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よつばの学校 責任者講座 報告

“多様な種”が共存する地域をめざして
           勇川(ゆうかわ)昌史さん(オリーブの会)のお話

 関西よつ葉連絡会の職員研修として、事業活動に込めた問題意識を次世代に継承していくことを課題とする「よつばの学校」責任者講座。今期は「想いを形に(理念を事業に)していく」というテーマで、よつ葉に比較的近い間柄の中、社会的な問題意識を出発点としつつ、それを事業として展開している方々からお話を伺うことになりました。その第3回目は、京都・山科で統合失調症や躁鬱病などの心の病をもつ方々の就労復帰、社会復帰を支援しているオリーブの会、勇川昌史さんです。以下、お話の概要を紹介します。
                                      (まとめ・文責:山口協[当研究所代表])


オリーブの会の沿革

 まず私たちオリーブの会の沿革についてご紹介します。設立は1987年8月、京都府立精神保健福祉総合センターのデイケアに通っていた利用者さんの家族が主体となって「オリーブの会共同作業所」が設立されました。精神保健福祉総合センターというのは、都道府県に必ず一つある、精神障害者に対する治療やデイケアなどを行う行政機関で、2~3年の利用期限があります。

 ところが、当時は周囲に通所施設などはなかったので、利用期限を迎えた利用者さんの家族が「それなら自分たちで作ろう」と設立し、いわゆる無認可の共同作業所としてスタートしました。設立者の一人が営んでいた文房具店を開放して、その2階で作業をはじめたとのことです。

 会の名称にあるオリーブの由来ですが、オリーブを栽培していたからではありません。「おれても、おれても、そこから芽を出して伸びてゆく、強くたくましいオリーブの木のように、病気の再発に耐えて、強く生きてゆきたい」との願いを込めて名付けられました。

 それ以降、2002年には特定非営利活動(NPO)法人やましなオリーブの会、2004年には社会福祉法人オリーブの会と形態は変わりますが、集まってこられる障害を持った利用者さんに作業を提供する作業所として、活動内容は変わっていません。私たちの運営資金は国からの補助金なので、そのために法律の改定に合わせて法人格を取っていったわけです。

 私は2005年の夏にオリーブの会に来ました。もともと大学で福祉の勉強をしていましたが、真面目に福祉の勉強をしていたわけではなく、卒業後は企業相手に不動産を仲介する仕事に就きました。いまになってみると、その経験が現在の仕事にも役に立っていると思いますが、当時は「自分がしたいことはこれなんだろうか」という迷いを抱えており、結局は一年ちょっとで辞めることになりました。

 仕事を辞めた後、たまたまオリーブの会がアルバイトを募集していることを知りました。私自身は、とくに精神障害に詳しいわけでも、その支援としたいと思っていたわけでもなく、ただ何となく福祉の仕事がしたいと思って面接に行きました。

勇川さん
  ■勇川昌史さん
 後から知ったことですが、その当時、オリーブの会の役員の中で今後の事業の方向性をめぐる議論があり、「農園事業をしてはどうか」という話が持ち上がっていたそうです。役員の中に農家の方がいた縁で、私が来る以前にも野菜の販売をしたことがあったそうです。そのため農業には比較的親近感があったらしく、そんなところに当時20代そこそこの私が来たこともあって、2005年11月に農園事業を開始することになりました。

 農園と言っても自前で農地を持っているわけではなく、地主から無償でお借りしている状況です。もっとも、それまでは事実上、耕作放棄地のような状態だったので、私たちが農業をすることについては喜んでいただいているように思います。

福祉作業所をめぐる現状

 2008年10月には、障害者自立支援法に基づいて「就労継続支援B型事業所」になりました。簡単に言うと、B型は利用者と雇用契約を結ばずに柔軟な働き方の作業を提供するものです。一方、A型は雇用契約を結ぶので、労働基本法で最低賃金などが決まっています。どちらがいいか、一概には言えません。利用者さんの状況によっては、A型で労使関係になるとシンドくなる場合もあります。B型は利用者さんの都合に応じて柔軟に働けますが、賃金は非常に低いです。

 ところで、福祉業界ではこの間「悪しきA型」という言葉をよく耳にします。これは、補助金を目当てにしたA型事業所の問題を指しています。私たち福祉事業所は基本的に利用者さんが来られることで国から補助金をもらい、それで運営をしています。そのため、残念ながら利用者さんに来てもらうことだけを目的とし、作業の内容や利用者さんへのケアについては中身がない事業所も少なくありません。

