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障害者が地域であたりまえに生き働くために

関西よつ葉連絡会・研修部会の取り組みから

生産と消費をつなぐ関西よつ葉連絡会を構成し、その流通部門を担っているのが、各地域の産直センターだ。よつ葉連絡会が組織している部会のひとつ研修部会(約30名)は、これら産直センターで働く職員を中心にして活動している。時々のテーマに沿った読書、DVD鑑賞や農業、畜産、福祉の体験研修、反原発の取り組みなど、年間計画を立てて運営を行っている。その中で昨年、障害者福祉に関する取り組みを行ったので紹介する。

研修部会の福祉体験チームが中心になって、昨年企画した障害者福祉施設での体験研修・交流会はふたつあって、ひとつは高槻市や池田市で訪問看護、介護を行い、また京都府南丹市園部の自然の中でやぎ農園を営みつつ、就労支援・グループホームを運営しているアットホーム(10月)と、もうひとつはよつ葉とは30年近くの付き合いになる吹田市のぷくぷくワールド(11月)。無認可の共働作業所として出発し、無添加クッキーの製造を中心にして、生活支援や就労支援などさまざまな活動をしている。

2つの体験研修・交流会の実施に先立って、各地の産直センター(以下、産直)がそれぞれの地域において、どのような障害者の施設とどのような関わりを持っているのかというアンケート調査を行った。というのも、各地域での障害者の作業所との付き合いというのは各地域の産直がそれぞれ独自に行っている場合が多いので、おおまかな全体像もなかなか捉えづらいからだ。お互いの活動を知ることによって、地域で障害者とともに生きていくということについての興味、関心のありようも見えてくるのではないかとも考えた。

設問はごく簡単なもので、お付き合いのある障害者グループの名前、規模、どのような障害の人か、活動・作業内容はどういうものか。また産直との関係は、そのきっかけはどういうものか、など。関西よつ葉連絡会を構成する産直は現在21あるのだが、そのうち11の産直から回答をいただいた。半数以上の地域で、よつ葉の産直は障害者福祉の施設と何らかの関係をもっているということになる。

アンケートの結果を報告する前に、よつ葉連絡会の組織のあり方について少しだけ説明をしておきたい。よつ葉連絡会の全体の会員数は4万世帯弱、配送エリアは大阪府下全域と京都、兵庫、奈良、滋賀の大部分、岐阜、和歌山、広島の一部など。会員はそれぞれの地域の産直の会員として登録し、食べもの・雑貨などを購入している。各地域の産直は独立の法人組織で、会員数が千世帯から、大きいところで2千世帯以上、それぞれが各地域で責任をもって事業・地域活動をしている。取り扱い物品の全体企画については全産直共通のカタログを使っていて、生産者から産直までの物流を一元化しているが、それ以外に多くの産直には独自企画という枠があって、各地域に縁の深い生産者や地域の小さな生産者の物品などを扱っている。ぷくぷくワールドの無添加クッキーは全体企画としても扱っているが、地域の作業所の物品は産直の独自企画として取り扱う場合が多い。

以下、アンケートの結果について、簡単に報告しておきたい。

【川西共同購入会】

知的障害者の共同作業所「あかね」。20人くらいで、お弁当やクッキーを作って販売している。独自企画でケーキやクッキーを扱い、また産直のお店で販売もしている。カタログの袋入れや、講演会やイベント時のお弁当作りをお願いしている。また、産直のお祭りにも参加してもらっている。

【よつ葉ホームデリバリー奈良南】

「リバティーほっかつ河合町福祉作業所」。地域の中での就労の場となることを目的としていて、約10名の知的障害者が働いている。会員から回収したカタログやチラシ類で、古紙回収に協力している。

【能勢産直センター】

「夢来人(むらびと)の家」。19歳から60歳代の知的障害者、身体障害者、23名が働いている。リサイクル・ティッシュとトイレットペーパーの販売や木工製品の製作・販売、保健センター内喫茶のお手伝いなど。ティッシュとトイレットペーパを独自企画で取り扱い、カタログの帳合と袋入れを委託している。

