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南米コロンビアにおける協同組合運動

ミゲル・ファハルドさんとの交流とセミナーの報告

 本誌1月号に『ラテンアメリカ連帯経済の研究に学ぶ』と題して、ブラジルとメキシコの研究者による講演会について報告しましたが、その主催者であるラテンアメリカ連帯経済研究会(代表・幡谷則子上智大学教授)の招聘で、このたびコロンビアの協同組合運動の実践、研究者であるミゲル・ファハルドさんが来日され、5月19、20日、よつ葉各社、グループを訪問されました。各所での見学や交流の他、19日の夜にはミゲルさんからコロンビアの政治社会状況と、その中での協同組合運動の実践についてうかがうセミナーを開催しました。以下、報告します。 (事務局)


ミゲルさん(中央)と研究会のみなさん
 今回来訪されたミゲル・ファハルドさんは、現在の肩書きはサンヒル大学教授および連帯経済研究所所長。コロンビア北東部のサンタンデール県において多様な協同組合の組織活動を行い、また地域における教育・研究活動を続けてこられた。実は、サンヒル大学もまた、地域における高等教育機関の必要性から、協同組合運動を基盤にして設立された大学だということだ。

 ミゲルさんとともに来訪されたラテンアメリカ連帯経済研究会のメンバーは、代表の幡谷則子さん(上智大学)と、小池洋一さん(立命館大学)、山本純一さん(慶應義塾大学)の三氏。幡谷さんはラテンアメリカ、特にコロンビアの社会運動、地域研究がご専門、小池さんはブラジルを中心に開発研究、地域研究がご専門で、特に労働者協同組合について研究され、山本さんはメキシコの政治経済がご専門で、研究だけではなくコーヒーのフェアトレードを実践もされている。幡谷さんには、セミナーも含めて2日間にわたって通訳の労を執っていただいた。

 訪問の初日に、よつ葉ビル(茨木市)において、関西よつ葉連絡会とひこばえ、関西仕事づくりセンターについての概要をそれぞれ解説した。関西よつ葉連絡会事務局から、連絡会の組織構成について説明した後、よつ葉の特徴としての地場野菜の取り組みと、肉、ハム、総菜など農場・工場での生産の取り組みなどを紹介し、地域で、生産から流通、消費までの道筋をみんなで関わっていくことを大切に考えている、との思いを伝えた。また、地域における政治的、社会的な活動の歴史が背景にあることも指摘された。商品企画やカタログ制作を行っているひこばえからは、問屋を通じてではなく、できるだけ生産者と直接の関係をつくること、カタログも外注ではなく自分たちで制作し、生産者のことを丁寧に伝え、関係をつくっていくことを重視しているということが説明された。

 関西仕事づくりセンターは、部門は異なるけれども、よつ葉連絡会と深い関係にあるグループであり、ミゲルさんの関心領域に近い活動をしているということで、交流に参加していただいた。仕事づくりセンターは、労働者協同組合に似た組織だけれども、メンバーシップがもう少し緩やかで、いろいろな状況の人とともに働ける仕事をつくることを考えて活動をしている。たとえば、不当解雇の争議中で仕事に困っている人、ホームレス状態の人、高齢者、障がい者、もちろん一般の失業者、あるいはひきこもり、発達障がいなど就労困難な若い人、など。仕事の内容は、ちらし配り、庭木の剪定、家庭の便利屋的な仕事、デイサービスの送迎、ホームページの作成などがある。仕事づくりの活動の背景として、非正規雇用が非常に多くなっているという問題や社会保障、失業給付、生活保護が脆弱であるという社会状況があることが説明された。また、原発での被曝労働、除染労働に野宿労働者が送りこまれ、法規制が及ばない現場で、ピンハネ、労災もみ消し、強制労働などがまかり通っている労働状況について指摘し、微力ではあるがこういった状況に抗って活動を続けていることが伝えられた。

 その後、北大阪商工協同組合(豊中市)に移動し、交流を行った。よつ葉グループ各社も含む約70社でつくっている異業種の中小零細企業の協同組合であり、お互いがお互いの顧客になることで支えあっているということ。各社の会計・経理処理などを請け負い、また法律的、行政的な対応や、教育・研修、福利・更生に関する活動、具体的には各種講演会、研修旅行、運動会の開催、ニュースの発行、共済会の運営など、一社ではできないさまざまな活動を行っていることなどの説明を受け、意見交換をした。企業(株式会社)による協同組合というのは、コロンビアでは認められていないという事情の違いがあることもあきらかになった。