 たとえば、倒産しかけた一般企業がA型事業所に衣替えして雇用契約を結び、補助金をもらうだけで、利用者さんはほったらかし。あるいは、「特定求職者雇用開発助成金」といって、障害を持つ方々がハローワークを通じて求職活動を行い、雇用されると約3年間で総額240万円が出る制度があります。それを使って3年経ったら事業を止めるというA型事業所も相次いでいます。そもそもの目的が違うということに尽きるかと思います。

 私たちはB型事業所をしていますが、社会福祉法人として定款には次のように事業の目的を記しています。

 「この社会福祉法人(以下「法人」という。)は、多様な福祉サービスがその利用者の意向を尊重して総合的に提供されるよう創意工夫することにより、利用者が、個人の尊厳を保持しつつ、自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援することを目的として、次の社会福祉事業を行う。

(1)第二種社会福祉事業
 (イ)障害福祉サービス事業の経営
 (ロ)特定相談支援事業の経営」

 あくまでもこれが事業の目的なので、法人としての資産を増やすとか、職員に対してたくさん給料を払うとか、そうしたことを目的にしているわけではありません。

 A型事業所に限りませんし、A型事業所のすべてではありませんが、先ほど挙げた「悪しきA型」の場合は、利用者さんの地域での生活を支援するよりも、自分たちの営利を目的にしており、だからこそ収益が上がらなくなれば簡単に事業を止めたりするわけですが、私たちはそうではありません。この点では、これからもブレることなく事業を継続していきたいと思います。

オリーブの会の事業内容

 さて、次にオリーブの会の事業内容ですが、次の四つです。

■就労継続支援B型事業所(定員25名)
・主たる事業所:オリーブホットハウス
・従たる事業所:オリーブ農園
 通常の事業所に雇用されることが困難な障害のある方に対し、生産活動などの機会の提供、知識および能力の向上のために必要な訓練などを行うサービスです。
 畑作業、野菜販売、内職、自主製品(和風小物、さをり織り)、清掃作業、喫茶作業等、自分で従事する作業を選択してもらい、それに応じた支援を行っています。

■計画相談支援事業所 オリーブ相談支援事業所
 利用者の自立した生活を支え、障害者の抱える課題の解決や適切なサービス利用に向けて、ケアマネジメントによりきめ細かく支援します。

■京都市こころのふれあい交流サロン「るまんやましな」
 地域の当事者と住民の交流スペース。喫茶活動や絵画教室、歌のサロン等を実施しています。また、地域の絵画展を実施したり、敬老週間で近隣高齢者にサロンを開放する等、地域貢献活動も積極的に行っています。

■共同生活援助 グループホーム小山の家
 利用者が地域で共同して自立した日常生活または社会生活が営むことができるよう、相談、入浴・食事の介助その他日常生活上の援助を行うサービスです。

 メインとなるのは「就労継続支援B型事業所」で、来られる利用者さんに対して、私たちは畑作業、野菜販売、内職、……といった作業を提供しています。提供する作業は事業所ごとに自分たちで決めるわけですが、作業に応じて一定の収入があり、その収入を利用者さんに分配するのが原則です。

 「通常の事業所に雇用されることが困難な障害のある方」という表現は国が定めている利用者の条件で、あくまでも一般の労働市場を通じて求職活動をした結果、「通常の事業所に雇用されることが困難」となった方々に提供するサービスという位置づけなので、たとえば学生で引きこもりになっていた人が外に出るためにB型事業所を利用しようと思っても、できません。つまり、社会から「働けない」というレッテルを貼られないと利用できないわけで、私自身は疑問を持っています。

 いま定員は25名ということになっています。ただ、知的障害や身体障害の方の場合は、登録された方がほぼ毎日通所されるようで、登録者と定員がだいたい同じになりますが、精神障害の場合には障害特性として、定期的に通所したり、毎日作業したりすることが苦手な方が多い傾向にあります。そのため、定員は25名ですが登録しているのは53~54名です。つまり1日あたり登録者の約半分が来られますが、毎日来られるのは約1割というところでしょう。少ない場合は、週1回あるいは週1回の午前中だけという方もいます。

何のために事業をするのか

 事業所の運営資金となる国からの補助金は、利用者1日あたり10人なら10人分、25人なら25人分というように、1日の利用者数によって補助金の枠が変わります。補助金はあくまでも事業所を運営するためのものなので、基本的に職員の人件費、水光熱などの設備費に充当されます。しかし、事業所の中にはその補助金を利用者の給料に回していたところがありました。原則は禁止なので問題になり、規制される事態になりました。その結果、補助金で利用者に給料を払っていた事業所は給料の源泉がなくなり、運営できなくなって閉所する事例が増えてきました。

