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ネパール・タライ平原の村から(73)

農事暦から見た農業の特徴 作物編

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その73回目


 先日、我が家の耕作スケジュールを初めて農事暦の形で作製しました。主要な作付けに限らず、家庭菜園で苗1~2本の少量作物から、耕地に自生する食用植物まで拾い上げました。いずれも決して収量は高くありませんが、2016年から2017年にかけて60品目の作物名と播種―収穫時期を一覧表に書き込んでみました。一覧にするのは、我が家の作付け、もしくはこの地域一般に見られる作物について、大雑把ではありますが、可視化するような作業です。そうすると、ここでの農業とは、どういうものなのか、売ることよりも自分たちで食べることに軸足を置いて続けられてきた普通の農業について、もう一度、頭の中を整理し、認識する機会ともなりました。

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 主要な作付けとして、穀類は雨季に水稲、畑ではシコクビエ。水田裏作として小麦・ソバ・大麦。油脂類として、ナタネ・亜麻仁と余剰を搾るゴマ。豆類はダル豆と、主に種実を収穫するササゲ豆・インゲン豆・そら豆・ひよこ豆、エンドウ豆。飼料作物として、1月中旬から、育っては何度も青刈りするエンバク。4月に、ササゲ・インゲン・へちま・かぼちゃといったツル性植物と一緒に播種される、トウモロコシがあります。

ネパール
 ■水田の奥に屋敷林がある
 ちなみに、かぼちゃは実の収穫よりもツルの先から蕾が収穫されます。だからいつまで経っても実が成らないのですが、ちょうど果菜類が不足する乾季後半の時期に収穫となります。また、3月頃に菜園で収穫された大根の葉やカラシナの葉も、天日乾燥後に容器に詰め込み、数日発酵させた後、取り出して再び乾燥させ、保存食として発酵乾燥野菜を作ります。

 さらに、これは我が家に限った作物ですが、11月初旬にハイビスカスを収穫します。包葉を乾燥させハーブとして、唯一売ることを目的にしていますが、それだけでなく、ハイビスカスの枝葉を家畜がとくに好むことが、作付けに積極的な理由の一つでもあります。

 その他の特徴として、僕が暮らす地域では近年、耕耘が牛からトラクターに変わりつつあり、我が家もトラクターに依頼して耕耘しています。また、かつては稲刈り後の運搬・脱穀が数週間から一ヶ月かかっていたのが、機械化で数時間に短縮されました。

 ただし、運ぶ前に稲ワラを束ねる作業、脱穀後に蓑を使って、ゴミ塵を飛ばす風選作業、天日乾燥といった細かな部分は手作業です。また、少量の穀物を粉にしたり、量の少ない各種豆類は、石臼で引き割りするところまで、全て手作業で進められます。ネパールの農村部へ行くと、どこの民家の軒先にも石臼があり、加工の部分がまだ手放されていないことがわかります。

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 どの作物をどの程度作付けするかを決めるのは、前年の作柄、穀物袋や保管庫、台所に残りがどの程度あるのかによって決めます。農事暦の各作物を見ながら気が付くことは、播種から収穫までの栽培管理そのものよりも、その前後の作業に多くの時間と手間が費やされていることです。

 収穫後の脱穀や加工作業に限らず、作付け前に散布される堆肥は、日常の家畜飼養と密接に関わって来ます。その家畜に与える飼料の多くは、畑や菜園内の草や収穫残渣、敷地境界などに植えられた多様な草木です。家畜飼養は、菜園周辺や屋敷林やジャングルに植えられた有用植物があってこそ成り立ちます。つまり、作物と家畜と有用植物からなるここでの農業は、作物一品目のみの大量な専作だけでは成り立たない、と思うのです。

                                                              (藤井牧人)

 【参照】南真木人「野菜不足補う発酵保存食―みんぱく食の民族誌」2016年4月6日付『京都新聞』朝刊





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