【北摂協同農場】

同じく「夢来人の家」。近所なので、農作業で、赤しそをちぎってもらったことがある。

【奈良産地直送センター】「いづみ福祉会」

職員は40名ほどで、いろいろな年齢の知的障害者がパン作りなどの軽作業を行っている。障害者に安全でおいしい食べものを、という求めに応じて、会員になってもらって、よつ葉の食材を配達している。またイベントの時には参加している。

【よつ葉ホームデリバリー京滋】

「ふしみパン工房くーぺ」。「オリーブの会」。心の病をもった人たちが気軽に集い、畑、内職、販売、清掃などに取り組み、地域の方々と当たり前の生活を見つけていくことを目指している。クーペとは年に一度パン作り教室を行っている。オリーブとは芋掘りや、畑でBBQの交流をしている。ひこばえ企画もあるが、独自企画で商品を扱っている。

【東大阪産地直送センター】

「ひびき福祉会」。東大阪市内で6事業所があり、それぞれに利用者さんが10数人、職員が4、5人。知的障害者、身体障害者が働く場を保障することを目指している。企業や店からの下請的な仕事(100均商品の袋詰めや簡単なパーツの組み立てなど)、牛乳パックのリサイクル、家電回収事業、福祉コンサートなど、多彩な活動を行っている。独自企画でギョーザなど中華食品や福祉会の畑で採れた野菜を販売している。また、会員募集用のチラシのセット作業を委託している。

【淀川産地直送センター】

摂津市「バクのパン屋さん」(身体障害者通所授産施設)の無添加パン、吹田市の「ぷくぷくワールド」のクッキー、ラスク、雑貨品、茨木市の「どかどか」(障害者の生活をひろげる場)の牛乳パックの漉き商品や手編みの草履などを独自企画で扱っている。また摂津市にある「障害児者とともに地域で生きる会」の役員会にも継続して参加し、ビラまき応援や、市に対する要望書の提出などに協力している。

以上、アンケートの回答からいくつかを紹介したが、お付き合いの形やその濃淡はあるけれども、それぞれの産直が地域に根付いて活動を進めていく中で、障害者や支援のグループと出会い、なんらかの形でつながり、関係が続いていることが見て取れる。とりわけ、産直の独自企画というのは、モノのやり取りを通じて、人と人とのつながりを作り出していくという、よつ葉の地域活動のひとつの特徴を表しているだろうと思う。

各地域の産直が比較的小さな規模で、独立の法人組織として自主的に運営を行っているのは、それぞれの地域に根付いた活動を積極的にやっていこうという意思の現れでもある。またそれぞれの産直で働く職員は、下請けやアルバイトではなく、基本的に皆が正社員として対等な立場で働いている。それらのことは、効率や経済的な合理性には反するかもしれないが、「モノより人」を大事にしたいというよつ葉連絡会の価値観を表している。その「人」を地域の視点で見ると、そこにいるのは単なる「消費者」ではなく、地域で暮らす具体的な人がいるということだ。そこにはもちろん障害者もいる。私たちが地域にこだわればこだわるほど、地域からの問いかけが返ってくるのだと言える。

以上に紹介したような、各地域での障害者や支援の人たちとの関わりをふまえて、研修部会では先に記したような障害者福祉に関する取り組みを行った。今号では、ぷくぷくワールドとの生産者交流会として、施設責任者の高田仁さんに講演をしていただいたので、その概要を掲載する。よつ葉が毎週取り扱っているぷくぷくワールドの無添加クッキーは、どのような人たちによって、どのような思いで、どのようにして作られているのか、それを取り扱うことにどのような意味があるのか。まずは高田さんの話を聞いてみたい。

(下前幸一:研究所事務局)

ぷくぷくワールド・高田仁さんの講演(2016.11.12)

障害者としてではなくまず人間として

ぷくぷくワールド(社会福祉法人ぷくぷく福祉会)という生活介護施設の管理者をしております高田と申します。関西よつ葉連絡会さんとは本当に長いお付き合いをさせていただいております。特にクッキーは毎週企画に入れていただいていて、それが私たちの日々の活動になっています。ありがとうございます。

最初に「ぷくぷく」という言葉についてですが、朝鮮の古い言葉で「ゆっくりゆっくり」という意味で名付けられました。1988年から吹田市で共働作業所を始めて、安心・安全のクッキーやパンの製造販売、自然食品店、リサイクルのお店などに取り組んできました。他にグループホームや自立支援センター、ヘルパー派遣事業、就労支援センターなども運営し、地域で必要なサポートを提供できるように活動しています。