 ただ、私はこの間の補助金のあり方自体にも疑問を持っているところがあります。

 図1(下記)は私たち就労継続支援B型事業所に対する「加算」の仕組みを表したものです。利用者1名が1日(時間問わず)利用した際に、下記の積み上がった単位数の報酬が支払われます。全体の支払いは、これに利用者数をかけたものです。








【図1】就労継続支援B型事業所の「加算」の仕組み


利用者1名が1日(時間問わず)利用した際に、左記の積み上がった単位数の報酬が支払われる。

 このうち基本となるのは「就労継続支援B型サービス費」で、さらに事業所の取り組みに対して、それに見合った加算がなされます。この中で、私から見ると「福祉専門職配置加算(Ⅰ)」と「重度者支援体制加算」が福祉の側面に応じた加算金であるのに対して、「就労移行支援体制加算」「目標工賃達成加算(Ⅰ)」「目標工賃達成指導員配置加算」「施設外就労加算」は労働の側面に対する加算金と言えます。それぞれ、就労させたことに対して、目標とする工賃を達成したことに対して、そのために指導員を配置していることに対して、作業所以外で就労していることに対して、加算されるわけです。

 事業所の方針として、労働の側面を重視するのか、福祉の側面を重視するのか、それによって年間の補助金で800万円ぐらいの違いが出てきます。要は、工賃をたくさん払ったり、より多く就労させたりすることに対して加算が厚くなるように制度設計されています。そうなると、労働の側面の加算を取ろうとする事業所が増えてくるのは当然とも言えます。事業所が工賃をたくさん払おうとすれば、毎日来られる利用者さんが基本になり、社会から高賃金と認められている作業を提供することになります。たくさん就労してもらおうとすれば、それに見合った能力を持つ利用者さんが対象になるので、事業所側が利用者さんを選別する事態も起きてきます。

 その結果、医療機関から退院したばかりで、未だ週1回しか通えない利用者さんに対して、受け入れた場合には工賃の平均が下がったり、そもそも通所が難しいということで、「週○回通所できないと受け入れられません」という事業所が増えてきました。

 これは先ほど触れたように、何のために事業しているのか、目的がブレてきているからだと思います。もちろん、加算システムに見られるように国の政策誘導があるので、事業所がその影響を受けるのは当然だとは思います。ただ、やはり本当に何をしたいのか、目的がズレてきているからこそ、こういう問題が起こるのだと思います。そういう事業所が増えていることは事実です。

 図2(次頁)は福祉事業所の事業領域として3つの領域を示したものです。この中で、第1事業領域はNPOも一般企業も参入できる領域です。現状は、ここだけが民間企業の参入などで拡大傾向にあり、お金になる支援が「限定的」・「中立的」に行われている一方、第2、第3の事業領域に携わる事業所は少なくなってきたように感じます。実際、オリーブの会ができた30年前、山科区では私たちしかなかった作業所が、現状では25~26ヶ所もできています。利用者としては選択肢が増えるわけですが、数が増えたことを素直に評価できるかと言えば、私は引っかかりを感じています。

【図2】福祉作業所の事業領域
※現状は第1の事業領域のみが拡大傾向にあり、お金になる支援が「限定的」・「中立的」に行われている。

 というのは、私たちはそもそも制度がなく、障害を抱えた方々が通える作業所がないからこそはじめたという意味では、主たる事業の対象は第2、第3の事業領域だったわけです。それが、ようやく一定の制度が整備されて見れば、参入するのは第1の事業領域にばかり。そんなことでいいのか、危機感を感じているところです。

作り出される「障害者」

 この点で、そもそも根本的な問題意識をお話しします。まず前提として、この間、福祉事業所が増えているのは、障害を持つ方々が増えているからです。いま日本全国で障害を持つ方々は936万人、全人口の7.4%に相当すると言われています。そのうち身体障害が436万人、知的障害が108万人、精神障害が392万人ということです。右肩上がりの増加傾向です。

 しかし、なぜ増加傾向なのか、そもそも疑問に思うべきではないでしょうか。それを問い直すことなしに、「事業所の数が増える、制度が整う、事業が継続できる」ということだけでは、私たちの事業の方向性は明らかになりません。

