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「よつ葉の地場野菜」研究会 中間報告

中山間地の農業の行く末も念頭に
産消提携のこれからを考えるために



 当研究所では昨年5月から、関西よつ葉連絡会が続ける地場野菜の取り組みの現状を調査し、レポートにまとめる研究会を開始しました。生産農家、流通職員、消費者会員を対象に、どのような調査を行うべきか。月1回、アレコレ議論を行う中で、ようやく今年1月から3月初頭にわたって、地場野菜の生産地区4地区で農家に対する事前の聞き取り調査(予備調査)にこぎつけました。そこで今回、改めて研究会の主旨と目指すべき方向を確認するとともに、とりまとめ役の綱島洋之さんから予備調査の感想などを報告していただきました。



よつ葉が地域の農業に果たすべき役割とは?



 地域・アソシエーション研究所の研究会として、「よつ葉の地場野菜」の取り組みを取り上げたいという構想は、㈱よつば農産の現場を離れ、ちょっと距離を取って考える立場になって、すぐ浮かんできた。自分にとっては、強い思い入れを持って取り組んできた試みではあったけれど、その取り組みが、生産側、流通側、消費側のそれぞれの現場でどのように受け止められ、どんな変化を生み出してきたのか、正直、よく分かっていないのではと考えるようになったからだと思う。

 研究会を立ち上げて、各々の現場で「よつ葉の地場野菜」の取り組みを担っている人たちに参加を呼びかけ、具体的に社会調査の手法で調べてみることができればと、いろいろ、大学の先生方に聞いてまわった。分かったことは、①方法は確立されている、②調査を取りまとめる研究者的立場の協力者が必須である、③目的を明確にすることが重要で、調査をして何をしたいのかが明確でないとうまく進まない――ということだった。そこで、「よつ葉の地場野菜」の取り組みに興味や関心を持って、協力してもらえそうな研究者に声をかけてもらえないかと、アソシ研の運営委員会の場でお願いし、自分も、知り合いに声をかけてまわった。

 よき出会いは、そんなに簡単には生まれない。2年ほど、アソシ研の新しい研究会構想の1項目としては存在し続けていたけれど、何の動きも始められないまま、時間だけが過ぎていった。やがて、たしか2016年だったと思うのだけれど、知人の紹介で出会ったのが、今、よつ葉の地場野菜研究会の取りまとめ役を引き受けてくれている、大阪市大の綱島氏だった。インドにおける農民の貧困問題をめぐる社会調査の経験もあり、現在も、自身で都市近郊農地を借りて、農作業も行っている若手研究者だ。彼と一緒に、よつ葉の地場野菜の生産地域をまわり、現場を視察してもらって、調査のイメージをつくってもらい、研究会の第1回目の集まりを呼びかけたのが、2017年5月。構想から4年近くが過ぎ、ようやく始まった研究会であった。

 その後の研究会での論議や調査活動の進み具合等については、綱島氏の報告におまかせするとして、自分はよつ葉の地場野菜の取り組みをどう考えて来たのかという点を整理しておきたい。


取り組みの原点

 よつ葉の地場野菜の取り組みの原点は、能勢農場の地元農家からの野菜集荷だと思う。それは、野菜を集荷して売ることを目的として始まったものと言うより、地元の農家とのおつき合いの一部として始まったものだった。農家が自家消費用にいろいろと少量作付けしていた野菜の余りを、ちょっと金に換えておくための窓口の1つで、近隣の農家との交流の場所づくりと言える。

 だから、当時、そうして集荷された野菜を、まだ小さくて少なかったよつ葉の配送センターに持って行くと、「こんな野菜、売れません」とよく言われていた。しかたがないので無理やり置いて、逃げるように帰ってくる。当時の能勢農場には「よつ葉の地場野菜」の取り組みなぞという意識も自覚もなかったのだけれど、地元の農家とのおつき合いをどのようにして拡げていくのかという意識は強かった。そんな農場の活動を助けてくれるよつ葉、という構図だったように思う。