ぷくぷくワールドは無認可共働作業所として始まりました。共働作業所の「働」ですが、ここには「同」という字が一般的には入るのですが、ここに「働」という字を入れて、障害者の労働権を考えるということから始まっています。現在のぷくぷくワールドは生活介護施設ですので、私たち(職員)は雇用保険に入っていますが、障害をもった方たちは利用者という立場で福祉の制度を使っています。それでも元々はみんなで働いて、稼いだ分をみんなで分けて生きていこうということから始まっています。うちの規模でしたら、就労継続支援A型(注1)といって、最低賃金を払えるところを目指すという選択肢もありましたが、さまざまな障害をもつ方がいらっしゃる中で、生活介護になりました。

働くことへのこだわりとともに、当事者主体、つまり障害をもつ本人の立場で考えることを重視しています。ピープル・ファーストという、アメリカのオレゴン州で始まった知的障害者の当事者運動があります。ピープル・ファーストは「障害者としてではなく、まず人間として」という当事者の運動で、私たちも取り組んでいます。

障害をもっていても、地域の中であたりまえに暮らしたい。人は誰でも一人では生きていけません。私もそうですが、障害をもっていたらなおさらです。人と接すること、支援の中にいること、そのことを積み上げることが大事です。地域の中での人とのつながりというのが大事だと思っています。

ぷくぷくワールドでの作業

ぷくぷくワールドで行っている作業ですが、最初にクッキー作り以外の作業を紹介します。「はじまるくんパソコン作業」を行っています。企業のリースが終了したパソコンをリサイクルし、中古パソコンとして、販売、もしくは福祉施設や被災地等に寄付するという活動です。大阪ガスの子会社のオージス総研という会社が取り組んでいまして、その仕事を請け負っています。2009年10月から始まりまして、新聞でも紹介されました。

手順書に従って、作業を行います。パソコンに貼ってある不要なシールを剥がしていくことから始まり、ACアダプタのケーブルやキーボードなどをきれいに掃除します。それから、クローニングと言って、再セットアップの作業をします。OSを入れて初期状態にするために、BIOS画面に入って手順通りに進めます。手順書は写真が大事なのですが、上から下に順番になっているので、担当の利用者さんは、しっかりと確認をしながら作業をします。

大事にしていることは、得意なことを活かすことです。その人に合わせた手順書を作ることが大切です。できないことよりも得意なことに焦点を当てて取り組むということ。作業をやり遂げたという達成感、小さな達成感の積み重ねが大事です。そうするとだんだん自信につながってくるのです。

他の作業として、アクリルたわしの制作があります。取り組んでいる方は、本当にきれいに編んでいます。また他に、「白うさぎ」と呼んでいます布ナプキンの袋詰めの作業や、ピザチラシにクーポンを貼る作業もあります。他に絵を描いたりするアートの時間もあって、イベントなどでみなさんの作品を見ていただいたりもしています。

次にクッキーの製造についてです。まず工場に入る前の準備、白衣を着る、粘着ローラーでゴミを取る、手洗い、消毒など、写真やイラストで視覚的に分かるようにしています。

クッキーの材料ですが、小麦粉は青森県津軽地方の野呂さんが作っている中力小麦粉です。砂糖は創建社の古式原糖。卵は丹波市の芦田さんの卵です。Non-GMO(遺伝子組み換えでない)、PHF(ポストハーベストフリー)の卵です。乾燥剤も化学物質ではないものを使っています。基本的には常により良いものを探していて、ココナッツココア・クッキーもJAS有機のココナッツオイルを使っています。

クッキーの製造ですが、まずはバターを軟らかくして、砂糖を混ぜる。砂糖を馴染ましてから、小麦粉を混ぜて、生地をこねる。パイローラーで、均一の厚さにして、型を抜いていく。これをオーブンで焼き上げる。焼きむらは少ないですが、見ながら微調整をします。それを袋に入れて計り、ひとつずつシーラーをかけます。そして金属検知器を通してから、裏シールを貼り、できあがりです。

