▲舟山やすえ参議院議員
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   東北山形選挙区を戦った農家活動家による座談会


2016年参議院選挙は
本当に自・公政権の圧勝だったのか

710日実施された参議院選の結果は、大勢として与党、政権側の圧勝だったけれども、各地域の結果を見れば、そうとは断じきれない動きがある。とりわけ東北、北海道での野党統一候補の勝利には、注目すべき内容があると考える。九州、四国、西日本での惨敗
と比べ、その違いはどのような背景から生じた
ものなのか。当研究所の検証テーマとして、今
回、特に山形選挙区における選挙戦を取りあげ、
舟山やすえ候補とともに戦った農家、活動家の
座談会を開催した。場所は「しらたかノラの会」
の事務所兼作業所である「めぐり屋」の庭。
以下、報告する。  (事務局)


参加者】

菊地富夫(戦争やんだおきたまの会・農業)

本木勝利(元白鷹町議・共産党白鷹支部長

      ・戦争やんだおきたまの会農業)

吉野昭男(ネットワーク農縁・新庄)

遠藤敏信(新庄市議会議員・ネットワーク農縁)   

菅原庄市(しらたかノラの会・戦争やんだおきたまの会事務局)

小林亮 (おきたま興農舎・戦争やんだおきたまの会

若林和彦(戦争やんだおきたまの会代表・ノラの会生産者)

山本典子(しらたかノラの会・舟山やすえを勝手に応援するかあさんたち)

菊地若奈(安保関連法に反対するママの会やまがた代表)

舟山やすえ(参議院議員)

津田道夫(司会)



【津田】
 お忙しい中、どうもありがとうございます。

先日、710日に行われた参議院選挙の選挙結果についてですが、マスコミ一般では自公の圧勝という評価が一面的に流されているという状況です。もちろん議席数だけを見れば、参院の3分の2議席を改憲勢力が獲得したというのは重い事実なのですが、選挙区選挙を見てみると、北海道から東北、長野にいたる選挙区では自民党の候補者がほとんど負けています。秋田県では自民党が勝ちましたが、どうも自公圧勝という全般的な選挙結果の評価だけでは、捉えられないのではないかと思うのです。

 それともう一つは、そうした選挙区選挙の結果を生み出した要因として、共産党の選挙協力も含めて野党統一候補が選挙区でほとんど全国的にできあがったということが指摘されています。しかし、西日本から九州、四国は同じように選挙協力が実現した選挙区選挙も、三重と大分ぐらいがかろうじて勝っただけで、ほぼ完敗しているのです。東と西のこの差が非常に際立っていて、そのことをもう少しきちっと分析してこれからの私たちのいろいろな活動に活かしていく必要があるのではないかと思いました。

おつきあいのあるおきたま興農舎の小林さんに相談しまして、一つのモデルとしての山形県の舟山さんの選挙、8時すぎにはもう当確が出るという圧勝の選挙戦が、どういう構造の中でそういう結果を生み出したのか、いままでの選挙と違う農村、農家の反応になにか変化があったのか、そのあたりを、一緒に運動をされた山形の農家の活動家の人たちのお話を聞かせていただきたいと思って、今日お集まりいただきました。

  当初は、知り合いの何人かの方に、ざっくばらんにお話を聞かせてもらおうと考えていたのですが、参加していただける方が意外に広がりました。というか、こういう関係の中で舟山さんの選挙も戦われたのだなということを改めて感じた次第です。今日は御本人も来ていただけたので、ぜひ皆さんに選挙戦の中でなにが変わってきているのか、なにがこういう結果を生んだのかというあたりをお話しいただいて、少し議論をさせていただければありがたいと思っています。

 進め方なのですが、参加していただいた皆さんの自己紹介と、選挙に関わってどんなふうにお考えになっているのかということを、ひとりずつお話しいただいて、その後、舟山さんに選挙戦全体をどんなふうに捉えておられるのかを伺うという形で進めていきたいと思います。

では、こちらの方から。

【菊地】

 私は白鷹町で田んぼをやり、牛を飼っています。実は今、津田さんがおっしゃった疑問を、私も同じように持っています。今回勝ったのは、本人を前にしてなんですが、たぶん本人の資質が良かったということがあるんだと思いますが、なぜこんなに差がついたのかということについては、分かりません。選挙協力の結果だというふうにも言われていますが、だとすればもっと小差で良かったのではないかと思います。

 ただ、なんとなく感じるのは長州と奥羽越列藩同盟みたいな関係がどこかで影響しているのかなと、そういう風なことがなにか底辺に流れているのかな、なんて勝手に想像しています。長州憎し、安倍憎しというような。

【本木】
 
昭和19年の生まれで、勝利という名前になりました。5年ぐらい前まで、白鷹町の共産党の議員をしていました。今回の参議院選挙に向けて、ちょうど戦争法が通ったその日に志位委員長が選挙を一緒にやりませんかという呼びかけをしたという経過もありましたが、「戦争やんだおきたまの会」の反省会などでは、この前の選挙の時、共産党は独自候補を立てて、そのために舟山さんが当選できなかったというお叱りをずいぶん私は受けました。また同じことをやるのは賢くない。で、去年のちょうど今頃、菅原さんなどと話をして、この次の参議院選挙は共産党も含めた選挙ができないものかと語っていました。