 私の実感では、労働市場で生産性や効率性を軸に評価した場合、そこから漏れる方々がたくさんいるのが事実です。先ほど触れたように、毎日通えないとか、集中力がなかなか保てず、1日2~3時間しか働けないという方々は、現在の労働市場では働くことができないわけです。つまり、俗に言う「1日8時間×週5日=40時間」働くことができれば労働力として評価される一方、そうでないがゆえに労働市場で評価されない「病人・老人・障害者」は家族のもとに返されていきます。

 仮に労働市場の側に、「週に数時間しか働けなくても、あの人は○○ができるから○○をやってもらったらいい」というくらいの許容量があれば、障害を持った方々も存分に社会で働ける場所があるのかもしれません。しかし現実には、生産性や効率性に評価の軸を置かれると、そこから漏れる方々がたくさんいる、しかもその評価の幅がどんどん狭まっていっているという印象です。要するに、そこから漏れる方々、それに馴染めない方々が障害者や病人として弾き出されているのではないのかということです。

 それを象徴するように、「発達障害」など昔はなかった病名・障害名が圧倒的に増えています。たぶん皆さんの経験でも、クラスの中に落ち着きがなかったり、勉強はできないけど駅名を覚えるのは早いというような同級生がいただろうと思います。そういった方々も、かつては学校や社会で包摂されていたのが、いざ「アスペルガー症候群」とか「発達障害」とか病名がつくことで、障害者向けのサービスを使う方向しかなくなり、その結果、障害者が増え続け、福祉事業所が増え続けているというのが現状ではないでしょうか。

 つまり、もともと障害は個人にあるというより、むしろ社会の側が作り出している側面があるということです。だとすれば、社会の側が許容量を広げたり変わっていかなければ、障害者を生み出す構造は変わらないと思います。だから、私たちの事業も、利用者さん個人を支援するだけではなく、利用者さんが生きていく地域社会のあり方を問題にしなければならないわけです。

 その意味で、私は自分の仕事は「ソーシャルワーク」だと思っています。決して事業所を運営する事業家でもなければ畑をする農家でもありません。ちなみに、ソーシャルワークは次のように定義されています。

 「ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。

 社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。

 ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。」

 私はあくまでソーシャルワーカーとして、いまの社会の中でシンドい思いをしたり齟齬を抱えたりしている方々を支援するのが仕事です。その一つのツールとして、こうした事業所を運営しているわけです。極端に言えば、社会との接点でシンドさ、生きづらさ、齟齬を感じる方々がいなくなれば、私たちの仕事もなくなるのかもしれません。そういう社会を希求することが、私たちの仕事だとも言えます。

取り組んでいる事業の紹介

 その上で、取り組んでいる事業について、いくつか紹介します。

【農園事業】
 地主の協力のもと、無償で農地を使わせてもらい、農園事業を行っています。

 もともと耕作放棄地だったり、地域にあまっている農地や農機具を使わせていただいています。地元のボランティアの方々、多くは定年退職された方々が、さまざまな機会を通じて農園に集まっていただいています。作業の手伝いはもちろん、女性の方々はお漬物を漬けたりしてくれます。地域の方々の生きがいという部分でもつながっているように思います。

 そうした農園事業の一環として、よつ葉さんには大根の古漬けや切り干し大根やなどを扱っていただいています。おつきあいのきっかけは、京都で佃煮の専門店をされている「津の吉」の吉田さんに紹介していただいたことです。その後、2011年に起きた東北大震災で、よつ葉さんが呼びかけた復興支援活動に同行させてもらいました。

【配食事業】
 京都市からの委託事業で、食事をつくることが困難な高齢者に昼食を届けています。農園でとれた新鮮野菜を使って弁当を作り、利用者さんが一軒一軒ご自宅にお届けしています。

 配食と同時に高齢者の見守りを兼ねていて、地域の高齢者施設や包括支援センターなどと連携しています。

【子ども食堂】
 農園でとれた野菜を近隣の子ども食堂に届け、食材として使用してもらっています。商品のとしてだけでなく地域資源として、私たちが作ったものを活用してもらっています。

【マルシェ・ワークショップ
 オリーブ農園の旬の野菜を使用し、インドカレー教室、マクロビ料理教室、天然酵母のパン教室等を行っています。

 また、秋にはさつま芋ほりを企画し、近隣の保育施設やよつ葉(京滋産直センター)の会員さんとの交流会を実施しています。

 山田製油さんや蔦屋書店さんと連携し、毎月岡崎マルシェを開催したり、各種地域の催しに出店しています。

【京の杜プロジェクト】
 京都市の外郭団体が主体となって、京都のまちの落ち葉を堆肥化して土をつくり、土を利用して、苗木や、野菜・草花を育て、森作り・街の緑化・菜園作りをする取り組みです。

