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地域から政治を考える

種子法の廃止について
生命の基本である食糧主権を守ろう



 2月26日に茨木市福祉文化会館で行われた、元農水大臣の山田正彦さんの講演会に参加した。この講演は、昨年の2月に国会で可決された主要農作物種子法の廃止が、4月1日から施行されるのを目前にして、種子法にかわる公共品種を守る法制を求める運動をされている山田さんから学ぶことを目的として行われた。

 山田さんのお話では、種子法の廃止は、もともとTPP(環太平洋連携協定)の一環としてあり、公共部門の市場化の一つとして位置づけられていたとのことだ。

 さかのぼれば、種子法は1952年に制定され、米、大豆、麦といった主要農産物について、優良な種子の安定的な生産と普及を国が果たすべき役割と定めている法律であり、都道府県による普及すべき優良品種の選定や、その原原種および、原種・一般の種子の生産と安定供給に都道府県が責任をもつことを定めたものである。

 この法律の下で、国と自治体が責任をもつ公共品種として主要農産物の安定した生産が保障されてきたという。

 政府は、そんな法律を廃止するというのだ。種子は公共財産であり、営利目的で種子にかかわることは、食糧主権を侵害するものになる。山田さんのお話では、米については日本モンサント、三井化学、住友化学がすでに独自の種子の生産をしており、公共品種の10倍の値段で販売されているそうである。また、遺伝子組み換えの米も作られているという。

 一方、種子法の廃止と一体のものとしてある「農業力強化支援法」では、「民間事業者による稲、麦類及び大豆の種子生産への参入が進むまでの間、種子の増殖に必要な栽培技術などの種子の生産にかかわる知見を維持し、それを民間事業者に対して提供する役割を担う」とされている。

 民間企業がF1種子(一代交雑種)をつくるには3年かかるので、その間、これまで都道府県で行われてきた原原種、原種の育成は当面継続し、民間業者にそうした情報を提供するというのだ。

 これは、公共の財産を民間企業に提供すること、すなわち民間企業の独占的私有物にすることである。公共の財産を民間企業の金儲けの手段として与えることだ。

 その結果として起こりうることは、原原種の保存、原種の育成は、売れる種の生産にとって代わられ、その多様性を保持するための努力は失われ、民間企業、とりわけ、巨大なアグリビジネスによって、日本の農業生産が支配されることになる。そうなれば、農民がコメを生産するのに特許料を支払うことになり、企業の利益を守るための契約をさせられることになる。

 すでに世界の種子の75%は、モンサントをはじめとする上位10社によって支配され、農薬では94%が支配されている。日本でも、野菜の種子はほとんどが国外で生産されているという。そんな中でも、種子法の下で米、大豆、麦の種子については国産が維持されてきた。しかし、種子法の廃止によって、このように最後に残っていた食糧主権すら失われてしまうことになる。

 これまで様々な人々が批判してきたように、TPPは医療や保険、水道など、人々の生命にかかわるものまで市場に委ねようとするものである。同じくTPPの一環である種子法の廃止は、生命の基本である食糧主権を脅かすものである。

 山田さんは講演の中で、「米国でもカナダでもオーストラリアでも主要農産物の公共品種を守っているにもかかわらず、日本だけが無くすというのは何事か」と怒り、「種子法が廃止された今、新たな公共品種を守る法律が必要である」と話された。そのために、法律を制定する運動を行っていくことを呼び掛けられた。

 グローバル資本主義が行き詰まりを見せる今日、その矛盾が世界各地で主権を求める流れとして現れている。にもかかわらず、日本はそれに逆行する道を進もうとしている。食糧主権を守ろう。

                                         (戸平和夫:北摂反戦民主政治連盟)




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