HOME過去号>154号  


アソシ研リレーエッセイ

市民と政治との関係

浮き彫りになった成果と課題



 突然降って沸いたようなドタバタ劇を繰り返した挙句、衆議選挙は結局、前回と同じく自民党の「圧勝」に終わった。私の住む豊中市(大阪8区)でも自民党が勝ったのだが、今回の「ドタバタ劇」を象徴するような経過をたどることになった。

 安保法制反対運動の頃から豊中では野党と市民運動との連携の枠組みが形成され、森友学園問題でも維持・強化されてきた。それをベースに、市民運動側からの働きかけにより、当初は共産党の同意も得て民進党候補(松井)への一本化で合意が成立、記者会見で公表の予定になっていた。

 ところがその直前に、前原が民進党の希望の党への身売りを発表、話はいったんご破産に。その後、小池の「排除」発言、枝野を中心とした立憲民主党の結成、大阪府で「希望」候補を擁立しないとの「希望」と「維新」の野合、行き場を失った松井は(たぶん)止む無く立憲民主党から立候補決定と、事態は二転三転。それを受けて再度一本化へ向けた働きかけが行われ、共産党はこれにも同意、結論は共産党と立憲民主党との話し合いに委ねられることになった。

 が、混乱の只中にあった大阪の立憲民主党には責任を持って対応できる当事者が不在、共産党も比例区選挙との関連で無条件で立候補を取り下げるわけにはいかず、結局時間切れ。仮に一本化が成ったとしても自公vs維新の構図に割って入るのは厳しかったであろう選挙戦は、自公、維新、立憲、共産の争いに……。公示前に行われた市民運動主催の報告会は、「何とも言いようのない」意気消沈、陰鬱な雰囲気の集会とならざるを得なかったという。

 結果は、「改憲賛成姿勢 当選者の82%」(朝日・東大共同調査)という現実。当の本人でさえ予想外だったであろう「漁夫の利」を得た安倍は、対抗馬なき自民党総裁選で再選を果たし長期政権を維持、「9条改憲」を前面に出してくるかどうかは別として改憲に向けた動きを加速してくるのだろう。当面の政治の展開を考えると暗澹たる気分にならざるを得ない。

             ★     ★     ★

 しかしメゲてもいられない。いずれにせよ、この現実から始めるしかないのだから。「で、可能性は」と考えてみる。

 ひとつは、既成政党・政治の構造疲労がより覆いようもなくなっていること。希望、民進の自壊、維新、公明の頭打ちもそうだし、安倍の支持率も下降線、「大勝」は小選挙区制度と「消極的支持」によるものに過ぎない。無論、既成政治への不信が「右翼ポピュリズム」へと吸収されてされてしまう危険性と常に裏腹ではあるのだが、新たな萌芽への条件であることも確かだろう。

 もうひとつは、そんな中で、市民運動が、野党共闘がうまくいった所、いかなかった所を含め総体としては貴重な経験を積み重ねたこと。

 「大事なのは、野党間共闘ではなく、市民と野党の共闘体制だからこそ大きな成果を生むことができるのだと思います。」(「ミナセン尼崎」代表・弘川よしえさん)

 「(民進党の事実上の解党を受けて)市民の側も、市民と野党の共闘でそれぞれ頑張ってきて、政党と市民運動が違うことは、かなり分かってきていたので、その後の対応は早かったと思います。」(「安保関連法に反対するママの会」発起人・西郷南海子さん)

 いずれも市民運動の「成熟」を示す感想だと思う。

             ★     ★     ★

 こうした市民運動に支えられ、今のところ立憲民主党、共産党ともに今後も「市民との共闘」を堅持する立場を明らかにしている。差し迫った改憲に対する闘いにおいて、いかに運動の側がヘゲモニーを発揮し、新たな政治勢力の結集をはかっていけるのか。紆余曲折はあるだろうが、批判や論争、対立も含め、我々運動の側の「コミュニケイト・アソシエイトする能力と思想性」がますます必要かつ問われることになる。

                                          (津林邦夫:NPO関西仕事づくりセンター)





©2002-2017 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.