 舟山さんが圧勝したということについては、なぜかというのは私も分からないのですが、ひとつは、この前に惜しいところで当選できなかったという有権者の思いもあったのかなと思っています。TPPとかいろんな政策的な問題もあったんですが、実際に私ども共産党は選挙区は舟山さん、比例は共産党をお願いしますという運動をしたのですが、ずっと農家をまわっても、第一番にTPPなんかは出て来ない。ですので、今回圧勝したというのはTPPとか戦争法とかだけではなくて、舟山さんを応援する広範な支持、運動をする組織が保守も含めて裾野が広がったのが大きいかなという気もしています。

  
新庄・最上での選挙の様子

【吉野】

 相手候補の月野さん(JA幹部)の地元、新庄市から来ました。ちょっと喋りにくいです。農協の役員もやってまして、いろんなことがありますが、一番は前回のこと。前回は農協が舟山さんを推していたわけです。反対に今度は月野さんに変わったということですが、農家、農村が虐められているということに関しては、やはりおもしろくないという思いをみんな持っているのではないか。口には出さないけれども、実際、農村は疲弊している状態ですし、経済的にも農家は本当に苦しい状態だ。農産物を輸出しようということ自体がおかしいことであって、国内で買い叩かれ続けている現状をほったらかしにして、一方で輸入ばかりしておきながら、なにを言っているんだと、農家としてはそういう思いがあるのではないかと思います。


【遠藤】
 ネットワーク農縁という産直組織を立ちあげて、今年で
21年目です。実は私、14年前から新庄市の議員もやっていますが、今回舟山さんの選挙にあたりまして、ちょうど告示日の前日に入院する羽目になりまして、選挙戦に入ってからは全然動けなかったということで、非常に心苦しい思いをしておりました。しかし、入院期日が分かっていたということで、入院する前にやっておかなければと、手書きの葉書を250通ほど出しました。そういうことから病室に電話をいただいた方がかなりおりました。私自身は選挙にはとても不安がありましたが、見舞いに来てくれる方や、向こうを推しているはずの人が、今回は舟山さんだというようなことを言っていくのです。素直に信じて良いのかということで、よく友人などと話したのですが、結果を非常にうれしく思いました。

山形県のなかで、新庄市と大蔵村だけが負けました。だけど新庄は、言い訳にはならないと思いますが、相手候補の地元ということで、これは致し方ないんじゃないかなということで、自分の腹の中ではおさめています。
 舟山さんが前回負けたということ、これは本当はあってはならないことだったという思いが皆さんの中に強かったのだと思います。本人を目の前にしてヨイショしたくないですが、言うこともきっちりしていて、資質があるということを、皆さん見ているんだなと思いました。たとえば最上町などでは現職町会議員が誰ひとりとして舟山さんを推さなかったにもかかわらず得票数で勝っている。


【舟山】
 最上町は町長を含めて町会議員全員が相手候補を応援し、最後の何日間かは全員で辻立ちしたと聞きました。雨の中も、風の中も。


【津田】
 新庄市の中での選挙戦は、相当気をつかわざるを得ない状況だったのですか。


【遠藤】
 私の場合はあえてそういうのに関わらずにやったのですが、でもたとえば前回舟山さんの応援弁士まで勤めた農協の代表者なども、今回は尻込みしたというようなことがありました。ただ、直接職員とか組合員に圧力がかかったというような形跡は見られませんでした。個人としての立場で、ポスターを貼ってみたり、そういう動きはわりとあったみたいです。

    戦争やんだおきたまの会

【菅原】
 もともと舟山さんの前回の選挙の時も、白鷹町の面々は舟山さん支持で応援をしていたのですが、今回舟山さんを応援するというところに至るまでは長い道のりがありました。結果として、前回とはまったく別立てで舟山さんを応援するという格好になった。その一つに戦争法が国会で決められそうになった去年の夏、これはやばい、とにかく戦争法案を廃止させなければいけないということで、白鷹町、西置賜という一市三町の百姓を中心に戦争法廃止の集会を西置賜でやろうという話をして、若林君、菊地君、大木さんというメンバーで
350人ぐらいの集会を持ちました。

 その反省会の時に、このあとどうなるだろう、このまま可決されるんじゃないか、そうなったらどういう手段があるだろうかという話になった時に、今度は国会の選挙という形で反対意見を主張していかなければいけないという話になった。それで、単純に反対の候補を見つけるということよりも、反対する候補者を支援する裾野をどういうふうに広げていくか、反対する候補者をどういう陣容で押し上げていくかということを考えて、沖縄の統一候補の立て方を参考にしました。

 オール沖縄の糸数慶子さん(参議院議員)を招いて、
12月に今度はオール置賜という形で九条の会とか平和センターとかも関わって、飯豊町で650人の集会を行った。そこでオール野党をまとめて、戦争法に反対する候補者を推さなければいけないということで、その頃になって、舟山さんの名前が挙がってきました。野党が統一して舟山さんを推すような形が作れるようにこちらから声明文を出して、各野党に働きかけた。そういう経過があって、その後、野党統一候補ということになって、舟山さんの選挙に突入していきました。

「戦争やんだおきたまの会」の実行委員会に参加してくれている人の数は50人ぐらいいて、それぞれに各地区では選対に入ってやっていらっしゃる方もいるし、各政党に入って中心的な役割を持っている人もいるし、普通になんでもない人たちもいっぱいいます。俺も舟山さんの選挙を前回やったと言っても、看板を立てたり、同じ地区の一軒一軒をパンフレットを持って呼びかけたぐらいのもので、たいした動きはしていなかった。今回、「戦争やんだの会」では自分の携帯電話の中にあるリストの中で、今まで声をかけていなかった、仲間内ではない連中すべてに電話してみようということで、自分で実際に声をかけた。そういうふうに主体的に選挙に関わったというのは、今回が本当に初めてでした。