 次に、北大阪商工協同組合の活動を基盤として生まれた高齢者福祉の上野デイハウスしもつきを訪れ、介護施設の実際について見学し、さらに、豊中、池田、箕面地域におけるよつ葉の配送を担当している産地直送センターを訪問し、会員への配送に関わる実際の仕事の手順など、具体的な説明を受けた。

 2日目は能勢農場(豊能郡能勢町)や、農産品の企画・流通を担うよつば農産、各産直センターや店舗への仕分け出荷を担う別院物流センター、生産工場として、総菜の大北食品、豆腐の別院食品(以上、亀岡市東別院町)を見学した。

 特に、能勢農場では、放牧の現場、移動動物園や哺育現場、肥育現場の見学のあと、地域における畜産と農業、酪農との連携や放牧の試みについて詳しい説明を受けた。地域循環のための適正な規模の問題、将来展望としての自給飼料やバイオ燃料、発電。地域における農業のあり方。また能勢農場を運営していく上での考え方や、それをどのように次の世代に受け継いでいくのか、など。

 最後にミゲルさんの方から、能勢農場訪問の感想をいただいた。これは農場だけではなく、2日間にわたるよつ葉グループ各所との交流の感想でもあると思うので、以下に紹介したい。

 「とても素晴らしい活動をされていて、交流の中でたくさん学ぶことがありました。特に感心した点が4つあります。そのひとつは、これは私の持論でもありますが、経済というのは生命や生活のために資するものであって、我々の生命や生活が経済のためにあるのではないということです。そのことを実践しているのが素晴らしい。2つめは能勢という地域における畜産と農業、酪農との連携を実現しているということです。地域(テリトリー)における人間社会や自然も含めた関係を構築して、信頼関係や社会的紐帯を強めているということ。3つ目は、生産スケールをみだりに拡大しないで調整しているという点です。それはつまり、自然との共生を含めて、人間的なスケールで質的な向上を目指すということであり、その質とはどういうものであるかを教えられました。最後に、昔のやり方を現代の状況にいかに合わせていくかということです。過去に戻って考えるということも変革につながるひとつの道なのだということを学びました」(要旨)。

 このように評価していただいたことは、素直に喜びたいと思うけれども、実はそれ以上に我々の方が学ばせていただいたと思う。以下に、19日の夜に行われたコロンビアの協同組合運動に関するセミナーについて、ミゲルさんの講演と質疑応答を掲載する。



*      *      *

【司会】

 それでは始めたいと思います。南米のコロンビアから来られましたミゲル・ファハルドさんです。コロンビアとはどんな国なのか、どんな活動、闘いをされてきているのか、ミゲルさんの報告を聞いて、今後の私たち、関西よつ葉連絡会や北大阪商工協同組合、あるいは地域・アソシエーション研究所の活動に活かせるようなところを学びたいと思っています。

 今回、ミゲルさんを招聘されたラテンアメリカ連帯経済研究会の幡谷さんに通訳をしていただきながら、ファハルドさんに一時間ぐらい報告をしていただいて、その後、質疑応答ということで、進めたいと思います。

【ミゲル】

ミゲル・ファハルドさん
 みなさん、こんにちは。初めまして。ミゲル・ファハルドです。まず最初に、皆さんお忙しい中、私のためにお集まりいただきまして、ありがとうございます。特に、この場を設けていただきました関西よつ葉連絡会、地域・アソシエーション研究所の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。

 今日、関西よつ葉連絡会や北大阪商工協同組合、関西仕事づくりセンターについてのお話を伺いました。今朝、司会の津田さんとお話をしたのですが、人類が必要としている変革をめざして活動しているうちにこの年齢になってしまったのだ、ということです。1964年という年は、コロンビアには社会変革への熱意(entusiasumo)が高まった年でした。それはキューバ革命の成功と第二バチカン公会議の開催の影響もあったからです。私が若干知り得たよつ葉の活動から、私たちがサンヒルでやっているのと同じような活動をしていると思いました。これから私がお話しするのはコロンビアのサンヒルという地域を中心に、私たちがやってきた活動ですが、皆さんの活動ととても共通した部分があります。それは、目先の問題を解決するためだけに活動しているのではなく、中長期的に社会を変えるために活動をしているということです。そして最終的には全ての人々にとって尊厳ある生活が可能となる社会を作っていくことをめざしているのです。その点で皆さんの活動にとても共感するところがありました。