 私たちは、地域の落ち葉を集め、堆肥化し、伝統野菜の「山科なす」を栽培しています。

 これまで堆肥は購入していましたが、醍醐寺で作られた堆肥を使用し、野菜の栽培をし、梅干しで使用する赤紫蘇を提供しています。

【地域内連係】
 地域内でのニーズに基づき、利用者さんの作業として、施設外でさまざまな作業を行っています。

 社会福祉法人京都老人福祉協会からはショートステイ事業所の清掃や介護補助の業務を請け負っています。

 20年以上おつきあいのある山科の文庫店さんの畳紙や山科の印刷会社さんの袋折等、地域の中で営まれている経済活動を作業所という立場から応援しています。

 単に工賃を得るのではなく、自分たちのしている内職が何につながっているのか、利用者さんがちゃんと理解してもらえるような仕事がしたいと考えています。そのために、山科地域の中で仕事をされているところと連携して内職をいただき、利用者さんの作業として提供しています。

【自主製品】
 また、地域の方から着物地をいただき、それを再利用してカバンやポーチ、小物入れなど手作りの和風小物を制作しています。

 また、さをり織りの布を納品し、それをフェリシモで加工し、「あとりえめいど」としてフェシリモカタログで販売されています。

【醍醐寺】
 伏見区醍醐にある世界遺産「醍醐寺」の落ち葉拾いや溝掃除当の営繕業務を行っています。また、上醍醐の参道の清掃等も行っています。敷地は非常に広いので、いくらでも仕事はあります。醍醐寺側からも、他所に仕事を出すぐらいならオリーブの会にお願いしたいとの意向をお聞きしています。ここで働く利用者さんは、最低賃金をクリアした工賃をいただいています。

【こころのふれあい交流サロン】
 京都市を事業主体として、各行政区に一つずつ、地域の障害を持った方々と一般市民との交流を目的に、サロンが開設されています。山科区では地域の方々を中心に「こころのふれあい交流サロン実行委員会」を立ち上げ、京都市からの委託を受け、「るまんやましな」という名称で運営しています。

【フリースペースみんなの家大宅】
 山科区地域福祉推進委員からの依頼により、先の「るまんやましな」の定休日をフリースペースとして開放しています。このフリースペースは山科区の地域福祉計画の重点項目で、各小学校区に1つずつ、高齢・障害・児童問わずにみんなが集える場所をつくることを目指しています。

【ネットワーク】
 山科こころの健康を考える会、京都市東部障害者自立支援協議会、山科地域福祉推進委員会、京都精神保健福祉施設協議会、全国社会就労センター協議会など、さまざまなネットワークに参加することにより、一事業所のみでは解決の困難な当事者や地域の課題を、多くの事業所とともに行政や地域に働きかけ、社会を変革していくことを目的にしています。

 こうした事業の目的はいずれも利用者さんの地域生活を支えるためであり、利用者さんが障害や性別といった諸条件に囚われることなく、自分らしく生活していくためのものです。そのため、たくさんの方が来ていただく分だけ利用の収益が上がることは確かですが、そのこと自体を目的としているわけではありません。むしろ、使用者さんがどうしたら地域で生活できるのか、社会の側に返していくことが目的です。そのために、障害を持つ方々が地域で当たり前に存在するということを事業を通じて発信していきたいと思っています。

 とういうのは、たとえ地域に福祉作業所があったとしても、活動内容が地域の方々にとって目に見えるものでなければ意味がないからです。何かよく分からないけれど障害を持った方々が集まって何かしているらしいという場所ではなく、どんな活動をしているのか、それが地域にどのように役立っているのか、地域の方々がそれをどう見ているのか、そうしたことが客観的に分かるような事業をしていく必要があります。障害を持った方々を囲って「福祉施設です」と言っているようでは地域社会の状況は一向に変わらないと考えて、いまのような事業をしているわけです。

農園事業の効果について

 さて、以上のさまざまな事業の中でも中核に位置づけられるのが農園事業です。その効果について紹介したいと思います。

 まず言えるのが、利用者さんを受け入れる幅が広がった点です。農園事業をはじめる前、無認可の共同作業所の時代には登録者は12~13名でした。それがいまでは50名です。それというのも、農業は、草抜きや水やり、収穫や土づくりなどすべてが仕事になるからです。

 室内で座って作業をするのは苦手でも、変化のある屋外での作業なら持続力が続く方もおられます。発達障害の特性として、一定のリズムで同じ作業をずっと続けられる方は、草抜きをしてもらうと本当にきれいになります。僕らなら5分でシンドくなりますが、1時間でもずっとやってくれます。そうした、いまの社会ではなかなか発揮しづらい能力も存分に発揮してもらえます。