そうして40年も会ったことのない柔道部の先輩に電話をかけたりしても、それでも舟山さんのことは「ああ、分かった、分かった」という良い感触で、それはなぜかというのはよく分からないですが、前回落としてもったいなかったというのもあるだろうし、百姓の立場からいうと、騙されたという感じが強いと思う。TPP反対しますと言って、上がっていった自民党の議員がTPPを推進しているとか。どうも安倍は嘘つきだ、納得いかないというのが、かなりみんなにはあるという感じがしています。

【小林】
 高畠の小林です。安倍政権になってからの異常な政治状況に対する不安感とか不満とかいう角度から自民党の候補者に入れたくない人もいれば、ずっとTPPを掘り下げて、いかに日本のため農家のためにならないかということを訴え続けてきた舟山さんに対する評価も当然ある。しかし、戦争法のことがあって、今まで動かなかった若いお母さんたち、女性たちが一歩を踏み出して積極的に前に出た。選挙というのは選挙の好きな人たちがやっているというふうに思われていたけれども、今回の選挙はそうではない人達にも拡がったことが大きかったと思っています。

もちろん、いろんな要素が絡み合っているけれども、西置賜では70%の支持を集めた。高畠の東に行くと、川西も70%くらいです。高畠はちょうどほどよい大勝利感もない63%くらい。今まで一緒にやったことのない共産党も社民党も民進党もみんなで選対を作ってやってきた結果としては、ちょうどよかったというふうに思っています。今まで半数に届かなかったものが、60%台になった。

でも、その矢先に、今行われている民進党の代表選で、共産党とは距離をおくとか、都合の良いことを言っている人ばかりが立候補している。本当にどうしようもない人たちだと思いますが、それはまあそれとして、国会などの数を見ると今は手も足も出ないわけだけれども、今回の結果を踏まえて、各市町村の首長選であったり、町議選であったり、県議選であったり、あるいは知事選も含めて、どういうふうに対応していくかという準備をやらないといけない。せっかく自分たちの投票行動で結果が変わるという目鼻を少しは見ることができたわけだから、その流れを現実にどうやって定着させるかということを、それぞれが事態の結果を踏まえながら、どう具体的に結びつけるか。

いろいろな角度からものを見て、判断した人たちがいっぱいいる。それを同じ価値観で勝手にくくらないということが大事だなと思います。

【若林】
 菅原君と「戦争やんだの会」で一緒にやってきましたので、細々したことは聞いていただきました。私もこれまで政治活動はしたことがなかったわけですが、去年の戦争法のことでは、これは絶対今のうちにということで、皆さんとやりました。

今回はやはり舟山さんの人柄とかをみんなが分かっているというのが一番だと思います。それから、その前の選挙で落ちてしまった、その悔しい思いを持っている人がいっぱいいたということです。それはかなり感じました。私も含めて選挙に関わったことのない人が横のつながりを持った。この後で話していただくママさんたちや若い人たちを含めて、労働組合だ政党だとかではなくて、そういう人たちがつながったということ。私たちとしてはオール野党を望んだわけで、私たちは接着剤の役割として、民進党にもなんとかして下さいとお話をさせていただいて、なんとかなったのかなと思います。

それから農協は前回の参議院選で舟山さんを推して、そのあと補助金とかいろいろな形で圧力をかけられたものだから、ちょっと今回は二の足を踏んだ。だけど組合員は新庄の人も言ってたように、そんなことを考えないで舟山さんを応援した。長井市で開かれた月野さんの後援会の集いに行った人の話を聞くと、来たのは利権のある土建屋さんや動員ばかりで静かだったということです。私たち舟山さんの会では「そうだ!」とか「がんばろう!」とか、それだけ気持ちが違ったということです。

  舟山やすえを勝手に応援するかあさんたち

【山本】
 白鷹の山本です。舟山さんが立候補するということになって、仲間のお母さんたちと呼び掛け人は56人で「舟山やすえを勝手に応援するかあさんたち」という名前で、応援団という関わり方をしました。

舟山さんと最初にちゃんとお話ししたのは、舟山さんが小国町に戻られてからです。冬に友だち78人と子どもたちを連れて、長井市のお寺で舟山さんを囲む会をさせてもらったのが最初でした。子どもたちがにぎやかに遊びまわる中にもかかわらず、TPPについての専門的なお話を、経緯から問題点、対策まで、丁寧に話していただいて、まずその点で感激しました。そのあとの自己紹介で、福島から自主避難している人がいて、ちょうど震災から3年経った冬だったのですが、全然変わらない現実について、舟山さんも親身になって聞いて下さっているのが分かってさらに感激しました。

舟山さんの前回の選挙のときは、それぞれが舟山さんを応援していたのですが、外に対して何もしませんでした。それが落選という結果になってしまったんだなと思って、今回は私たちも前回と同じように黙っていてはダメだと思いました。私たちの話をあれだけ聞いてくれた舟山さんが当選するためには、私たちもやっぱり声を上げなきゃいけないということで、じゃあ、会を作ろうということで始めました。

