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市民環境研究所から

我が家の前に監視カメラが!?

─監視カメラを防犯カメラと言い換える欺瞞─

厳しい寒さの今冬も陽射しはおだやかになってきた。毎朝の日課はイヌとの散歩である。琵琶湖疎水沿いの道では朝を楽しむ人と行き交うが、ほとんどが顔見知りであり、おはようと声をかけてそれぞれのペースですれ違って行く。山腹にある疎水から下に降りて、自宅に到着すれば、そこは三条通りと五条通りを繋ぐ大石道と旧東海道との交差点である。我が家のガレージはこの交差点に面している。

7時半から8時半までは児童の通学時で、交通整理を引き受けているボランティアが黄色い旗を振っている。筆者もピンチヒッターとして立つこともある。交差点には我が家以外に3軒が面しているが、それぞれの所属町名は異なる。この交差点には3本の電信柱が立っており、その内のどれかに防犯カメラを設置するらしく、自治会の役員が番地を聞いてきたのは半年ほど前である。それから筆者と所属自治会と学区内連合自治会と山科区役所地域力推進室との論争が始まった。

前置きが長くなったが、山科区や自治会の言い分は、「防犯カメラを設置して、学区内の犯罪を減らし、交通事故を減らす崇高な事業であり、自治会が申請して区役所が補助金を出す」事業であるという。設営場所9ヶ所は自治会の決定により、区役所は隣接学区の設定場所との調整をするだけであるという。もし、前述の我が家の前の電信柱に設置されたとしたら、筆者の出入りは24時間監視されることになる。車の出入りとガレージから玄関への出入りも丸写しである。我が愛犬の行動も監視されることになる。そこで自治会に口頭で、なぜ我が家の横を選んだのか、防犯や交通事故を減らす効果があるという根拠を示せとまず要求したが、そんなことは常識的に認められていることだという。防犯カメラではなく監視カメラであり、犯人検挙に役立つかもしれないが、防犯とは無縁であろうと指摘したが訊く耳をもたない。交通事故減少に至っては取って付けただけの理由なので、何の答えも返ってこない。そのような監視カメラで人権侵害をされる当事者(少なくとも交差点に面した4軒)の合意は必要ないのかと質問書を3度提出したがまともな回答はない。自治会が地域のために取り組んでいるのだから、文句を言うなという。

監視カメラを防犯カメラと言い換えている欺瞞はいろんな方が指摘しているところである。撮影された情報を誰が、誰の許可のもとで利用するのかと質問すると、山科区が金を出して警察の下働きをするのであり、決して防犯などの効果を期待するものではなく、警察の検挙に貢献するのだと、あからさまに連合自治会長は言明した。ということは、防犯カメラという監視カメラで、市民を監視し続けることによって、現体制とは異なる生き方をしたいと願っている人々を抑圧するために機能させたいということらしい。今まさに議論が始まった「共謀罪」法を実践するものである。

警察がカメラの記録を見る際、真に犯罪者のデータを入手するだけとは限らず、常時監視記録しているデータを持ち出すことを阻止する方策を自治会は持っているのかと聞いたが、そんなことはさせないと言うだけであった。常時監視されている市民の立ち会いをなぜ認めないかという問いにも答えることはなかった。自治会とは単なる任意団体であり、地域のサービスをやっているだけで、なんの権限もないはずなのに、なぜ人権侵害の可能性が大いにある防犯カメラという市民監視カメラを設置することができるのか。週が明ければ年度末。決して妥協することなく、もうしばらくの冬の陣を闘おうと思っている。

(石田紀郎:市民環境研究所代表)

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