クッキー作りで大事にしているのは、やはり材料と作り方です。「障害者がクッキーを作ったので、よかったら買って下さい」というのではなく、安全な食にこだわるというのを、障害者の側から情報発信をしたいと思っています。安全性については、残留放射能検査も行っています。ベラルーシに何度も行かれている兵庫医科大学の振津かつみ先生や映画監督の鎌仲ひとみさんに来ていただいて、勉強会も行いました。私たちの基準としては、検出限界0.5ベクレルで、小麦粉とクッキーを検査しています。

販売先ですが、国立民族学博物館のミュージアム・ショップに、コンゴやルーマニアの仮面を型にしたみんぱくクッキーというのがあって、その中身はうちのクッキーです。あとは共同購入会とか生協さんなどのカタログでの販売が中心です。自然食品のお店にも置いてもらっています。ぷくぷくワールドにも販売コーナーがあります。

知的障害者の支援について

ぷくぷくワールドはクッキー工場であると同時に障害者の作業所でもあり、生活介護施設ですので、障害者支援についてお話ししたいと思います。

ぷくぷくワールドの利用者さんは今、36人います。全員が療育手帳をもっています。療育手帳というのは、知的障害を持つ人たちのものです。生活介護施設では、障害支援区分(注2)というのがあって、それが3以上であれば、ぷくぷくワールドのような生活介護施設が利用できます。どのような障害の方でもいいのですが、自閉症の方が多いです。

約30年前になりますが、私は学生時代に青い芝の会の介護をやっていました。青い芝の会というのは脳性マヒの人の全国組織で、障害者の当事者性を前面に出している団体です。私はそこでいろいろなことを教えてもらいました。介護というのは基本的に当事者に聞いて言われたことをやるわけで、主体は障害者本人です。ある時、車椅子を押していて電車に乗ろうとしたとき、駅員さんは「どこまで行かれますか」と私の方に声をかけました。この4月から障害者差別解消法というのがスタートしたのですが、その中に、不当な差別的取り扱いとして、「本人を無視して介護者や支援者、付き添いの人だけに話しかける」というのがあります。これは法律なのですが、今でもこういうことはあると思います。私が介護していた人は「なんで俺らだけそんなことを聞くねん。好きなところで降りるわ!」と言っていました。確かにそうだなと思いました。

しかし、知的障害者の支援は今の話よりも、もっと分かりにくいです。たとえば車イスや、白杖、手話を使っておられる方は、見ればどういう障害か分かります。駅で視覚障害者の方が困っていたら、まず声をかける。目的地を聞いて、ご本人が必要ならホームまで一緒に行く。本人が必要なことを手助けしたらいい。でも、これは言ってくれるから、やりやすいのです。知的障害の人は、そこがむずかしい。その人の障害をできるだけ理解することと同時に、その人とのよりよい関係性が大事だと思います。

自閉症、発達障害についてお話させていただきます。発達障害全般については厚労省のホームページ(注3)で見ることができます。自閉症やASD(自閉スペクトラム症)などと言いますが、知的障害と両方ある人と、IQはとても高いけれども、発達障害が非常にきつい人もいます。たとえば大学を卒業しているけれども、電車に乗ってどこかに行くことができないとか、コミュニケーションが難しいという方がいます。知的障害があって自閉症があると、こだわりがきつい人が多い。ADHDというのは注意欠如多動性障害、多動とか、片づけができないとかです。あとLD、読むだけができない、書くだけができない、計算ができないという方もいます。

これらが三つともある人もいます。二つの人もいる。数字にもならないですから本当に微妙です。その差もあまりなくて、断定するのも難しい。周辺の人まで入れると10人に1人がそうだとも言われています。

自閉症の名称も、自閉症と言ったり、自閉性障害と言ったり、ASDとか、自閉スペクトラム症と言いますが、だいたい同じ意味だということもあります。発達障害はASD全般やそれ以外も含めた全部を指すこともありますが、知的障害を伴わない人のことを発達障害と呼ぶ場合もあります。自閉症というのは知的障害を伴う場合を指す場合もあるが、全体を指すこともあります。

スペクトラムというのは連続体です。虹の色は、微妙に少しずつ変わって次の色になりますが、実際には連続している。つまり、さまざまな自閉症がある。強弱、症状の現れ方もさまざまです。一人ひとり全く違う。共通点はあるのですが、同じことをやってもダメで、それぞれに対応した支援が必要になってきます。