でも、みんな選挙運動などは未経験の世代なので、電話を掛けるということも慣れてないものですから、じゃあどうやって発信していこうかと話し合いました。まず舟山さんと小さなお茶会をして、どういう形で私たちがお手伝いをしたらいいか、舟山さんの気持ちを聞きたいねということになりました。同時に、舟山さんの政策や考えをわかりやすく伝えるような媒体を作って配ろうというアイデアが出て、B5両面で半分手書きの舟山さんの紹介チラシを作りました。

各地の個人演説会、決起集会で、そのチラシを配りました。配り始めましたら、まず舟山さんにとても喜んでいただいたのが、本当に嬉しかったのですが、支持者の人たちも喜んでくださったのです。「これ持って紹介しに行けばいいんだなぁ」とか。あとはやはり、今までものを言わない、関心ないと思っていた層が動いたということで、今までやってきた方も気合いが入ったというか、元気になったような感じがしたんです。だから、そういう役割もあるんだと思いました。

チラシの他に、フェイスブックもしようよということで、立ち上げました。各地で応援したときのスピーチ原稿を載せたり、舟山さんの投稿をシェアしたり、あとは紙のパンフレットのなかからいくつか記事をピックアップして投稿したり、という活動をしました。そうすると、会ったことのない人がたくさん「いいね!」をしてくれました。こんなに同じ気持の人たちがいるんだというのが分かって凄く励みになったし、実際、演説会では、舟山さんの話を聞きに来ていらっしゃるのですけれども、私たちの話にもたくさん拍手をしてくださるのです。こんなに仲間がいるということは、別に選挙が終わってもひとりじゃないな、という気持ちに確信を持てたのは凄く大きかったです。自分の考えをまとめて人に伝えるという訓練を1ヶ月、2ヶ月できたことで、主体的に関わるということの意味も明確になりました。選挙戦の最後はみんな積極的に、時間がある人は選挙事務所に行って電話掛けのボランティアもしたし、葉書も書いたし、まだなにかやり足りないんじゃないかと思って、最後の1週間お母さんと子どもでスタンディングもしました。私たちの代表が舟山さんで、舟山さんを国会に送るんだという気持ちが、意欲が、より明確になってきたなと思いました。

今後については、もう1枚チラシを作りたいなと話し合っています。どういう未来がいいか、私たちが望む幸せとか、こういう世の中になったらいいなということを発信したいと思っています。実際、こうやって舟山さんが当選してからの動きを追いかけると、恥ずかしいけれど分からないことがいっぱいあるんです。最初は、会派の意味も分からなくて。ですので、そういうことからいちいち紐解いて、舟山さんの国会の動きから国政の仕組みとか、世の中の課題とか、そういうことを発信していくことで、私たちも知識を深めると同時に、少しでも関心を持つ人が増えていって、次の市民の意思表示のチャンスに向けた準備につながるようになればいいなと思っています。

  安保関連法に反対する
         ママの会やまがた


【菊地(ママの会)】
 
寒河江(さがえ)市に住んで
ます、「安保関連法に反対する
ママの会やまがた」の代表をし
てます菊地と申します。私自身
はそんなに政治に関心があった
ほうではないのですが、やっぱ
り原発事故の辺りで、国の言う
ことをそのまま聞いていたら、
子供たちを守れないんだという
ことに気付いたんです。そしてフェイスブックとかツイッタ
ーとかを使って発信することで、同じ思いの人たちと繋がって、社会にメッセージを投げかけることができるんだということも、原発事故のあとから素地としてできてきたのかなと思います。

それから安保関連法です。秘密保護法から始まって、このままでいいんだろうかと不安が高まっていたときに、やっぱり強行採決があって、これは何か自分でできることをしなければ子供たちに申し訳ないというような感じで、フェイスブックでひとりで立ち上げたんです。私、本当にできるだろうかと思いながら、スマホで立ち上げました。やった瞬間は「やっちゃったー!」という感じでしたが、立ち上げてみたらそういう思いのママたちがたくさんいて、繋がっていったという関係です。

「ママの会」は安保関連法を廃止するということが目的だったので、まだ統一候補になっていないときは、共産党の石山さんもいましたので、まず最初に、やっぱり私たちの思いを託せる人は舟山さんだなというのは思ってたけれども、オール野党になって、山形県全体の世論を盛り上げたいというのがあったので、随分注意して動いたつもりです。舟山さんと初会談でランチしたときも、やっぱり石山さんとも同じように会談したりとか、フェイスブックにも同じように載せていきました。

それからSNSの発信で、相手側への口汚い罵りが凄い横行してたんですが、それは実際、相手候補の月野さんへの批判だったりとか、安倍政権への罵倒だったりするのですが、あまりひどいと退いてしまった人も多かったと思うんです。だから、「ママの会」では批判とかではなくて、もっと建設的な言い方をするように凄く気をつけました。

舟山さんが野党統一候補として決まるまでもいろいろ紆余曲折があって、なかなか決まらなくて、ちょっとスタートが遅いんじゃないかと不安が凄くあったんですが、何とか決まって。戦争法の廃止を求める2000万名署名を、「ママの会」で街頭署名をやりながら、マイク持って七日町(山形市)で話したんです。話しながら署名を集めていると、結構、車から窓を開けて手を振ってくれたりとか。がんばってねとか、これはだめだよねって喜んで署名してくれる人が結構いました。選挙中の舟山さんの応援演説などもしましたが、普通の、一見単なる主婦みたいな人が声を上げてるっていうのが、なんかよっぽど反対しなければいけないことなんだろうなみたいな、そういう声は投げかけられたかなと思います。