暴力・経済開発・麻薬・社会的不平等

コロンビアのコーヒー農園で働く労働者
 これから、報告の内容に入っていきますが、最初に、コロンンビアとはどんな国で、どんな問題を抱えているかということを、ごく簡単にお話しします。それから二番目にコロンビアにおける協同組合主義、運動がどういうものかということ、三番目にサンタンデールの南部地域(プロビンシア)における連帯的社会の構築のための提言(と戦略)(propuestas)をお話しします。そして最後に具体的に私たちがこれまでサンタンデール県という地方で行ってきた活動内容の例(データ)を中心にお話ししたいと思います。

 まず、コロンビアはどこにあるかというと、南米大陸の北端に位置します。ブラジル、ベネズエラ、エクアドル、ペルー、パナマとまわりを接している国で、北はカリブ海、大西洋と面し、西側は太平洋と面しています。

 簡単に申し上げて、コロンビアの領土面積は日本の3倍ぐらい、人口は3分の1、およそ4800万人ぐらいです。大半が主たる人種グループ間の混血で、非常に多様な人びと、多文化、多民族な人びとで構成されています。白人のヨーロッパ系の人もいれば、それらの混血の人たちがいます。そのほかに、人口の数%なのですが、150万人ぐらいの先住民の人たち、それと人口の1割ぐらいになりますが、アフリカから植民地時代に奴隷として連れてこられた人たちの末裔であるアフリカ系の人たちがいます。

 コロンビアの良いところをお話ししたいと思います。まず、今日これまで60年以上も長引いている「戦争」(国内紛争)をおしまいにするための平和プロセスを構築しようとしている、という点を強調したいと思います。自然環境については、自然の豊かさという点を強調したいと思います。生物多様性が非常に豊かな国であるということです。特に南東部のアマゾンの熱帯雨林や南北に縦走するアンデス山脈など。水資源、森林資源にもすぐれています。また、石炭、エメラルド、石油、金などの資源が豊富です。農業ではコーヒーが主要な作物ですが、他に、サトウキビ、米、バナナ、タバコ、綿花などが栽培されています。

 次にコロンビアが現在、直面している問題について強調したいと思います。まず1番の課題というのは、やはり国内紛争、暴力の問題です。ここ50~60年間ぐらい、国内紛争の問題を抱えていて、今は和平交渉に入っていますが、この間、武力紛争によって、約30万人が命を落としています。

 2つめの問題というのは、自然環境を破壊する経済開発です。コロンビアの国家政策としての経済政策が、特に資源開発を重視していて、企業に開発権のライセンスを与え、環境破壊をするような開発を中心に推し進められているという点です。違法な鉱業開発も行われて、森林に対してもダメージを与えるばかりで、現状復帰の努力はしていないのです。

 それから3つ目の課題ですが、これはよく知られていることですが、麻薬の原料となるコカとかケシ、大麻などの違法作物栽培が拡大してきたことです。それが麻薬密売組織の関係やゲリラによる暴力にもつながっています。麻薬の原料は、実は農村で、農民たちが作っている。そういった社会問題があります。麻薬密売問題はコロンビアにおいて暴力を生む新たな要素となっているのです。

 以上の結果として4番目の問題ですが、貧困と社会における不平等です。大都市の周辺部には違法住宅、いわゆるスラムが拡がっています。全国民の約20%が貧困層であると言われています。非常に少数の裕福な人がいる一方で、極めて貧しい人びとがいるという不平等な構造があります。

コロンビアにおける協同組合運動

 では第二に、コロンビアにおける協同組合運動についてお話します。その第一点としてコロンビアには、法制度上「連帯経済部門」に一連の(連帯経済)事業が含まれるようになったという点です。連帯経済部門に含まれる事業には具体的な基準があります。相互扶助に立脚した経済を行うこと、経済活動に参加する人たちの平等な関係(民主的運営)に基づくこと、人々の尊厳をめざす経済であり、共通の財産のための経済活動であるという点です。連帯経済とは、資本主義が行うやり方とは異なる方法による経済なのです。