原因は脳の生物学的な機能の障害にあると言われています。脳における情報処理の仕方に違いがある。遺伝的要因と環境とがいろいろ複雑に絡み合っていると考えられています。昔は、お医者さんで「お母さんの育て方が悪い」と言われたと聞いたことがありますが、それは違います。

一人ひとりの特性から考える

視覚と聴覚のことについてですが、たとえば電車の車内アナウンスがちょっと聞きづらいことがあります。でも視覚的に行き先を表示してある場合があると、それは分かりやすい。音は消えてしまいますし、周囲の雑音もありますから、視覚の方が分かりやすい。人間の感覚の中で、やはり視覚は強い。自閉症の人はもっと強いのです。歩行者用信号で、赤や青の光の色が少しずつ減る表示がある信号がありますが、これは自閉症の人にはわかりやすいです。でも自閉症ではない人にも目安になってわかりやすいのです。

聴覚、視覚、触覚など、自閉症の人には感覚の問題があることが非常に多いのです。特に聴覚過敏の人で、たとえば道路で喋っていても、そばを通る車の音などと全部が同じように大きく聞こえて、聞き分けができにくい人がいたり、視覚過敏で、眩しくて、暗くしないととてもしんどくなる人もいます。触覚過敏で、たとえばタグが付いているのが嫌な人がいるように、服の材質によっても嫌だという人もいます。感じ方も色々なのです。

自閉症の特性としては、見通しが分かりにくい。時間の感覚も分かりにくい。一度に二つのことができにくい。優先順位を付けるのが苦手。好きなもの、興味のあるものに集中しやすい。でも逆に嫌いなものにもつい目が行ってしまう場合もあります。音を聞き分けにくい。空気を読みにくい。変更がききにくい。その時の全ての情報をまとめて自分の行動をするのが苦手。どうしても一点に焦点をあてる。全体を見るのが苦手です。

だから支援は、一人ひとりの特性から考えます。たとえば小学校でうるさい教室から出てしまった生徒がいる。そこだけ見れば問題行動です。しかし本人に聴覚過敏があって、耐えられなくなって外に出て行ったかもしれない。そこで特性を考えずに怒られたら、その本人にとって、学校はしんどい所になるだけです。人にもよるとは思いますが、ちょっと静かなところに行ったら治まるから、また戻るという人もいます。だからそれぞれの特性から考えることがとても大事です。事前に先生やみんなが理解していたとしたらまた違ってきます。聴覚過敏のある方でイヤーマフを使ったりする方もいます。もともとは銃を撃つときに鼓膜が破れないように使うもので、かなり音が遮音されます。もしかしたら着けているお子さんを見たことがあるかもしれません。また「しずかなボードちゃん」というもので、音の成分が整理されるものもあります。睡眠障害のある方で、この中で寝たらはじめてちゃんと眠れたという人もいます。

自閉症支援で大事なのは、視覚支援(可視化)と個別支援です。見通しを分かるようにスケジュールを使ったりします。そして肯定表現が大事です。責められると、自分がすべて否定されたというように取る方が多い。先ほど言いましたが、話し言葉(音声言語)というのは消えてしまうので、なかなか難しい。知的障害の方で、音の響きだけで相手がどういう反応をするかを、その場面を積み重ねて学習をして、意味は分からないで覚えている人もいます。だから、本当に分かっているかどうかを分かっていないといけない。また、その人のためのスケジュールを作っても、一回だけで終わりではなくて、何度も作り変えないといけない。先ほども言いましたが、感覚の問題への配慮。それからコミュニケーションの大切さ。自分の思っていることが相手に伝えられないということほど、しんどいことはありません。

というわけで、自閉症の人に必要なことは、一人ひとりに合わせた支援で、見通しをもつためのスケジュールや視覚支援、パーテーション(間仕切り)を使って刺激を減らすとか、感覚過敏への対応や配慮。これがたとえると自閉症の人にとっての車イスであったり、白杖であったりすると私は思っています。ところがこれが見た目ではすぐに分からないし、ある程度自閉症のことを理解していないと分からない。さらに一人ひとり違うので、他の人への支援があまり参考にならない。なによりも障害に対する理解が進んでいないということです。「社会に出たらこういうスケジュールのような視覚支援はなくなるから、今からなくしてそれに備えましょう」というようなことを言う方がいますが、脳性マヒとか歩けない人に、車イスが社会にないから車イスをやめましょうと言うような人はたぶんいないでしょう。それぐらい大事なことだと思っています。