 この、よつ葉の側からすればやっかいなお荷物にすぎなかった能勢の地場野菜の集荷が、高槻生協の原地区の農家からの野菜集荷と合わさって、「よつ葉の地場野菜」として意識され、取り組みとして拡がって、よつ葉が取り扱う農産物の中心的位置付けに、考え方として整理されたのが2001年、㈱よつば農産設立前後だった。



急激な拡大、そして現在

 JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)改正によって、「有機JAS」が法律化され、有機農業や無農薬栽培という栽培方法に注目が集まる中で、「地場と旬」という地域内での生産・流通・消費という人間関係を基礎に置く農産物流通をよつ葉が掲げ、その象徴的取り組みとして、よつ葉の地場野菜が位置付けられる。生産側の農家も4つの地区に集約され、各地域に集荷、作付け調整を担う法人組織が対応し、「野菜セット」から始まったカタログ企画も単品野菜の品目が充実して、2005~2006年には、年間集荷量がおよそ2億円を越える規模にまで拡がっていった。

 要因はいくつか考えられる。生産側で言えば、地場野菜の出荷を担う4地区の連絡組織である「摂丹百姓つなぎの会」に集う、多才な百姓たちの活気だ。定年後就農した地元の跡取り男性陣と、ずっと畑を守って来た女性陣。「野菜がおいしい」「野菜を届けてもらってありがとう」「出来た野菜は全部出荷してもらっていいですよ」「もっと、いろいろな野菜をつくって下さい」こうした都会の消費者の声、よつ葉の取り組みが、彼らの励みになって生まれた生産意欲の高まりが活気の中心だった。よつ葉が必要としていた野菜の量など、彼らが意欲を持って生産に取り組めば、あっという間に突破できた。で、やがて「過剰」が大きな課題となった。

 流通側で言えば、地場野菜のカタロク上の企画を、生産側の作付け、出荷実績に合わせて拡大していった結果だと思う。地場野菜の人気が沸騰して、注文量が2倍、3倍に増えたというはずはない。そもそも、いくらすばらしい食べ物であっても、1人1人が食べる量に、さほどの変化が生じるとは考えづらい。地場野菜の売り上げの急速な拡大は、よつ葉の会員の増加と、それ以前には、よつ葉に野菜を供給して来た全国の生産者の野菜の企画を減らして、地場野菜の販売量を増やして来た結果にすぎない。だから、おつき合いの長い全国各地の農家の皆さんの、よつ葉の地場野菜に対する冷たい視線は、決して故なきものではないことも、重く受け止めなければということも肝に銘じてきた。


「地場野菜」のこれからを考える

 そうした経過を巡って成長をとげてきたよつ葉の地場野菜の取り組みも、その概要が整ってから、すでに20年近くがすぎた。その間の時代の変化の中で、取り組み全体を再点検し、再構築すべき時ではないかと思う。アソシ研の「よつ葉の地場野菜」研究会の試みは、そうした作業を進める上で、大切な調査活動となりうるし、そうしていくべきだと考えている。

 例えば、地場野菜の生産4地区の農村では農業そのものの存続がこれまでにも増して危機に瀕している。農家が農業をしなくなった。単によつ葉の地場野菜の生産というだけではなく、都市近郊の中山間地で、どのようにして農業生産を持続していけるのか。そのために、よつ葉が、微力とは言え、果たせる役割とはどんなものか。そんな現実を、少しでも都会の消費者に伝えていく取り組みの1つとして、「よつ葉の地場野菜」のこれからを考えていく時期なのだと思っている。

                                    (津田道夫:当研究所事務局、㈲北摂協同農場)


当初の理念を踏まえつつ変化にどう対応していくか?


