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アソシ研リレーエッセイ

理念をほこりだらけにしないために


 前号の問いかけは「理念を明らかにし、いかにポピュリズムを超えるか」ですか……。

 思い返せば8年前、市議選に立候補するためのあいさつ回りで元大阪府議の小沢福子さんの事務所に伺ったところ、ちょうど居合わせた椅子にでんと腰かけたおじさまから「へー選挙出んの? じゃあまず君の政治理念を語りたまえ」と言われて硬直、顔面蒼白、頭真っ白、お腹ギュルギュルしたのを思い出した。

 ええ、あります。ありますよ理念。でもここで書きだしたらなぁ、紙面に収まりきらないと思うな~。残念ですが、またの機会に。

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 ところで前号での「橋下徹さんには理念がない」との指摘。その通りだと思います。ていうか嫌いなんでしょうね、理念が。彼は理念を「きれいごと」とか「偽善」みたいに捉えていて、だから「憲法9条なんかより核武装しろ!」だし、女性の人権にしたって「戦時中に慰安婦は必要だった」と平気で言える。それへの反論には「きれいごとでは物事は動かない、解決しない」と断言する。それで大抵はねじ伏せられると思っているし、彼の言動への支持がそれを後押ししてきたのだろう。

 でも、彼のいう「本音で動く社会」は最悪でしかない。2年前に19人もの命が奪われた「やまゆり園事件」はまさに橋下氏が思い描く社会の一端を、絶対にあってはならなかったけれど、具現化してしまった。

 「きれいごと言うなよ、本音はあんたも同じこと考えているんだろ」みたいな人間の浅ましさにつけ込み、利用して自らの政治力にしていく手法。めっちゃ嫌ですね。

 だから理念は大事。

 ああ、言葉に重みがないな。説得力もない。でもやっぱりそう思う。

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 そういえば昨年、高槻市が市内の工場に設置しなければいけない緑地の面積を緩和する条例改正を行った。工場に緑地を設けなければいけないのは、70年代の公害問題の反省から法律が作られたからだ。そして、高槻市の理念である市民憲章にはこうある。

 
 ―高槻は 住みよい環境 めざすまち―
 “わたくしたちは、あらゆる公害をなくし、
    生活の安全を守り、花と緑を育てます。”


 なぜ市民憲章に反する条例改正をするのか問うたら「市税確保のため、工場の市外移転を食い止め、企業誘致競争に少しでも優位に立つために企業が嫌がる規制を緩和する」とのことだった。

 理念で飯は食えないってか。ちなみに、緑地面積がネックで市外に転出した工場はいくつあるのか訊いたら、「ない」との答えが返ってきてひっくり返りそうになった。

 理念は掲げるだけではほこりをかぶってしまう。常に実践するための努力も求められる。それはすごく大変だけれど。

                                            (高木隆太:高槻市議会議員)



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