結果として大勝したわけですが、比例票では自民党は山形県では過去9回で2番目の得票だったというのを聞いてびっくりしました。自民党に入れながら舟山さんに入れたという人が相当程度いたというわけです。

そこはみなさん、いままでもおっしゃったように、ご本人の資質というのが大きかっただろうし、山形県は農業県ということで、TPPのことで自民党に対する不信感とか、強行政治に対して、ここはお灸を据えなきゃいけないとか、そういう心理が働いたのかもしれないです。でもやっぱり、自民党なんだという人が今回、舟山さんに投票していたわけです。だから、本当に自民党の政治と戦争法もTPPも沖縄の基地問題にしても、突き詰めて考えていくとひとつの問題がそこにあって、その方向性を持っている自民党の政治がいけないんだということを、まだ伝え切れていなかったかなと思います。

私たちママの会としての目的は安保関連法の廃止なので、選挙が終わってもすぐに「戦争体験を聴く会」を2回開催するなど活動を続けています。無党派の人の7割が舟山さんに投票したわけだから、舟山さんには無所属という立場を活かして私たち市民団体の力も使って、これからも廃止まで共に戦ってほしいという思いです。

  TPP・農業政策を訴える

【舟山】
 
今いろんな方にお話いただきました。今回は本当に多岐に渡る方々の個々の、組織ではない個々の力を強く感じた選挙でした。「戦争やんだ」とか、「かあさんたち」、「ママの会」、あとは各地の勝手連とか、いろんな動きがありましたが、選挙のために作った組織と、それまでの積み重ねのなかでできてきたものが、ちょうどうまくかみ合ったと感じます。       

私は前回の選挙も、民主党を離党した経緯も含めて、特にTPPの農業問題に対する今の政府のやり方に対する批判をずっと訴えてきました。前回の選挙は全国でも恐らく唯一だったと思うのですが、非自民の候補者である私を、県の農政連、JAグループをあげて推薦をするという決断までJAグループはしたわけです。逆にそのことで、本当にこれは権力の使い方を間違ってると言わざるを得ないのですが、選挙が終わって自民党は様々な面で有形無形な圧力をJAに掛けてきました。そういったことがあり、今回、比較的農家に強い、農業に強い舟山に対してどういう対立候補者を出せばいいのか、自民党は農業関係、とりわけ前回舟山推薦まで決めたJAグループから候補者を出せばJAの組織は割れる、もしくはこっちに票が来るという読みがあったと思うのです。そういう経緯でJA幹部を出してきた。私は逆にそのことが、今回全国的には選挙争点がぼやけてると言われていましたが、山形においては明確に争点を示すことができた、争点を作ってくれたんだと思っています。

実は今回の選挙の関心事項は何ですかという世論調査をすればTPPと答える人は少ないんです。アベノミクスだとか、これを加速するとか何とかいうことが漠然と言われていたところを、私は当初から、一番の争点は何ですかと聞かれたときには、敢えてTPP問題をあげた。すると、意外と明確に思想の違いが見えてきたような気がするんです。

当然、安保も大きかったし、憲法の問題も大きかったけれども、敢えてTPPを出して、漠然とした言いようですけど、「山の向こうのもうひとつの日本」ということで、お金だけ、経済だけじゃない豊かさ、まさにその対極にあるのがTPPであって、競争と金と効率化というところに対する対抗軸を示して闘ったことが争点を見やすくしたのかなという気がします。

相手候補は自民党の言ってることしか言えないわけですから。その選挙の演説というのは、やっぱりTPP反対ではない非常に曖昧な態度に終始しました。JAグループにも、自民党はTPPに反対と言って、前回、特に衆議院で応援したのに、騙されたという思いが凄く沸き上がってきた気がするんです。

TPPともうひとつ、それに絡めてやっぱり農業政策そのものも、とにかく規模拡大、効率化、輸出に力を入れるというところで、いわゆる非貨幣的な役割を評価するというような、ヨーロッパ型の農業の在り方というものが全く論じられないということへの現場の不安不満。特に中山間地域を多く抱えている山形ではそういった声も大きかったかなと思います。ですから、図らずもこちらの力を弱めようという思いで農業関係者を対立候補として出したところが、逆に争点を明確化し、凄くわかりやすい構図を作ってくれたような気がします。

で、その影響もあってか本当に面白いと思ったのは、全国紙や報道ステーションもそうでしたが、公示の前日の必勝祈願祭に、あの読売新聞の東京の記者がわざわざ山形に来て、TPPオンリーで質問を投げかけてくるわけです。TPPの論点を全国に発信する役割は、一定程度、山形から果たせたのかなと思います。

そして、本当にいろんな人の力を感じたと言いましたけれども、そういった個別の、戦争安保法、TPP、アベノミクスの問題に加えて、やはり自分のこととして、多くの有権者、市民のみなさんが動いてくれたんです。さっき、遠藤さんが言ったように、葉書を250枚、300枚書いてくれたという人は、他にもいっぱい聞くんですよ。前回も入れた、その1票を投じた人が1票じゃなくて広げる努力してくれた。別に街頭に立ってはちまきを巻いて手を振るわけじゃないけれども、でも静かに家のなかで葉書を書いて、そういった運動をしてくれた人が見えないところにいっぱいいた。というのはただ単に私のためというよりは、自分たちのためにいま動かないと大変だなという危機感があったのじゃないかなと思っています。