ある人との関わりについて

ある人の例です。支援学校の高等部を卒業してから、ぷくぷくワールドに入りました。かなり重度の方です。以前の問題行動というのが、こだわりがきついということでした。スピーカーや特定の建物、ライトや赤ちゃん、カーテンやドアなどに強いこだわりがありました。イベントなどで、スピーカーがあると必ず見に行きます。ライトが夜になっていつまでも消えないと、いつまでも気にします。赤ちゃんがいたら、とても気にします。旅行に行くと決まったら、旅行先にいるかを毎日ずっと言い続けます。カーテンは閉めないと気が済まない。ドアも開けたり閉めたりします。力が入ってしまって、カーテンを破ったり、ドアを潰したり。自分の手を噛んだり、厨房のカウンターを噛んだりもしました。落ち着きがないので、睡眠もしっかり取れない。それで作業もあまりできない。帰るときには、儀式的なものが30分くらいあります。止めようとしても、止まらない。なにをするかというと、その建物に挨拶をするのです。他には、ホワイトボードに絵を描くのですが、どんどんテンションが上がって終わらない。描きつくしたら、消してまた描く。また小学生の時のことを、急に言い出したりします。自閉症の人は記憶が視覚、画像で残っていることが多いので、画像でパッと鮮明に甦るのです。

そのような状態だったのですが、それに対して私たちも自閉症について勉強して、時間をかけて少しずつ取り組みをしていきました。たとえば作業のひとつにダンボールの回収というのがあります。スーパーから出てくるダンボールを回収するのですが、積んであるものを全部持ってかえる。あるものを全部取って中身が無くなるというのは、見た目で分かりやすい。それをクルマに積んで、廃品業者に持っていって、クルマに積んでいるのを全部下ろす。改めてここから始めました。

それから、送迎の運転手など一緒に行動する人を気にして、何度も何度も聞きに来ます。自閉症の人で運転手が変わったらパニックを起こすことがある人がいます。そのバスに乗ったら目的地に着くのはアタリマエだと思いますが、運転手が代わるともうダメなのです。だから、この方もそれに近いのだろうと思ったので、しっかり伝えることにしました。

またアナログ時計が得意だと分かりました。思ったよりもしっかりわかっていたので、それをスケジュールに使いました。あと見通しがわかるものをつくりました。お医者さんへ行く日とか、ショートステイへ行く日とか、ご本人とスケジュールをつくりました。一日のスケジュールもつくるし、カレンダーもつくって、見通しがつくようにしました。

またご家族に聞いてみると、家から出かける時にも時間がかかるようでした。ぷくぷくワールドと同じように毎日同じことをされるのです。終わりや区切りがつけにくいのだということが分かりました。ですから、終わりの区切りを大切にしました。帰りの建物への挨拶というのも、よく見える歩道でしてもらうようにしました(その建物は歩道からは、道のずっと先の家と家の間にちょっと覗いて見える)。絵を大きく描いてテンションが上がりすぎないように、大きなホワイトボードをなくして、だんだん小さなものに描いてもらうようにしていきました。でも絵は描いてもらいます。そういうことを一つ一つ取り組んでいって、だんだんと落ち着いてきました。

現在では自立課題も自分の席に座ってするようになったし、内職作業もしますし、なによりも帰る時の挨拶も一瞬で終わるようになりました。歩道の決まった場所にスタッフも一緒に行って、座ったら一瞬で終わります。「はい、終わった」と本人が言います。30分ぐらいだったのが今は嘘のようです。

振り返れば、いろいろなことに本人の見通しがついていなかったし、分かっていなかったのを、本人にとっての大事なことを大切にしつつ、少しずつ分かりやすいようにしていったことで、ご本人も楽になってきたのではないかと思います。