 「よつ葉の地場野菜の取り組みのこれまでを総括し、今後を展望するための材料を集める」という雲をつかむようなお題をいただいたのが、2016年の春ごろでした。私がお声かけいただいた理由は、インドの農村で農業技術に関する調査をした経験があるからということでした。私自身としては、この数年間、農業分野での仕事づくりを試みて、ホームレスの労働者や就労支援を受けている若者たちと、大阪府柏原市にある耕作放棄地を再生して耕作してきたものの、かれらが自律的に農作業をできるようにはならないことが課題となりました。一方で、消費者とのコミュニケーションが学習機会につながることが分かりました。そこで、消費者との協働実践という意味において、「産消提携」の事例に学ぶべきところがあるのではないかと考えていたところでした。

 そこで、この研究会の取りまとめ役をお引き受けしたという次第です。2017年5月27日に第1回を開催してから、これまでに7回の会合を重ねてきました。初めは地場野菜を出荷している4地区の産直センターや配送センターのスタッフの方から意見を伺いながら、調査の手順を決めていきました。それから、集荷状況に関するデータをもとに、私がお話を伺いたい生産者を選び出し、この1月から3月にかけて各地区6人、合計24人の方に聞き取りを実施しました。本稿では、その内容の一部を紹介して、地場野菜の課題が意味するところを考えてみたいと思います。



生産者の二類型

 まず、生産者は大きく分けて二つに類型化できることを踏まえておく必要があります。すなわち、年金を受給している高齢者と、これから農業で稼がなければならない比較的若い生産者です。生産者から見た地場野菜の意義について、高齢の生産者の中では、量が少なくても受けてくれる、若い生産者の中では、ほぼ全量が一定の価格で買い取られるので作付けを計画する段階で収入の見通しが立つという意見が、それぞれ目立ちました。また、品目や数量について他の出荷先よりも自由が利くことも、大きな利点としてあげられました。

 若い生産者が地場野菜として出荷することは、買い取り価格が安定しているので生計を立てるうえでメリットがあることは容易に理解できますが、一方で、高齢の生産者に関しては、なぜそこまでして野菜作りを続けるのか。主たる回答は、先祖代々の土地を荒らすと周囲に迷惑がかかるので何とかして維持しなければならないし、そうすることにより生活に張り合いが出てくるという点に集約されます。「土地が荒れ地に戻ることが自然なのだ」という意見も世間にはありますが、「ここまで大変な思いをして維持してきたのだから、それを無駄にするわけにはいかない」と解釈することも可能です。



「地場野菜」へのさまざまな反応

 集荷体制に問題点を指摘する声もありました。とりわけ、この冬は市場で野菜の価格が高騰しました。しかし、地場野菜は生産者からの買い取り価格は普段通り。このことについて、「こちらが望んで安くしたわけではないのに、『ライフ』では「特価」と表示されることに違和感を覚える」。もちろん、「長い目で見れば、一獲千金を狙えなくても、価格が安定している方がいい」「消費者にも市場価格を基準に考えて欲しくない」と現行のシステムを支持する声もありました。また、高齢の生産者からは「もう自分では出荷できないので、産直センターの職員が集荷に来てくれることが有難い」という回答も得られました。

 関連した内容では、「よつ葉よりも一般市場に出荷する方が高く売れるときに、作付け計画通りに出荷することをどう評価するのか」という意見が出されました。生産者の側が集荷量の安定に貢献してきたことも見逃せません。「夜間にも出荷できるようにして欲しい」「生産履歴などを手書きで提出するのが手間であり、スマホなどでできる方法はないのか」というように、省力化に向けた具体的なアイデアも出されました。また、「よつ葉から生産者に対する要求が不明瞭」などという意見が出されました。むしろ、よつ葉の側から率先して新しい作目を提案して、生産者どうしが出来栄えを競い合えば面白いのではないかと言います。例えば、「能勢のカボチャは美味しいという声を聞いたことがない、ならば新しい品種をみんなで試してコンテストしてみよう」という具合です。

 消費者とどのような関係を持ちたいかについては、特に若手の生産者の間で、「畑を見に来てもらいたい」から「消費者と関わるのは流通側の仕事」まで、温度差があります。ただし、消費者の反応を知りたい、あるいは消費者から評価されると励みになるというところは、多くの生産者に共通しているようです。