あと、今回特筆すべきは、東北の奥羽越列藩同盟という言葉がありましたけれども、東北、甲信越、北海道はほとんど勝っています。2敗だけですよね。秋田と北海道、北海道は3つは取れるわけがないですから、実質秋田だけです。新潟も長野も山梨も取ってますし、まあ食糧自給率が高い県はほぼ勝ってますし、もうひとつ沖縄は勝っている。ということで、結局のところ、TPP、安保それから農業問題、あとアベノミクスですね、安倍政権が掲げている争点となる政策の一番影響を受ける地域はすべて安倍政権にNOを突きつけている。そのことの意味はすごく大きいと思います。けれども、そうは言っても東北は、どんなに虐げられても、どんなに不利益を被っても、やっぱり最後はやっぱり与党じゃないとというような行動原理があると思うんです。やっぱり一番保守が強かったわけですし。どんなに全国的に風が吹いたところで、最後の砦、東北はやはり保守だという強い地盤だったんですが、その地域で、どんなに圧力をかけられても、そこで叛旗を翻したということの意味は、私は全体3分の2を取られたことよりも、実は大きいし、これからそういった動きがさらに広がるひとつの重要な一歩なのかなという気がします。農協に関して言えば、確かに前回は推薦、今回は自主投票、まあ重みは表面的には前回の方が重かったけれども、私は選挙戦で動いてみて、むしろ今回の方が、私への応援は強かったと思います。それはやはり、前回以上に3年たった今、おかれている環境の厳しさがあるというような気がします。だからみなさん自分のこととして、選挙を戦って、自分で行動を起こして、いろんな動きがあった。ということは本当に、当選した後の責任というのもすごく重いなと感じています。

【津田】
 少し、僕の方から質問というか、この点はどういうふうに、みなさんは見ておられるかということをお聞きしたいと思います。参議院選挙全体の評価で、東北・北海道の選挙区選挙で、ほとんど統一野党が勝利したということが、選挙結果の評価の位置づけとして、あまり意識されていないというか、評価されていない。ところが個々の選挙、山形であれ、福島であれ、新潟であれ、青森であれ、岩手であれ、それぞれ個々の選挙区は選挙情勢も少しずつ違うだろうし、候補者の構造も当然違うのですが、でもあれだけ自公政権の圧勝ムードのなかで、この東北・北海道の選挙区での選挙結果がここまで一方的に野党統一候補に傾いた。もう少し、選挙全体の中でもどうしてそこを評価しないのかと、すごく疑問に僕は思っているのですが、そのあたりはどうなんでしょうか。


  野党統一の成果について

【舟山】
 山形では、でも評価されていますよ。山形で野党統一の成果について、大したことはなかったという評価はしていないと思います。


【津田】
 共産党との野党統一というのはやりづらかった面もあるのですか。


【本木】
 
野党共闘に共産党が入ると、あるいは前に出ると、票が減るという話がずっと野党共闘が成立する前から続いていた。そういうのが陰に陽に党員に対して、あまりいい影響を与えていないわけです。中央は、そんなことはないと、1たす12ではないぞと号令をかけますが、実際に皆さん方が有権者にいろいろな表明なんかをやったときに、共産党が入っていることで、それはちょっと、というような話があったのかどうか。というのも安倍総理なんかは最後まで反共攻撃一本の街頭演説をしていて、共産党の政策委員長の「防衛費は人を殺すための予算」とかいう発言もあったけれども、反共攻撃が有効だというふうに思っているから最後までやるわけです。ところがこっち側で、いや共産党も一緒にやって戦争法も反対なんだというふうになっていれば、反共攻撃もあまり効果がなくなってしまう。そのへんはどういうふうに考えているのかなと思います。

実際に共産党が入ると票が逃げると言うけれども、そういうことがあったのかなと。結果を見れば圧勝なんだけれども。なかなか分からないと、私は思っています。

【舟山】
 現場ではあまりないですが、その点に関しては言葉は悪いですが、共産党を毛嫌いする人たちも、選挙に関わっていた人たちの中にはいるわけです、どうしても。民進党のなかにも一部いたかもしれないし、もっと言えば労働組合系でやはりそういう声があった。私は今回無所属ですけれども、実質民進党がかなり、公認と同じように支援体制をつくってくれたということはいろんな面で大きかったですけれども、その中で、相乗効果がうまく発揮できたのは、選対本部長をやってくれた民進党の近藤さんと共産党の県委員長の本間さんが何度も会話を繰り返して、いい形で連携を取れたのが、効果を発揮できた一つの要因かなと思います。

ほかの県の選挙がどうだったのかは、出過ぎてマイナスだったことがあるのかどうなのか。表面は共闘だったけれども、実際中身はガタガタで、それぞれ別々にやっていたような県もあったのかどうなのか、他県のことまでは分かりませんが、山形ではまあなんとか、という感じです。

【津田】
 近畿から西の方は、もうほとんど惨敗なんです。同じ、共産党と野党統一候補を作って、しかもいくつかの県では無所属の候補者を共産党から民進党からオール野党で応援して、選挙戦を戦ったような県もあります。でも、ほとんど惨敗なんです。この差がなぜこう際立って出ているのかということが疑問で、そこに何か今の西日本の農村の、農業の現状、それと比較した東北・北海道の農業の現状になにか、農業政策の絡みとか、政府に対する評価も含めた、農政に対する評価も含めた何か違いがあるのかなと、考えていたのですが。