 具体的にどういう形態の組織を指すのかというと、まず筆頭にあげられるのが協同組合、それに互助組織、それからよくあるのが従業員基金。その他にはコミュニティー事業やコミュニティー組織と呼ばれるものが広く連帯経済部門として捉えられています。連帯経済に関与している人口は約1000万人ですが、その半分にあたる人たちが協同組合(システム)に参加しています。協同組合部門の2011年のデータで、加盟者数が約500万人となっています。

 行政区分としては、コロンビアは32の県に分かれていまが、その32県の全部に協同組合がつくられています。県はさらに市に分かれますが、市は全国で1100ぐらいあり、そのうちの640市につくられているということになります。すなわち、ほぼ60%をカバーしていることになります。

 協同組合の中にもいろいろな分野がありますが、まず見られるのが貯蓄・貸付組合、農業生産者組合、健康や医療の分野、それから消費者組合、トラックやバスなどの運輸部門の組合、そして労働者協同組合もあります。長い分野別リストが存在するのです。コロンビアで協同組合運動を推進してきた主体(行為者)というのは三つあります。ひとつはカトリック教会、もうひとつは国家、そして三つ目が労働組合運動です。

 32県のなかで、人口1000人あたりにどれだけ加盟者がいるかという統計で見ますと、私が活動しているサンタンデール県というのは、非常に協同組合運動が盛んな地域で、1000人あたりの加盟者数が433人。全国一の水準になります。

競争でも武力革命でもない5つの戦略

コロンビア地図
 これからサンタンデール県のことを中心にお話ししますが、他の地域でも同じような様々な形態の協同組合が生まれてきました。

 サンタンデール県はコロンビアの北東部に位置し、63市によって構成されています。サンタンデール県はさらに6つの地域に分かれていて、私が主に活動しているのは南部の3地域になります。この地域に約45万人が住んでいます。住民たちのほとんどが小規模農民です。なにを作っているかというと、コーヒーやサトウキビ、果実、タバコなどです。他に若干の牧畜もあります。農業以外に、サービス産業として少しだけ観光業。あとは小規模の商業(小商店)。それぐらいの経済状況です。

 1960年代の初頭にこの地域、サンタンデール県のカトリック教会のある神父が、この社会をなんとか変えていかなければいけないという意識をもって活動を始めました。1960年代にはラテンアメリカ全体で貧困の問題が深刻になり、さまざまな形の社会的な不正義があり、なんとかしなければという認識が高まったのです。

 その当時、社会をどうやって変えていこうかというときに、二つの流れがありました。そのひとつというのは基本的には米国から、つまりCEPAL(国連ラテンアメリカカリブ経済委員会)主導の資本主義による経済発展、つまり競争という考えを中心にした形で社会を変えていけばいいという考えです。もうひとつは、1960年代にコロンビアに限らず、ラテンアメリカ全体で起こった流れですが、社会を変えていくのに武力を伴う革命を起こす、武器を持って闘うということです。コロンビアでもさまざまな左翼ゲリラの組織化が進みました。今、和平交渉中ですが、コロンビア革命軍とか、民族解放軍というのがこの時に形成されました。カトリック教会の中でも、みなさんご存知かもしれませんが、「解放の神学」の考えに触発されて、神父さんたちがゲリラを支持するというような活動に走った時期もありました。

 一方で、私たちも含めて、そういう武力革命によらないもうひとつの変革のオルタナティブがあるのではないかと考えた社会組織や社会運動家もいました。これが暴力を伴わずに連帯に基づいて社会を構築していくという考えであり、民主主義的な思想で社会を構築していこう、しかしあくまでも非暴力で、という考えです。地域の状況に対して意識を持って現状認識をし、教育や人々の組織を通じて、社会的な人的関係を大事にして社会を変えていこうという第三の道です。そのために地域(テリトリー)に立脚した変革の方法として、極めて明確な5つの戦略を具体的に考えました。

 まず第1に、地域(テリトリー)、この場合は具体的にはサンタンデール県の南部を考えているのですが、これを発展の単位として考えよう。その現実を認識して、それをひとつの単位として社会的建設をしようという戦略です。

