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ネパール・タライ平原の村から(70)

 在来豚チョジェを飼う

  ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その70回目。

 「チョジェ」と呼ばれる在来の黒豚を飼って7年経ちます。在来豚の話ともなると、その性格や特徴について語りたがるマガル人が多くいます。が、いつのまにか僕も、在来豚に強いこだわりを持つ、そのうちの1人となりました。

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 イノシシと共通の形態を多く残した、この在来豚。低地から見えるマハバーラト山脈(約500m~1500m)の山村まで行かないと、手に入れることができません。また、よそ者に安易に売ってはくれない豚なのです。

 欧米系の改良品種の白豚と比べると、産肉量が非常に低く、市場出荷には不向きな豚でもあります。一方で、生産性の高い白豚よりも、在来豚の味は格別で、捌くとなると、みな目を輝かせます。

 また、昔からマガル人の家ごとに定期的に行われる先祖儀礼には、この在来豚が供犠されます。さらに、結婚式や特別な日に振舞うご馳走、財産でもあります。

 そんなことを全く知らずに7年前。「放し飼いの鶏のように扱い易い豚がいる」と妻が言ったのがきっかけでした。土砂崩れで道が遮断される雨季直前、1日1本のジープに乗り、山を越え、トゥロアルカラという集落まで、知り合いの伝手を頼りに在来豚を買付けに行きました。

 ■チョジェの親子
 トゥロアルカラに着き、集落に入って驚くのは、放し飼いの在来豚の多さです。集落周辺の畑に豚が侵入しないよう、豚を囲むのでなく、150軒くらいある集落まるごと、柵で囲ってあります。

 夕方になると庭先で、日中放し飼いの豚と鶏が一緒にエサを食べたり、豚がヤギの腹を掻いてあげたりしています。何とものどかな風景、飼い方です。

 民家に泊めてもらった翌日、プラスチックの飼料袋に子豚を3匹入れて持ち帰ったのが、僕の在来豚飼養の始まりです。

 その後、口伝えで知った平地で暮らすマガル人がちょくちょくやって来ては、家で子豚を買って帰るようになりました。

 予想外に毎回売り切れるのですが、市場出荷を目的に買いに来た人は、7年間で1人いたか、いなかったか。その他みな、子豚を育てて家族と近所に売るか、数か月育てて、先祖儀礼することを目的に、買付けに来ます。

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 「儀礼でチョジェ(在来豚)がどうしても必要なのだ。あなたもマガル人ならその意味がわかるだろ!」と言われるかと思えば「日本人であるとしても、あなたにも信仰というものがあるだろ! 家畜儀礼をするだろ!」と言われ、「先祖代々、飼われていたチョジェが、マガル人の家にはいなくて、日本人の家にいた」と言われたことがありました。

 もともと生活と結びついていた在来豚。市場出荷に向かない非経済的な豚として、今では急速に減りつつあり、平地では飼う人が全くいません。
                                                                (藤井牧人)




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