間内の馴れ合い、もたれ合いになってはいけない。

 「一方で、順調な時ほど、変化にどう対応していくのか考えないといけません。変化に対応できなければ潰れしまいます。東芝しかり、大塚家具しかり。世の中の変化に対応が遅れないよう積極的に手を打たないといけない。そう考えて、私たちは積極的に事業所を立ち上げています。指定管理や業務委託といった制度に依存していると、行政の方針が変わればすぐに潰れます。」

 協同の重要性は自力更生と自治・分権を通じてこそ実感されうるというわけだ。

 「いま順調にいっているところでも、何かの拍子に傾く場合があります。そうなったらどうするか。支えあいです。みんなでサポートするし、助言する。実際に立て直すのは現場のリーダーや職員たち。ただ、リーダーも難問を自分一人で抱え込んではいけません。困った時には率直にみんなに相談し、みんなの力を引き出すしかないんです。」

 高齢協連合会でも、各地の高齢協はそれぞれ独立採算で活動している。そのため、ともすれば連合会としてのつながりが薄れがちになっていたそうだ。再認識するきっかけになったのは「3・11」だったという

 「私たちの新潟を拠点に、全国から救援物資を集約し、東北各県の高齢協に持っていきました。このことによって、誰もが改めて連合会の意義を身にしみて分かったと思います。まさに『一人は万人のために、万人は一人のために』です」。

 こうした協同の関係を地域に広げることを通じて、国や大企業ではなく、地域に暮らす私たち自身が地域の舵取りをしていくこと――。それが高見さんの目標だ。

 「イオンやローソンで物を買えば、24時間以内にカネは確実に東京に吸い上げられていきます。それに対して、地域の中に生産者がおり消費者がいる、両者がつながれば、地域の中でモノやカネが回ます。そうした基盤があれば、政治も回していけます。自分たちの首長を選ぶ、議員を選ぶ。政治も経済も生活も丸ごと自分たちがイニシアティブ(主導権)を取る。他人任せではない、私たちが主人公なんです。」

 最後に高見さんは、日本における協同組合運動の先駆者、賀川豊彦の次の文章を紹介された。

 「協同組合の基本原則の一つはそのサービスをコミュニティ全体へ広げることである。真の協同組合とは、その活動の広がりにおいて、全コミュニティ的なものである。」(賀川豊彦『友愛の政治経済学』(日本生活協同組合連合会・2009年)

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 「北大阪(商工協同組合)さんは、私たちよりはるかに歴史も長く、すばらしいことをされている」。

 お話の中で、高見さんからそうした評価をいただいた。たしかに、客観的に見て北大阪商工協同組合がいまなおユニークな存在意義を持っていることは間違いない。その多くは、支えあう文化を作り上げてきた先人の営為に依っているだろう。

 しかし、私たちは、そうした支えあう文化を、先人の思いを自分たちなりに展開できているだろうか。あるいは、それらを地域に開いていくために何ができているだろうか。そもそも、そうした目標が明確になっているだろうか――。

 高見さんのお話を聞きながら、何度も自問自答せざるを得ない現状があることも、また事実だろう。そうした自省の機会を与えていただいたという意味でも、今回のお話は貴重なものとなった。

                                               (山口協:当研究所代表)


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