 第2の戦略というのはさまざまな社会の組織化を推進するということです。しかも組織化する中で、関わっている人間の自主性、自律性というものを大切にしようという考え。また、組織化において多様な組織があって良い、単に経済のための組織だけではなく、他に文化や環境などに関するようなテーマを中心とした社会組織を作っていくことも大切なことです。

 第3の戦略は民衆教育です。民衆教育を通じて地域のリーダーとしての人材を育成するという戦略です。各コミュニティーには必ずリーダーたる人物が存在するわけで、その人たちを見つけ出して、社会を変えていくためのリーダーとして育てるシステムの開発をめざしました。私たちが目指したのは、単に個としての優れたリーダーではなく、あくまでもコミュニティーのためのリーダーを育てることです。その人のリーダーシップによって社会を変えていく、コミュニティーのために働く、民主的な考え方をもち、コミュニティーが組織化していくのを助けることができる人材を育てるという考えの下にとった戦略です。

 第4の戦略はコミュニケーションです。これは社会的コンセンサスをつくり、自分たちのモチベーションを高めるためのものです。それには、なにが実際に起こっているかという情報を、正しくみんなが共有することが重要であるということです。そのためにコミュニケーションを推進するという戦略をとりました。

 最後の、5番目の戦略というのは、同盟関係をつくっていくということです。自分たちだけでは社会的変革を起こすことはできません。この戦略的同盟というのは、まずはローカルなところで、自分達と同じ目標をもつようなローカルな他の組織と手を携えていくこと、その次に地域を越えて、全国でネットワークをつくっていくこと、そしてさらには国際的にも同じような意志を持ち、尊重しあえる仲間たちと連携していくことです。

ネットワークの能力を高めていく

数十年も続いた内戦と社会的格差は、
コロンビアの子どもたちに
大きな影響を与えている。
ユニセフによれば、
5歳未満の子どもの約12%が
栄養不足による生育不良の状態にある
 この40年以上の活動の結果、いくつか際立つ成果をあげてきました。第一に、地域の協同組合と連帯の組織のネットワークを構築しました。私が活動してきた地域、それはさらに53の市に分かれているのですが、67の協同組合が設立されました。その中で分野として一番大きいのが貯蓄・貸付部門です(67のうち17)。その他に生産者協同組合や消費者組合も発展しました。先ほど、地域の経済活動についてお話ししましたが、コーヒーやさとうきび、タバコ、それからサイダル麻(ジュート)や果樹栽培の生産者(同業者)組合などもできてきました。それぞれの分野で独自の組織をつくり、自分たちの問題を解決してきたのです。

 67の協同組合のなかで、ネットワークをつくってきたということが大切で、そのネットワークはそれぞれの協同組合運動を推進するというだけではなく、市民の行政監視(オンブズマン)のネットワークも構築したことが大切なのです。環境問題も含め公共政策に対して干渉する(=アドボカシー活動を行う)あるいは政策提言をしていくためのネットワークでもあります。つまり、市民オンブズマンとしてのネットワークの能力を高めていくということが重要な活動のひとつとなっています。

 もうひとつ重要なのは協同組合によって教育機関をつくってきたという点です。まずは、特に農村部の若者たちの中等教育を強化するという目的で、中・高校をつくっていったわけです(2校)が、その他にコムルデッサ(Coomuldesa)という協同組合が作った基金が創設した学校や、さらに今私が働いているサンヒル大学というものもつくりました。つまり、高等教育機関も協同組合がつくったわけです。中等教育や、技術訓練の点で農村部の若者に対する教育を強化するだけではなく、育った若者が農村を離れてしまわないように、地域で高等教育機関をつくっていく必要があると考えたのです。現在、これらの教育機関で合わせて、おおよそ1万人ぐらいの若者が勉強しています。

 特に地域を中心として社会を変えていく、あるいは生活を変えていくために様々な分野の教育を行わなければならないと考えています。そのために必要な教育部門の教育内容というのは4つあります。1つはもちろん、生産のための技術的な能力を高める分野、2つめは経営能力、つまりどちらも生産、経営に関する分野。しかしそれだけではなくて、3つめに政治についての部門も大事ですし、さらに4つめの分野として教育者を養成するための教育(学)自体の部門も必要です。そういった認識からサンヒル大学では4つの分野での学部というものをつくってきました。そうして、その地域(テリトリー)で開発を推進していくための若者を育てる必要がありました。私たちの地域は、周縁的(マージナル)ではありますが、大都市よりもより良い生活(生活環境)があるのです。