総合的に考えること

問題行動と言われますが、この方の挨拶の例でも、それだけ見たら問題行動ですが、原因はひとつだけではないことが多いです。頑張りすぎたことや、体調が悪かったりすること。作業が合っていないとか、障害が分かっていない、自閉症の特性が分かっていないことによって、誤った関わりが強化されることが怖いです。たとえば、パニックを起こしたときに、まわりにいる人がジュースを出して、ジュースを飲んだらパニックが治まったとします。しかし、これを繰り返していると、場合によってはジュースがほしくなったらパニックを起こすようになります。誤った関わりが強化されてしまうのです。全員ではないですが、一度覚えたことはずっとやりたいというのが自閉症の特性のひとつで、そういうのを学校時代に覚えてうちに来る方もいらっしゃるので、大変な時もあります。目の前で起こっていることのみに目を奪われないで、視野を広くもって総合的に考えないといけないです。

自閉症の支援というのはまだまだ広がっていないので、視覚支援や構造化に慣れていない人も多くいます。構造化というのは例えばスケジュールを作ったりする、その人に合わせた自閉症の支援なのですが、それに慣れていない。苦手な音声言語で無理矢理頑張ってきたやり方が固定されている場合もあります。したがって、本当に本人のものになるまで、本当にマッチしているのか、確認することが必要です。ぷくぷくワールドでは、人によっていろいろなスケジュールを立てています。手を洗って、アルコールをつける。袋詰めをするときの順番。あるいはシール貼りをするときも、何時までという見通しが示されていないとダメな方もいます。それまでパニックを起こしていた人が、スケジュールを作ることで、落ち着いて仕事をするようになった例もあります。

もうひとつ大切なのは表出です。自分が言いたいことをどう言えるかということです。これにはPECS(ペクス)というアメリカで開発された絵カード交換式コミュニケーションシステムというのがあります。これを使って支援する人は2日間のワークショップを受けるのですが、絵カードを使ってコミュニケーションをするものです。うちに来たときは全然声が出なかったある人も、これを使ってトレーニングをしたら、声が出るようになりました。近くにコンビニがあるので、iPadにPECSのアプリを入れて、それを使って買い物をするようになりました。自分から意思表示することはすごく大事なことです。PECSの利用はこれからたぶん増えてくるだろうと思います。(※PECSについては、ピラミッド教育コンサルタントオブジャパンのホームページをご覧下さい)

障害者の自立というのは、私たちも口では言うのですが、なかなか難しいです。自立というのは家事や金銭管理を自分で全部やるということではなくて、できることは自分でやって、できないことは制度などを利用し、自分らしい生活を過ごすことだと思います。自分で選択する人生を過ごすことが大事だと思います。

支援学校高等部を出て、ぷくぷくワールドに入るときに、家族さんに私からお話しさせてもらうのは、「ご本人が支援の中で生きていくことを積み上げていきましょう」ということです。「親なきあと」というのを聞いたことがあるかもしれませんが、私はその言い方は好きではありません。それはそれまで家族さんとずっと一緒にいるということです。でも一般的な話だと、18才とか20代ぐらいで、子どもの方から家を出て行くのかなと思います。だけどそれが障害をもっていたらできなくて、ずっと一緒にいると、だんだん共依存的になってくる場合もあります。だからこそ若いときから、ショートステイを使う、ヘルパーさんを使う、まわりのいろいろな人と接するということを、最初からやっておいた方がいいと思います。ケースバイケースですが、福祉事務所のケースワーカー、相談支援事業所、うちのような日中活動の支援事業所もあります。ホームヘルパーや、ガイドヘルパーもいるし、場合によってはショートステイ、医療機関を利用する場合もあります。人によっては後見人、あるいはご近所で民生委員や福祉委員もいますし、コンビニのような近所の行きつけのお店もあります。このような様々な人々がいます。自閉症の人は人と接するのが苦手なので、積み上げて、様々な人の中で生きていくということが大切だと思っています。

いろいろなことを一方的にお話しさせていただきましたが、様々な障害をもった方がいることを知ってもらえたらと思います。まず知ってもらうこと、できれば理解してもらう、そのことを広げていきたいと思っています。

