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地域から政治を考える

映画『コスタリカの奇跡』を見て
「国を守る」とは? よく考えよ


 8月19日に能勢町で、映画『コスタリカの奇跡』の上映会を行いました。能勢で人は集まらないという経験から、準備段階では全員引き気味でした。しかし、赤字になってもやろうということで、いろんな形での宣伝活動を行いました。

 蓋をあけてびっくりでした。80人近い人が上映会に来てくれ、その半分は能勢町の人でした。その他は、近隣の豊能町、猪名川町、川西市からも来場者がありました。遠くは京田辺市、河内長野市からも来訪者がありました。この映画に対しての関心の高さを感じました。

 実は、能勢町では、これが最初の上映ではありません。すでに、エスペーロ能勢(フェアトレードショップ兼カフェ)で3日間上映していました。私も、そこでこの映画を見て、より多くの人に見てもらいたいと思ったのです。

 日本国憲法9条の改悪が行われようとする中、そもそも9条が掲げるように軍隊を持たずに国が生存できるのか、理念としてはともかく実際に可能なのか――、疑問を持つ人は少なくないと思います。とくに、安倍政権になってから中国の脅威が声高に叫ばれ、昨年は“北朝鮮のミサイルが飛んでくる”と騒ぎたてて、米国から高価な武器の購入を押し付けられました。はたして、憲法9条で日本の平和を守り、東アジア平和をつくることがきできるのか、と。

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 しかし、映画にあるコスタリカは警察がいれば安全は保てるとして、1946年に国軍を廃止しました。以来、現在に至るまで軍隊を持っていません。その結果、軍事予算が必要でなくなり、その分福祉や教育に力を入れることができたそうです。

 もっとも、その道のりは平坦だったわけではありません。国軍を廃止した直後には、隣国ニカラグアの独裁者に率いられた傭兵軍がコスタリカを襲い、警察が追い返すなどの事態が発生しました。一方、ニカラグアで独裁打倒の革命が起きた時には、米国はコスタリカに反革命側の基地を提供するよう要求してもいます。

 そうした中で、コスタリカは中立を宣言し、軍事力による解決に身を委ねることなく、国際法に基づく外交的な解決を追求してきました。ノーベル平和賞を受賞したサンチェス元大統領の時代には、積極的に中米全体の和平のための努力を行っています。

 すごいと思ったのは、政権が代わっても、どの政権も再軍備をしなかったことです。それも、コスタリカの憲法には、再軍備を可能とする条項があるにもかかわらず、です。いわば、軍を持たないことが文化になっていたのでしょう。

 周辺諸国では軍によるクーデターが頻発していましたが、コスタリカではそうした事態は起こらず、民主的な方法で政権交代がなされていたのです。軍事費をつかわず、福祉や教育に力を入れた結果、国民の生活も豊かになりました。

 しかし現在、コスタリカは新たな事態に直面しています。米国との間で自由貿易協定を結んだことで、新自由主義の波がコスタリカを襲い、国民の間での格差が大きくなり、国内に不安定要因が拡大していると言います。それをどのように乗り越えていくのか、映画の中では課題として提示されていました。

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 この間、東アジアでは南北首脳会談、朝米首脳会談が行われ、緊張緩和の流れが高まりつつあります。9条の立場に立つならば、東アジアの平和のために、日本は積極的な役割を担わなければなりません。ところが、日本は軍備も交戦権も放棄するという憲法を持ちながら、軍備に頼ろうとしています。蚊帳の外から北朝鮮への制裁強化を叫び、中国に対しても南西諸島への自衛隊の配備を強化して緊張を高めています。

 「国を守る」ということは、国民の一人一人の安全を保つことなのか、国家の安全のために国民の犠牲も厭わないということなのか――。ここがコスタリカと日本の違いではないでしょうか。

 ぜひ、この映画をご覧ください。全国各地で自主上映が行われています。

                      (戸平和夫:北摂反戦民主政治連盟)


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