 利用者さんにとっては、屋外に出ること、太陽の光を浴びること、それだけでも生活リズムが安定します。身体を使って疲れれば、夜もよく眠れます。精神障害を抱えた方々は、夜眠れなくて昼夜逆転したりする場合が多いので、身体の基本的なところでいい影響があると思います。農業の懐の深さは障害を持った方々と合うというのが実感ですね。

 それから、実際に収益が上がりました。それまでの内職の場合、工賃は一つ1円か2円の世界なので、時給も80~90円にしかなりませんが、農業をするようになってから300~400円くらいに上げることができるようになりました。さらに、給食や配食に利用できるということで、事業規模も拡大しました。

圃場
■オリーブの会が農園事業を行っている圃場
 さらに、価値観の変化・再構築という点では、利用者さんの生き方の多様性が広がったと思います。利用者さんはだいたい障害年金を受給しています。2級の場合は月6万5000円が支給されます。これだけで生活していくのは苦しいですが、農業を通じて食べ物をある程度確保できれば、障害年金と合わせてそこそこ生活ができます。たとえば「週40時間」という、いまの社会で標準とされる労働をしなくても生きていくことができる、そういう生き方が認められるわけです。

 そのほかにも、収穫した物をみんなで一緒に食べる機会も増えますから、少なからず他者とのつながりを通じた幸福感というものを理解することができます。食べ物というのは基本的に誰かが作ったものですが、自分が農業をすることで、そのことを実感できるようになります。私たちの身の回りにある物すべてが他者との関わり抜きには成り立たないわけですが、そうした人とのつながりを感じられるのは、孤立しがちな精神障害を持つ方々にとって貴重な機会です。

 とくに、私たちの農園事業の場合、地域の多様な方々が農業という場に参加していただけることで、利用者と職員という関係だけではなく、障害の有無にかかわらず自然で対等な人間関係が生まれると言えます。

 私はいまから3年ほど前に大学院に通って事業所の役割を研究する機会があり、その過程で以上のようなことをプロセス図にまとめたことがあります。その結論としても、利用者さんが単に通所して、作業して、たくさん工賃をもらったり、その延長線上で一般就労するといったことが事業所の目的ではなく、利用者さんの満足度や信頼度、自らが生きていく上での幸福感を高めていくことが、私たちの役割ではないかと考えるに至りました。

今後の展開と方向性について

 今後の展開として考えていることをいくつか紹介します。

 まず、よつ葉さんとの関係で言えば、山科を配送エリアにしている京滋センター(よつ葉ホームデリバリー京滋)さんとは、これまで会員さんも含めて芋掘りなどの交流を重ねてきました。その過程で事業連携の話が持ち上がり、ちょうどオリーブ農園の裏にあったスーパーが廃業したので、そのスペースを共同で確保し、配送センターを移転する計画まで煮詰まったんですが、残念ながらタイミングが合わずに流れてしまいました。そんなわけで、今後も事業連携を模索していきたいと思っています。オリーブ農園で採れた野菜を使って、京滋センター職員の皆さんの昼ご飯を作ったりできればいいですね。

 福祉サービスについては、今後もニーズがあればそれに応じた事業をするかもしれません。逆にニーズがなくなれば事業を止めるかもしれません。いま私たちは法人全体で20名ぐらい職員がいますが、個人的にはこの規模が限界かなと思っています。志を共有しながら、お互いがお互いの顔を見て事業をできるのは、たぶんこれくらいの範囲で、これ以上増えると誰が何をしているか見えなくなってしまうような気がします。

 それから、先ほど醍醐寺さんのところで申し上げたように、地域で必要とされる事業には、これからも積極的に入っていきたいと思っています。それが利用者の地域生活を支えると思います。そうしたことを通じて、究極的には共生社会の実現を展望していくということでしょう。

 最後に「KATE(かて)」という取り組みですが、これはいわゆる農福連携の一つとして、京滋センターさんやアグロス胡麻郷の橋本さんと一緒に、自分たちが作った野菜を福祉の関係でちゃんと共有しようという計画です。

 地域にはグループホームや入所施設など福祉の事業所が少なからずあります。その多くは、一般業者などから野菜を仕入れていると思いますが、その野菜を供給できないかと考えています。あるいは、農業をしていない事業所でも、地域の方々との交流を目的として野菜の販売を活用することができるのではないかと考えて、図3(下記)のような事業をはじめました。それぞれの本業が忙しいので、なかなか動けていませんが、こんな形で私たちの近隣で「自給圏」みたいなものができれば、ということです。

