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ネパール・タライ平原の村から(58)

バイオガス社を訪問

 昨年9月~3月まで、ガス・石油燃料不足が続いたネパール。一時、電磁調理器が話題になったものの、乾季の停電時間の延長(1日14時間)と共に、流行らなくなりました。ガスシリンダーが入手困難な状況が続き、市民生活に影響を与えました。こうした状況に振り回されなかったのが、元々薪を利用する農村や家庭用バイオガスを利用する農家です。わが家も2年前に。隣の妻の実家は17年前に家庭用バイオガスを設置したので、結果的にガスが尽きる心配がありませんでした。ネパールには現在、1995年以降の記録によると34万3729基のバイオガスプラント(発酵槽)があります。…今回は、地元の町にあるトゥリベニ・バイオガス社を訪問。地域の家庭用バイオガスを案内してもらいました。

土を掘って完成したバイオガス発酵槽
 バイオガスの普及事業を行なう事務所と併設して、トゥリベニ・オルタナティブエネルギー事業社の事務所があります。こちらの方は、乾季半日以上が停電のネパールにおいて、近年普及している、家庭用太陽光パネルの販売事業を行なっています。

 ネパールで家庭用バイオガスプラントの普及事業が本格化したのは、25年程前からで、トゥリベニ社は20年前から事業を開始。ネパールには、約100社のバイオガス事業社があるとのことです。地元地域では、農村含め、都市的な生活スタイルが拡がる中、シリンダーガスの利用や牛を飼わない家庭も増えています。そのため、一時と比べてバイオガス事業は減っているとのこと。最近は、極西部ネパールでの普及事業に力を入れているとのことです。ただし、昨年のガス不足の影響で、バイオガスはあるが、都市化で利用しなくなっていた家庭から、修理の依頼を受けたり、バイオガスを再評価する声も聞かれる様子でした。

 3~4.5時間ガスが使える、5~7人家族向けの一般的な家庭用バイオガスプラントの容積は、4m3と6m3。それぞれ1日1~2頭分の牛糞、約30kg~45kgと同量の水が必要になります。また、大抵のバイオガスがトイレと併設され、人糞も発酵槽へ流れる仕組みとなってあります。ガスが抽出され、発酵分解して排出される液肥は、肥料効果が高く、ワラや有機物を混ぜて堆肥として利用されます。問題点として、ガスの発生量(発酵スピード)が寒季に落ちること、1日に使えるガス量に限度があり、長時間強火で調理できないことを指摘する声もあります。が、農家は薪も併用するので、そのことが不便とは実際に使っていて、思うことはありません。また、セメントや資材の輸送コストの問題等から、平地と比べて山岳部では、なかなか普及していないとのことです。

解説書表紙より
 費用は約5万ルピー(5万5千円)。プラント設置の土を掘る作業は、主に家族労働で行ないます。また、国の補助金、世帯により、NGOの支援金、自然保護区周辺であれば、薪利用による、森林資源の浪費を抑えられることから、バッファゾーン(衝緩地帯)事務所の補助金も得られます。最近は小規模農家に限らず、学校、寺院、病院のトイレ、大規模な畜舎にバイオガスを設置したところもあるとのことでした。

 今回は、僕の家のバイオガス設置をしていただいたレスンさんに、地域のバイオガスの説明・案内をしていただきました。その彼から「日本のガスは、どういう仕組みですか?」と逆に問われて、いつでも栓を捻ればガスがあることしか想像できない、答えられない自分を実感させられた次第です。

 国が言うところの自給といった言葉には、単に食糧自給の統計を示すことが多いのですが、ここでの暮らしの自給とは、火燃料(ガス・薪)を含め、生活そのものを自前、地元の資源で生産することを意味すると思うのです。

 (藤井牧人)

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