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ネパール・タライ平原の村から(60)

自然と向き合う その1 -棲み分け-

 「あそこにいるヒト、誰よ?」。田植えが済んだ数日後、補植中に妻が隣の田の畔を指さし言います。見てみると独特のクチバシで、立派なコウノトリ(コハゲコウという品種)が微動だにせず、悠然と立ち尽くしておりました。降雨量が不安定で、水田が干潟状態になる、亜熱帯・モンスーン期の始まり。タニシやミミズを採餌に、コウノトリやサギといった野鳥を見かけることがあります。一方、畑地では、トウモロコシが稔る季節です。オウムの群れが屋敷林の樹上に留まっていたり、飛行するのを見かけます。こちらは、トタン板をドンドン叩き響かせ、声を張り上げては、オウムを追い払います。僕が暮らすナワルパラシ郡は、自然保護区のチトワン国立公園と隣合わせであることから、野鳥の種類は豊富です。大型の野生動物も豊富で、一角サイやベンガルトラが国立公園外へ、時おり“侵入”することもあります。

「ヘビ退治」から農業を考えた

 つい先日の出来事では、家の犬が壁に向かって吠え続けるので、見に行くと1mくらいのヘビが犬とにらみ合っておりました。ドキドキしながら、鍬の刃の取れた竹棒で頭を叩き続けました(正確には、頭のやや後ろを打たないといけない)。死骸を裏返すと、皮が黄色いのが特徴のダミラ(和名?)という無毒性のヘビでした。コブラやインドニシキヘビも生息し、ヤギ・ニワトリに限らず、人間にも被害が及ぶことがあります。農家の多くは、米やトウモロコシ、穀物が貯蔵されてあるので、ネズミによる食害を防ぐため、猫を飼います。結果として、ネズミを恰好のエサとするヘビを、未然に防ぐ策の1つにもなります。

編み物をしながら雀がこないように苗代を見張る
 また日中、放し飼いの鴨や鶏(特にヒヨコ)を襲うジャッカル・スカンク、鳥類ではカラス・ワシもいます。野生動物が侵入すると、特にヒヨコを引き連れた母鶏が警戒した声を発します。そうするとヒヨコは、あらゆる隙間にサッと隠れ、ヤギも異変に気付いて鳴きます。真っ先に犬(放し飼い)も吠え、追跡させて追い払います。縄張りの侵入者の中でも、同じ犬科のジャッカルに対しては、厳しく闘います。去年は犬をしばらく繋いでおくことで、ジャッカルの侵入が無くなりました。犬は各戸さまざまで、微妙な活躍ぶりに思える時もあります。ですが、飼い犬は家畜を含む住人の縄張り(テリトリー)を守り、野良犬含め、人のそばにいる犬社会の縄張りを守ることで、未然にサル・イノシシの侵入等も防がれているようにも思えます。

 自然(野生動物)と向き合う農業とは、棲み分けとは?これからネパール農民による、在来の獣害対策やその変容をテーマに、身体に浸み込んだ体験や聞き書きを基に、考えてみたいと思います。
 (藤井牧人)

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