 それから、今後の方向性については、私が以前にまとめたものを紹介します。

 「組織的動員のような義務ではなく、
 それぞれの参加アクターの利己的な動機や実際の貨幣のやり取りを含めた取引等の利害関心に基づく自発性を前提とし、
 家族や個人的関係に基づくインフォーマルな無償の労働提供ではなく、
 社会福祉法人や福祉サービスといった有償性や市場原理の枠の中で、
 インセンティブのはたらく経済的評価に基づく画一的な価値ではなく、
 威信的価値や関係的価値のような多様な価値を生み出す柔軟性を重視し、
 専門職や関係者のみの専門主義や専門職とメンバーという閉塞的な二者関係ではない、
 様々な参加形態の多様なアクターが参加する対等性が目指され、
 その結果社会的価値が創造される。そしてそれがメンバー(利用者)の第一義ニーズを満たすことができ、それぞれの活動の価値根拠となる。
 経済的評価のみに価値を置かず、メンバー一人一人のニーズを捉え、多くの方々の同意と支援を得ることができるような事業運営が今後地域の福祉事業所には求められる。」
 以上の方向性の下、今後もさまざまな方々と連携しながら事業を継続していきたいと考えています。

    【図3】「KATE」の仕組み

質疑応答から

 
【質問】僕が勇川さんとはじめて知り合った頃と比べて、活動の幅がとても広がっていることに驚きました。一本筋は通りながら多様に展開しているという印象です。これは大学院で研究された成果でしょうか。

 
【勇川】そうでもないですね。10年そこそこしか経験はありませんが、一番大きいのは当初に比べて、問題意識を共有して一緒に仕事できる人が増えてきたように思います。何となく生きづらさを抱えたり、このままでいいんだろうかと思っている人が増えた結果なのかもしれません。醍醐寺さんの場合でも、単にコスト云々で一般企業に仕事を外注するのではなく、どうせなら私たちのように地域の中で活動する事業所にやって欲しいと言われるのも、分野は違っても、大きな方向性のところで共通する方々が増えてきたのではないかと思います。

 
【質問】能勢で農業をしています。能勢にも福祉作業所がたくさんあり、かつて、よつ葉のチラシの丁合をお願いした経験があります。最初は遅かったけれど、そのうち機械に負けない速さになり、しかも複雑な作業もしてもらえました。最近は赤紫蘇の葉の摘み取りをお願いしていますが、私たちではとうてい太刀打ちできない作業量と質です。残念ながら低い工賃しか払えませんが、それでも他所の内職より多いというので驚きました。いまは私たちが紫蘇を作って持ち込んでいますが、作業所の側で栽培から摘み取りまでできるようになれば、もっと収益は上がるはずです。それも含めて、近い範囲で連携できる余地はまだまだあると思っています。

 
【勇川】お話のような関係がある地域は豊かな地域だと思いますし、作業所が地域の中で果たす役割は少なくないはずです。ただ、僕らも含め作業所の側にはなかなか原価意識が薄いんですね。京都では土産物の内職はほとんど福祉作業所がしていて、作業所がボイコットしたら京都の土産物はたちまち立ち行かなくなるほどですが、それでも1円、2円の世界です。何とかしなくては、と思っています。

 
【質問】子どもがB型作業所に通っていますが、工賃は1日1000円にしかなりません。作業は屋内では袋詰め、外部ではホテルの調理補助や掃除をしているようです。事業経営が苦しいということは理解しながら、それでもB型は安すぎるというのが率直な印象で、本人も気持ちが萎えてしまうという状況があります。私自身は作業所に行ったことも話をしたこともありませんが、お話を聞いて、任せきりになっていると思いました。一度訪問して、どんな方針でやっているのか、相談してみたいと思います。

 
【勇川】作業所によっては閉鎖的なところもあるかもしれませんが、基本的にはきちんと時間をとって話をしてくれるはずです。要は、その作業所がどんな方針でやっているのかが大事だと思います。

 実際のところ、私たちも内職の仕事としては、みんながどれだけ頑張ってやっても、年間で50万~60万円なんですね。仮に利用者さんに月1万円出そうと思えば、月にそれだけ必要になるわけで、内職だけではとうてい無理です。だから、賃金だけで見れば内職は適正と言えないのかもしれませんが、やはりそこには賃金以外の意味や目的があるはずなので、その点を納得していただけるような機会が必要だと思います。

