■ 12 月頃に一定期間ジャングルが開放され、 地元住民により薪や飼葉が運ばれる
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ネパール・タライ平原の村から(62)

自然と向き合う

その3 -バッファゾーンを訪問-

外国人観光客がゾウの背中に乗るジャングルツアーや、カヌーに乗ってバードウォッチを楽しみ、自然と触れ合うチトワン国立公園。ここは野生動物の宝庫であり、野生生物保護局やネパール国軍により保護・管理される、ユネスコ世界遺産でもあります。そこから、ナラヤニ河を挟んだ西端の位置、国立公園の外側、ナワルパラシ郡に僕は住んでおります。

国立公園領域の外側、約5キロ地点の水田地帯に私達の田んぼがあります。2年前、裏作に蒔いたソバ畑のド真ん中に、ジグザグになぎ倒された跡が見られました、サイ害でした。さらに国立公園の方へ数キロの畑には、サイの侵入を防ぐ見張り櫓があり、その先に広大なジャングルがあります。薪拾いや河沿いの草地で、家畜の放牧に開放されたジャングルでもあります。国立公園は周囲に溝を堀り、有刺鉄線、電気柵、8フィート(約2m)のネットで4重に囲う工事が進められているものの、これらの地域は、野生動物が侵入する境界地域となっています。反対に住民が国立公園(ジャングル)に入り、林産物を利用する境界地域でもあります。こうした境界地域に、バッファゾーン(緩衝地帯・中立地帯)が設けられてあります。そのバッファゾーンについて、地元のラミチョール・バッファゾーン委員会、委員長ポウデルさんに、話しを伺いに行きました。 ジャングルの管理を住民へ戻す取り組み

僕が暮らす家は、バッファゾーンの外側にあるのですが、家から離れた水田の方は、バッファゾーン内にあることをポウデルさんの話しから、初めて知りました。そこで獣害による作物被害の補償制度があるか聞くと、ネパールにおいて作物被害の補償は、検討されてはいるが、実施には至っていないとのことです。また、家畜被害の補償額は、~1万ルピー(約1万円)や人間への被害は~10万ルピー、死亡50万ルピーとのこと。

国立公園周辺、バッファゾーンの居住者50~150軒で、1つの委員会が組織されます。さらに16~32軒のグループに分かれるとのこと。より自然村に近い単位に、組織が分化されるようです。委員長等は5年に1回、委員会の中から選挙で選ばれます。運営予算は、国立公園における観光収益の50%から22の委員会に分配。予算はバッファゾーンのインフラ/地域開発事業(30%)。柵の設置による管理や植林事業(30%)、農業や縫製等の収入向上事業(20%)、環境教育事業(10%)、事務経費(10%)とのこと。

バッファゾーンでは季節により週3日、家畜の飼葉の刈取り、下草刈りにジャングルが開放されます。また、植生を見て、委員会で枝打ち(薪採集)が年1回、一定期間行われます。材木の間伐については、国立公園による許可が必要とのことです。

バッファゾーンは、行政と住民組織によって、ジャングルの保護と利用を決定しようとする試みであります。地域に還元される木材林の植林や、薪利用による資源浪費を抑えるため、畜糞を利用するバイオガス設置家庭に補助金を出す等、様々な取り組みがあります。かつて、ジャングルを利用する住民を環境破壊者として締め出す、国家による管理から、住民による管理へと“戻そう”とする取り組みでもあります。


今回は、バッファゾーンにおける行政側の取り組みを聞きました。ただ、実際に利用する住民の側からは、おそらく、どう制度を利用するか(従うか)と言った、違う見聞があると思います。そもそも既に、森に依存しない暮らしに大きく変容しつつある今。以前と比べて、だんだん自然とヒト(地域)が向き合う機会が減りつつあること、分断されつつある、そのこと自体について、森林保全という枠を超えて、捉え直さなければいけないように思うのです。 

(藤井牧人)

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