各地域の今後をどう考えるか

 各地域の今後を考えるのであれば、高齢の生産者の多くは今後遅かれ早かれ、作付規模を縮小しなければならないことは必至です。いかにして後継者を確保するかが課題となりつつあります。地元で長年暮らしてきた高齢の生産者は、外部から来た新規就農者の頑張りを高く評価しているようです。とりわけ能勢町では、新規就農者を受け入れる機運が高いと感じられました。一方で、地域がどんなに受け入れに積極的でも、地理的な制約により就農が難しいと考えられる場合もありました。

 例えば、高槻市の原地区はもともと小規模農家が山仕事などを兼業していて、冬季には寒天干しが盛んな地域でした。若手の新規就農者が経営基盤を確立できるだけの規模の耕地を確保するのは難しいという見解もありました。小規模農業に何らかの副業を組み合わせるというライフスタイルは既に過去のものなのか。むしろそれを継承しながら生計を立てられるようにするためには何が必要かという課題設定も可能です。

 高齢の生産者の中には、自身の親族に継がせることを諦めている方もいました。むしろ都市住民の人の方が農作業を楽しんでくれるという話もありました。しかし、都市住民の農業に対する理解は不十分なのではないかということを指摘する方もいました。小手先の技術は教えることができるが、際限がない。自然の表情の変化に意味を見出すという農作業の根幹を、なかなか都市住民は理解できない。冒頭で触れた私の試みの中で現れた課題とも通底するものがあります。

 最後に、高齢の生産者の多くが、「自分で食べるものを作ろうとすると、どうしても多くできてしまう」と言います。そこに「安心」という価値を見出したのが、地場野菜の取り組みの出発点でした。しかし、若手の生産者には、その「どうしても」と言える部分がないのが現実です。そもそも一定の量を作らなければ生計を立てられないからです。いかにして、この現実を踏まえつつ、当初の理念を継承していくか。この点をどう考えるかが今後の課題ではないかと思います。

                                 (綱島洋之:大阪市立大学都市研究プラザ特任助教)



                 予備調査質問項目

①基礎データ
*年齢・後継者or新規(新規の場合は動機・前職・ 出身地・耕地取得方法)・就農時年齢
*耕作規模・専業or兼業(兼業の場合は職種・時 間配分ないし収入配分)・メンバー
*耕地の分散・各地片の特徴(土壌・水門環境・日 当たり・周囲の土地利用状況・通耕距離・道路状 況など)
*作付け品目決定方法
*地片ごとの作付け品目
*農具・機械導入状況・特定の作目に特化した機械 や資材
*資金(利用したことがある制度)
*資材や情報の仕入れ先・アドヴァイザー
*重要品目(金銭面・やりがい面)
*特にこだわりのある品目や資材
*営農歴の中で大きなできごと(ライフイベント・ 天候不順・政治経済等)
②全体の経営に対する地場野菜の位置づけ
*いつからよつば農産に出荷しているか・動機
*出荷先別収入・他の出荷先や認証制度との使い分 け方
*地場野菜以外の品目
③農法や認証制度に対する考え方
*実際には?制度の利用・出荷状況
*出荷先により作目や農法を使い分けているか?
④よつば農産に出荷し続ける理由
*集荷ルールをどう思うか
*嫌だったこと・困ったこと・他の出荷先よりマシ だと思ったこと
⑤地域社会や都市住民とのかかわり
*行事にどれくらい参加しているか(新規就農者に 対して)
*消費者による都市イベントにどれくらい参加して いるか
⑥よつば農産に出荷することにより地域内の他生産 者との人間関係は変化したか?
⑦世代交代により出荷先や人間関係が変化したか?
⑧外部から来た新規就農者、地元の世襲の農家につ いて、お互いにどう思うか?
⑨地場野菜を本当にやりたくてやっているのか
⑩よつ葉職員(流通関係者)・会員・一般の消費者 に訴えたいこと
⑪農業を続ける理由
⑫農業をやっていてよかった/やらなければよかっ たと思うことはあるか(または頻度)





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