 一方で、やはり収益を上げていくための事業は必要なので、私たちの場合、その点では醍醐寺さんや農園事業という形で確保しています。

 私たちの利用者さんでも、週一回しか来られず内職だけされている場合、月にしても1000円に届かないこともあります。しかし、それはその利用者さんの状況に応じたがペースなんですね。だから、足を運んで方針や目的を聞くことが大切だと思います。もちろん、B型だけでなく、A型や移行支援など別のステップもあるので、状況に応じて変えていくこともできます。

 
【質問】先ほどソーシャルワーカーの定義を紹介されました。ソーシャルワーカーの方は誰もが勇川さんのように考えてらっしゃるんでしょうか。

 
【勇川】感覚の話で済みませんが、同じようなことを考えている人は少ない、1割か2割くらいではないかと思います。先ほどの定義については、資格を取る段階で知っているはずですが、自覚的に捉えて実践している人は少ないでしょうね。事業が一定回っていれば、それ以上考えずに事業を回していければいいと思ってしまう場合も多いと思います。

 
【質問】福祉制度の枠の中だけではなく、地域のなかで障害の有無を含めて多様な人たちが生きていける社会にしてきたいとおっしゃっていましたが、よつ葉の農場の一つである能勢農場も、もともとそうした場所を目指していました。この社会でうまくいかない人、はみ出しがちな人も含めて一緒に生きていけるような場所です。他方、やはり畜産の生産現場としての役割もあって、最近は専門的な技術レベルも求められ、それなりの能力が必要になってきています。でも、そうなるとなかなか多様な人が集える場所にはなりません。そのあたりをどう捉え、どうしていくのか、これからの課題だと思います。ただし、現場の職員は、最初からそうした問題意識を持っているわけでのないので、ピンと来ない部分もあるようです。勇川さんのところでは、他の職員さんとの間でどのように問題意識の共有を図ってらっしゃいますか。

 
【勇川】確かに難しいところですが、役割分担だと思っています。事業を回す人も、広げる人も絶対に必要です。私ができるのは、今日のような理念と目的を常に伝えることです。事業を回したり広げたりすることではなく、あくまでもソーシャルワークが仕事だということですね。しかし、それは現場にいないと伝わらないし、説得力もないので、常に現場にいたいなと思っています。
 ただ、とりあえず各々がしたいことをしてもらうというのが原則ではないかと思っています。利用者さんと関わりたい、作業したいという人は効率性など考えずにそれを徹底してほしい。変にお金のことを考え出したら、うまくいかないと思います。そうしたことが有機的にできるのが、おそらくいまぐらいの規模ではないでしょうか。それぞれ役割を分担しながら、お互いがやっていることを共有することが必要だと思います。難しいですけどね。

 
【質問】よつ葉の会員ですが、滋賀県の高島市で9月からB型作業所をはじめる予定です。高島市は農業地帯ですが、10ヶ所あるB型作業所は、ほとんどがリネン会社の下請けの仕事を受託しています。工賃がすごく安いなかで、少しでもたくさん利用者さんに払いたいというのが皆さんの課題です。僕らもできるだけ利用者さんに工賃を還元できる仕事づくりがしたいと考えています。農業が主要産業の高島市も、やはり耕作放棄地が増えたり、農家が高齢化したりという状態ですが、そうしたなかで農業に取り組む可能性を考えています。また、高島市の場合は世間体を考えてか、精神障害者が作業所に通うことが少なく、地域社会で目に見えにくい存在になっています。農業を通じてそうした人たちが社会に出てこられる場にしたいと思っています。

 
【勇川】私たちも、できるだけ利用者さんに多く工賃を払いたいと思って農業をはじめました。結果としてたくさん工賃が払えるのも事実です。国がそういう方向で重点的に加算をすることに問題を感じていますが、工賃を上げていくこと自体は必要だし、それが地域としっかりつながって実現していくのが理想的ですよね。ぜひ、地域と密着した事業を展開していただければ、と思います。

 
【質問】お話にあった「るまんやましな」ですが、実はこの責任者講座の第1回で学習支援と地域コミュニティサロンを各地に作る活動をされている方にお話しいただきました。「るまんやましな」を使って、山科でもそうした活動が展開できるのではないかと思いました。

 
【勇川】「るまんやましな」は京都市が事業主体で、狭い意味での障害者福祉事業に囚われずにいろんなことができます。使いたいという人のニーズに応じて使ってもらいたいし、地域からもそういう場所として認識してもらいたいと思っています。ぜひ検討していただければ幸いです。


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