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市民環境研究所から

東北や沖縄は安倍の虚言を見抜いていた

 宵山が2日後だというのに、本格的な梅雨はまだ明けず、日当りの悪い庭に植えたキュウリに勢いがない。

 50年以上も遡るが、公害問題に取り組む前は植物の病原になるカビの研究をしていた。そのカビの生育最適温度は24度で、それ以上になると異常な振る舞いをし出すため、実験が成り立たない。当時、クーラーなどはなく、研究室に冷蔵庫が1台あるだけだった。夏場になんとか実験をしたいと思い、木の箱を作り、その上に穴をあけたホースを固定して、水冷式恒温装置を作った。水を流してみると結構温度が下がり、24度前後を保てたが、梅雨が明け祇園祭になると、水道水の温度も上昇して、期待の温度にはならなくなった。それでも続けていると大文字の送り火が過ぎる頃には何とか実験できる温度に下がってきた。京の真夏は祇園祭から始まり、送り火までの間なのだと分かり、祭りとはよく考えたものだと、一人で納得したものである。

 今年の夏はうっとうしい。7月10日に終わった参議院選挙の結果で、自民とこれにしっぽを振り振り付いて行く公明や右翼小政党などで憲法改悪提案ができるという。我が家の前に幅10mほどの十字路があり、向かいの家の塀には「地方こそ成長の主役」とか「地方創世の時代」とかの文字と安倍のうっとうしい顔のポスターが数枚貼られている。まさにうっとうしいながめである。今回の選挙では「野党共闘」市民運動を支持したので、我が家のコンクリート壁には志位と岡田の顔入りポスター、全国比例区の候補の写真と「アベ政治を許さない」のポスターを対抗して貼ることにした。小さい交差点が、結構にぎやかになった。そして選挙結果は、改憲勢力が3分の2を占めたとマスコミは言っている。

 しかし、どんな改悪をするのかについては、それぞれの主張は違うため、一気に事が進むのかどうか。それに抗する我々市民が憲法改悪阻止運動を継続できるのかどうかによって、事態はまだまだ変わりうる。諦めるのはもっともっと先である、と一人で悶々としていたが、選挙結果をゆっくり見ていると、東北6選挙区の改選6議席(各県1)の与野党対決で、東日本大震災の大きな被害を受けた岩手、宮城、福島の3県で自民に惨敗を味合わせていた。東北の全選挙区で統一候補を擁立した民進、共産、社民、生活の野党4党は、改選前勢力を2議席上回る、5議席を獲得した。

 今回、関西ではほとんど争点にならないどころか、この単語さえ聞こえてこなかったTPP交渉問題がある。TPP交渉は昨年10月に大筋合意し、政府は通常国会で承認案とTPP関連法案の成立を目指していたが、野党が交渉経過の公開を求めて抵抗し、甘利TPP担当相の政治資金問題もあって、与党は参院選への影響を考慮し、承認を先送りした。

 自民党を支持するJAグループの政治団体、全国農業者農政運動組織連盟(農政連)は、全国10府県で参院選の自主投票を決定していた。安倍は何度も青森や福島に入ったという。そして、何がなんだか分からないアベノミクスや、先に引用した「地方こそ…」と地方をいかにも重視したような虚言を並べたのだろうが、東北の人々だけでなく、北海道、新潟や長野の人々は冷静に安倍の虚言を見抜いていた。また、沖縄での現職大臣を落選させた野党の勝利が、人々にこれからも運動を続けるこころを保たせてくれた。東北や沖縄の激しい闘いが、地方こそ収奪対象と思っている現政権の本質を見破り、「アベ政治を許さない」運動を継続せよと教えてくれている。

(市民環境研究所代表 石田紀郎)


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