【小林】
 一つ気がかりなのですが、山形選挙区の場合は自民党支持層の
25%が舟山さんと書いているわけだ。25%が自民党・公明党支持者でありながら、舟山さんを勝たせたいと純粋に思って書いたのか、それともう一つ大きな現象は(衆議院選挙区)3区の加藤鮎子と張り合って、落ちた阿部寿一さんが舟山さんを支持することをいち早く決めた、その相乗効果だとすると次は怖いなと思っちゃうわけです。25%。36万票のうち25%だから、これはでかいです。


【菊地】
 さっきの話と同じ疑問をもっていますが、舟山さんを一生懸命応援した置賜とかは、ある程度勝つのはいいのだけれど、どこかで風が吹いていると思う。僅差で、
5545くらいで勝ったら、みんな頑張ったねと片づけられるけれども。「山の向こうのもう一つの日本」というフレーズがかなり気になって、それは東京に対しての山形とか東北、虐げられてきた者の恨みつらみみたいなのが、どこか底辺にないと、説明がつかないという気がする。農業の問題というのは、実は俺は百姓をやってるけど、村の中の200軒のなかで、農業票なんてたぶん、1割だよ。なんらかの形で自分で米を作ったり野菜を作っているけど、生活の母体になっているのはほとんど勤労者で、実は勤労者もちゃんとした職場がないということが、東北のあるいは白鷹の、山形の抱える問題で、農業のことを話していて、いいなと思うんだけれども、農業のことは票にならないと思って、はらはらして見ていました。


【舟山】
 
私はけっこう演説の中で自民党の政策を批判しているんです。今の政治の進め方とか、明確に。いろんな人から「批判じゃダメだ」と言われたけど、それで私もいろいろ考えたんだけど、やっぱりおかしいものにおかしいと言わなければ、物事は変わっていかないんですよね。だから、ずいぶん、「批判ばかりだと、特に女性はついていかない」と言われたりして、本当に心配してくれる記者の人からも言われたりしたのですが、その基本姿勢は変えずにやって来ました。

【菊地】
 
ぶれてないという評価はありますよ。TPPに関してとか。

【津田】
 
はっきり一つの敵を作って、これに対して徹底した批判で、一つの対立構図を作るという、選挙の一つの戦術的なことかもしれませんが、この前の都知事選の小池さんもそういう構図だし、僕らの地元の大阪維新の橋下徹も、全部そういう選挙戦ですよね。敵を批判し倒して、それで票を取っていっている。

【舟山】
 だから、私は批判はするけど、同時に、そうじゃなくって、こうでしょと言うようにしたんです。規模拡大をめざすんじゃなくて、やっぱり小さな農家も生きられるような政策じゃなきゃおかしいと。それが農村を作っているんですよとか。アベノミクスで雇用が増えたと言うけれども、非正規ばかりじゃないか、必要なのは正規を増やすことじゃないですかとか。それをやらなければなにも変わらないんだということを、一応批判プラス自分なりの政策は言ってきたんです。

あと私、思うんですけれども、ちょっと生意気だけれど、無所属の野党統一候補というのは実は難しいと思うんですよ。なぜ私が当選したのかというとやはり、一定の基軸となる支持基盤もあったし、そして単なる市民運動で呼びかけるのではないものがあったから。

【津田】
 ぱっと出の統一候補じゃないという。


【舟山】
 
本当に恐縮だけれど、ぱっと出の市民派の統一候補は、国政選挙で勝つのは無理ですよ。仮に経歴が、たとえば弁護士出身だとかいっても、ちょっと厳しいです。

無所属統一はやはりそんなに甘くないなという気がする。私は民進党から出てくれと言われたけれど、民進党からは出ませんと断りました。だから選挙には出ませんと言い続けていたのだけれど、その結果、無所属でいいからというようなことでしたから。

  東と西の違いについて

【菅原】
 先週、日本中のTPPに反対する人たちが集まる会議がありました。その会議の報告で、東日本はアベノミクスの恩恵なんてほとんどないという状況なのだけれど、西日本はけっこうあるよという話が出てきました。実際に大きな自動車工場などは西日本に多くて。


【舟山】
 そうですね。熊本なんかはけっこうあって、あの地震で大変だった。


【菅原】
 だからアベノミクスの恩恵のないところだから勝ったんだと。アベノミクスの恩恵のあるところは、もっとどんどんアベノミクスで行け行けだと。自動車産業だけなのかどうか、そこはもっと調べないと分からないけれども。


【津田】
 
農業生産でいうと、やはり、震災以降、原発事故による放射能汚染の問題で、東京から北の農産物に対する不信感、不安感がすごく強くて、東京首都圏の流通業者が西のJAとか西の農業生産者から農産物を仕入れることが一挙に増えました。だから九州のJAはとても景気のいい話になっていた。値段もそうだし引き合いも多くて、どんどん九州から首都圏に農産物が流れていく。その分、東京から東の農業県で生産された農産物の行き場所がどんどん失われる、値段が下がっていくという状況でした。考えると、そういうこともバックボーンとしてはあったのかなというように思います。

【菅原】
 
そういうことも含めて3.11のインパクトが強く東日本にあった。次の年なんか、私らのノラの会の売上が激減した。その時に西日本の農産物は単価が3倍だったと言うものね、いつもの年の。