 もうひとつ強調したいのは、先ほど、変革のための戦略として取り上げましたが、地域社会をベースとした参加型のコミュニケーションの活動です。実際、地域には34のラジオ放送と8つのテレビのコミュニティ・プログラムがあります。そこで流しているニュースは地域での活動や地域で起こっていることで、地域に住む人々が自らの声で語り、情報を共有することが大切なのです。特に若者層に、地域とかけ離れた資本主義的な消費行動を中心とした思想を喧伝するマスメディアのプロパガンダが浸透しないように、独自のコミュニケーション・プログラムをつくっています。

 最後に、連携・同盟(alianzas)という点では、それぞれの部門でネットワークを強めていくことが必要です。たとえば教育部門であれば、サンヒル大学がリーダーシップをとって、教育機関の中でのネットワークをつくる。コープセントラル(Coopcentral)がすべての協同組合をまとめていく。それからレッド(=ネットワークのこと)・サンデル(RESANDER)という組織がコミュニケーションのプログラムに関わっている組織を束ねていく。最後にアソシエーションという部門では、エル・コムンという組織が、すべてではありませんが大半のさまざまな民衆経済部門での組織のネットワークを推進している。そういったネットワーキングが必要だと考えられます。

 さらにこのプロセスを推進するためには、地域におけるネットワークを全国レベルのネットワークにつなげていくことが大切であると考え、これを構築してきました。3つの例をお話しします。1つはレッド・プロデパス(Redprodepaz)といいます。これは平和推進のためのネットワークですが、そのうちの一つはサンヒルに拠点を作りましたが、同様の地域別ネットワークが各地に23あり、これが全国ネットワークを構成しています。もうひとつは協同組合銀行のネットワークで、これも全国ネットワークがあり、われわれの地域からはコープセントラルが参加しています。そして昨年、もうひとつ、オルタナティブなコミュニケーション事業のネットワークを作りましたが、この分野でも、われわれの地域にあるネットワークがその他の地域にあるネットワークと連携しています。

 このように私たちは努力を重ねてきましたが、それでもまだまだ未解決の問題、課題がたくさんあります。技術的な問題、貧困撲滅、健康医療部門での多くの課題などが山積しています。

人々の行動や意識にも変化が

 最後に、いくつか具体的な事例を紹介します(写真略)。

 これはエコフィブラ(EcoFibra)という生産者協同組合事業で、サイザル麻(ジュート)を使った生産組合の加工現場です。ひとつバッグのサンプルを持ってきました。いろいろなデザインを開発してつくるようになりました。

 これはコープセントラル。バンク・オブ・コーポラティブ(協同組合銀行)と記されていますが、連帯部門に属する協同組合銀行であり、加盟者や利用者が属する連帯組織の持続性と安定性を求めて金融サービスを行っています。

 これはチャララ(Charalá)という行政市(ムニシピオ)のひとつなのですが、古くからあってその技術がもう途絶えてしまったような綿織物業を復興させようという企画です。スペイン人によって征服、植民地化される前に、先住民の人たちが行っていた綿織物です。昔の機織りのような機械なのですが、一度喪失してしまったものを、ある歴史家の先生が発掘して、それを元に女性の生産者組合が復活させたものです。

 これが貯蓄・貸付協同組合(コムルデサCoomuldesa)です。12万人以上の加盟者がいて、ここが中心となって、技術高校と先ほど紹介した学校をつくりました。

 これは私が今勤めているサンヒル大学です。活動分野は研究活動の外に、専門家の育成、開発のための共同作業を行っています。

 いくつか事例を見ていただきました。地域では少しずつ成果が見られていて、人々の行動や意識も変わってきています。しかし、社会変化はたやすいことではありません。まだまだ長期的な辛抱強い努力を積み重ねていかなくてはなりません。コロンビア全体のシステムをひっくり返すところまではまだとうてい行っていませんが、大切なのはこうした努力を積み重ねていくことだと思います。

 今日は貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。

【質問】

 第3の戦略の民衆教育のことについてお聞きします。地域の中でリーダーをつくっていくときに、権威主義的でボス的なリーダーシップに対抗する、民主的で対等な関係をということだったのですが、社会変革をめざす運動の中での対等な関係や民主的な運営というのは大事なテーマだと思いますので、そのことについてお伺いします。どういうプログラムをつくられたのかということ。たとえばリーダーの人たちというのは、定期的に代わっていくとか、任期をつくるとか、そういうボスにならないための仕組みみたいなものはなにかありますか。