ご静聴ありがとうございました。

【質問】PECSについて。どういうふうに使って、どういうふうにコンビニで買い物をするかというのを、もう少し説明していただけたらと思います。

【高田】例えば絵カードがありまして、このカードを選んで組み合わせて、文章にします。それを相手に示して表出するというものです。最初はカードを渡して物をもらうというところからトレーニングをしていきます。そこから進んで文章にしていくとこれで会話ができます。

たとえばシール貼り作業のときも、『シール貼り作業をください』とスタッフに言ってからもらうというように、人と関わることを普段の作業の中で増やすようにしています。始めてからもう2年ぐらいになりますが、自宅でも自分からいろいろ表出するようになってきています。今まで言葉がまったくなかった人が、自分からなんとか思いを伝えようとしています。だからカードの数が増えれば増えるほど、もっとコミュニケーションができるかなと思います。

PECSというのは、ABAという応用行動分析という心理学の分野なのですが、それを応用したものです。自閉症に効果があると言われていて、世界中で使われています。日本ではまだあまり知られてはいないのですが。自閉症の人にはとても有効なものだと思います。

【質問】利用者の方は、どういう道筋でぷくぷくワールドに来られるのですか

【高田】相談支援の事業所、もしくは市役所のケースワーカーを通してというのが一般的な形です。あと支援学校高等部の方から見学に来られることもあります。うちの場合は必ず実習をしてもらいます。ご本人さんがうちでやりたいかどうかというのを体験していただいて、その上で決めます。他に職業訓練校というのがあって、それが終わってからうちに来ている方も結構います。道筋はだいたいこんなところです。うちは実は定員を超えているので、ここ2年は新しい方は入っていません。

【質問】さまざまな人が地域でいきいきと暮らせるようにということですが、地域には圧倒的に健常な人が多い。25年の活動の中で、地域がどういうふうに変わってきたのか、これからどういうふうになっていくのかというのは、どうでしょうか。

【高田】たとえば、道ばたで跳んだりしている人や大声を上げている人を、たまに見ることがあります。あの方たちは、おそらく見通しがついていなくて、しんどいかも知れません。だから、その人に応じた支援というのを探せたらいいなとまず思います。たぶん見かけた方も「なんとかしてあげたい」と思っても、どうしたらいいか分からない状態だと思います。支援をするには、ある程度専門的な知識が必要だと思います。でも広がっていない。

私たちぷくぷくワールドでクッキーを頑張って作っていても、いま工賃は月に2万円ぐらいです。だから小遣いぐらいでしかないのです。昔は、他の活動もなく、全員がクッキーを作っていました。その頃はそれでも4万円でした。ただクッキーを作ることに一生懸命で、一人ひとりのことはちゃんとできていませんでした。そういう反省のもとに、今に至っています。

たとえば自閉症のパニックを起こしている方もやはりいたし、その頃の私たちは、どうしていいのか分かりませんでした。それからクッキーを作ることだけではなく、一人ひとりが、地域でどう生きるかということにだんだんシフトしてきました。その人のことをしっかり理解し、その上で支援しなくてはいけない、そのために特性理解を進めるというようにシフトしてきました。

先ほど例にあげた方のことでも、私たちが彼に寄り添うことによって、今があると思っています。だからまず私たちが変わらないと、状況は変わらないと思います。まずそこからだと思っています。

障害を持っている方が地域にいること、多種多様な障害があるということを、どう広めていけるか。そして街の中にどう出て行けるのか。私たちはぷくぷくワールドの中だけではダメだと思っています。PECSを使って、近くのコンビニへ買い物に行くこともひとつだと思います。それは他のところにも広げたいと思っています。うちの中だけで完結するというのは、違うと思います。広げていくことによって、少しずつ理解者も増やしていって、その人の良いところも分かってもらいたい。

ただそれには時間がかかると思っています。その人に寄り添いながら、少しずつどう理解を広めていくか、というところだと思っています。

【注】

1):障害者就労継続支援事業として、一般企業に雇用されることが困難な障害者に雇用の場を提供し、生産活動における能力向上を目指す事業で、雇用契約を結んで給料をもらいながら利用するA型と、通所して授産的な活動を行いながら利用するB型がある。

2):「障害程度区分」は介護給付の必要度(必要時間)を表す6段階の区分で、大きいほど必要度が高くなる。

3): 「発達障害の理解のために」厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/hattatsu/dl/01.pdf


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