【舟山】
 そう。だから西日本では表面的には自動車工場が行ったりとか、何かの産業集積がちょっと進んだりとか、アベノミクスの成果があるように見えているところもあって、そこをことさら強調して訴えたことで、アベノミクスの恩恵はもうすこし頑張れば私にも来るかなという幻想を抱いた人は多かったかもしれないですね。というのは、過去を振り返ってみると、小泉構造改革って、要は、金持ちにはプラスだけれども貧乏人にはまったくマイナスしかなかったわけです。だけど小泉さんを信奉した人たちというのは、むしろその構造改革によって首を絞められる方々、非正規だったり派遣だったり、そういった人たちが、この改革で俺たちも浮かばれるかもしれないと言って、みんな支持した。そういう側面はある気がします。西日本ではまだそういう幻想にすがって、ここでアベノミクスの手を緩められたらまたマイナスになるかもしれない、なんて支持した人はいるかもしれない。

民進党の政策というのは自民党との違いが見えにくくなってしまっています。今度の代表選でもよく分かりませんね。原発政策だって分からない。2030年代までにゼロを目指すということは、自民党よりは原発をなくす方向がちょっと強いかなぐらいじゃないですか。だから対立軸がちょっと見えにくくなっているんですよね。だから政党に従順な候補者ほど今回の選挙はきちっと論点を提起できなかった気がする。

さっき言いましたが、青森だって北海道だって、そんなに農業従事者の絶対数とか、GDPに占める割合が高いわけでもないですから、農業政策やTPPを言ったからといって、じゃあ半数の人がそうだそうだなんてなるとも思えないけれど、政策理念の象徴みたいなところがあるような気がするんです。

【津田】
 それをはっきり主張し続けることが重要だということですね。


【菊地】
 農業は新自由主義からもっとも遠い職業かもしれないですね。


【舟山】
 
特に、女性のみなさんなんか、漠然と、「いいのかな、こんなに競争競争で。いけいけどんどんでいいのかな」というのはすごく感じていると思う。農業政策の個別のことを言われてもピンと来るわけではないにしても、なんとなくそうだよねということは全体的に思想として通じるというか。

【菊地(ママの会)】
 そうですね。子育てする環境として、競争で、どんどん勝ち組だけ、というのはすごい危機感を感じますね。


【舟山】
 
だから、農業政策を訴えるということは、そういうところにもつながっている。つながりの中で、直接農業に関係のない人も、なるほどな、なんて思うことがあるんじゃないですかね。TPPだって、本当に安いものがじゃんじゃん入ってきて、大丈夫?とか、本当に地道に暮らす私たち、本当に大丈夫?とか感じます。

【津田】そろそろ時間です。この前の参議院の選挙結果をめぐって、この先、自分たちが山形で、なんらかの政治活動であれ、いろんな運動であれ、進めていく上で、あとこれだけは言っておきたいという方がおられましたら。

【本木】
 
今、民進党の代表選とかで、今までの共闘をリセットという、三人ともそういう雰囲気でことが進んでいるという。このままいっちゃうと参議院選挙でこういう選挙の形が生まれたのに、また元の木阿弥になっちゃうのか、これがちょっともったいない。ここでつくった「戦争やんだ」の個人個人が戦争法反対を訴えて、それがだんだん大きくなった。結果として山形県の中でも野党共闘という方向に進む上で、かなり大きな役割を果たしたのかなと、私は思っています。その中ではいろんな問題が出て、舵取りは大変だったと思うけれども、ぶれなかった。これは大したもんだと私は思っているわけで、こういう組織を、たとえば山形県の中でも村山にも最上にも庄内にもという形で地道に作っていくというのが、この次の国政選挙でも大きな力になっていくだろうと、これは絶対間違いないと思う。政党にだけ任せておけば、今の民進党のようにどうなるか分からない。やはり主権者たる私たちがこの国の将来の形はこうあるべきだというものを示しながら進んでいくこと、私はここが一番大事だと思っています。

【舟山】
 私はやっぱり、今日来てくれた山本さんたちの「かあさんたち」も菊地さんたちの「ママの会」も、活動家じゃない人たちが動きを作ったということで、多岐にわたる人たちの力を感じた選挙だったと始めに言いましたが、とりわけ今回女性がすごく動いた感じがします。初めて選挙に関わったという女性が、いっぱいいました。ある人はお医者さんの奥さんで、恵まれていますが、政治なんかいっさい関わったことがなかったという人が、集会をやりたいと突然メールがきました。自分でTPPの問題点をまとめて配っているというんですよ。本当に、お母さん、奥さん、普通の女性たちがでてきた。それは見える形で「ママの会」が立ち上がったりとか、「かあさんたち」が立ち上がったりとかいうので、少しずつそういう動きにちょっと触発されて、なにか考えてみようかという、その女性の動きはすごく大きかったと思いますし、あれが悪いこれが悪いという個別具体的な問題もいっぱいあるけれども、なんとなくこの社会に流れているこの不穏な空気を、なんかこう直感的に感じている、なんかやばいなということで動いている、そういう動きというのはあったような気がします。


【津田】
 
そういう可能性を、じゃあ次にどうひきつぐのかというところが大切な話なんですよね。選挙という枠組み、政党という枠組みだけでこれからを構想しても、それだけではなかなか難しいことがあると。やはりもうちょっと生活している地域、現場の中で、そういう枠組みを超えるような、今までの政治に関わりきれないような、普通の人たちが積極的にそこに関わってくるような、参加してくるような構造を、日常的な活動の中でどうつくるかということです。それが大事だということを確認して、今日お集まりいただいた会を終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。


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