【ミゲル】

 最初のコース、そしてそれを40年間続けてきたコースとしまして、「社会的政治的なリーダーシップ・コース」というタイトルをつけたコースを提供しています。そこで目指しているリーダー養成は、一人の突出したリーダーをつくるのではなくて、民主的で参加的なビジョンをもったリーダーをつくるということ、つまりたくさんのリーダーを育てていくということが重要です。リーダーはその他の人々の参加を推進する人でなければなりません。そしてなにか活動をコーディネートする場合、ひとりでするのではなく、輪番制にするということ。そのためには複数のリーダーがいないとできないわけですから、そういう考えの下にコースを提供しました。

 また、リーダーシップの質をより良くしていくために、小中学校で、連帯の実践を推進していくグループ:「連帯的ファシリテーター」(連帯の推進グループ)というものをつくりました。そのグループ活動の中で、実際に相互の助け合いを実践し、どのように民主的に生活実践をすることができるかを経験し、それをみんなに伝えていくというような学習を行っています。というのも、ボス的リーダーというのも存在しがちですから。

 具体的には、こうした生徒の組織は、コミュニティーとともに活動するキャンペーンをやりました。また、たとえば人権、協同組合、環境問題、発展に関するコース、連帯経済に関するコースもありましたが、それぞれのコースの中に、民主的リーダー養成コースを作りました。

 また、これは私たちの教育機関に限ったことではありませんが、すべての民衆組織の中に、リーダーたちの委員会(幹部委員会)があるのと同時に必ず、全体集会というものを設けています。そこにみんなが参加して能力を高めていく。これがひとつの参加を促す教育なのです。すなわち、教育には二つのタイプがあるといえるでしょう。人が既存のシステムに適応するため≪自分たちが既存のシステムに合わせるため≫の教育と、もうひとつは(個人の)主体的な変革の過程を促し、そして社会的変革の過程を促す教育の二つです。そのようにして、自分達も変えていきつつ(=参加を高めてゆく)、社会も変えていくということです。

【質問】

 ミゲルさんたちが推進している第三の道は、他のところ、資本主義やアメリカ資本、その手先になっている政治家や、あるいは武力闘争をやっている人たちからはどのように見られているのでしょうか。もしくは具体的に妨害があったり、その他にもいろいろなことがあるのか、そういうことが知りたいです。

【ミゲル】

 まず第一の道をとった人たち、これは政府関係者や企業なのですが、これはコロンビアでの文脈ですが、私たちのことをしばしば共産主義者だと言って、国に対して害を及ぼしているという見方をしてきました。実際、資本主義の側に立つ人々、軍であったり、それを補佐するような右派の準軍事組織なのですが、そういったところから私はこのような活動をしていることによって脅迫を受けたことが何度もあります。他方で、武力闘争をしている左翼ゲリラの人たちとの関係ですが、もちろん、私たちは彼らとたくさん対話を重ねる必要がありました。「民族解放軍」(ELN)や「コロンビア革命軍」(FARC)、そしてM-19(4月19日運動:すでに1991年に武装解除している)などと、─彼らは私たちの地域で活動していたのですが─私たちは彼らと対話をしました。そして彼らは私たちの活動に敬意を払いました。彼ら自身が、「それこそが社会変革の道である」とわれわれに示しました。つまり、それが最終的に革命的となるかもしれないが、人々が組織し、集団的生産プロセスとコミュニティ(集団的)所有権を確立することによって、社会を変えていくのだと。

 現在、キューバのハバナで、2年半前から平和交渉が続けられています。その中で左翼と政府が最初に結んだ合意項目のうちの第一の項目が、農村部の総合的な発展です。その課題への解決法は、協同組合とか連帯的な組織というものを推進することである、というところでは(政府とFARCの間で)合意が結ばれています。

 政治的目的(意図)と社会変革の目的について、私たちはずっと(FARCなどのゲリラ側と)対話を維持継続してきました。方法は異なりますが、社会的不正義を改め、より集団的参加によって社会を変革していこうという目的においては一致しています。

【質問】

 こういう連帯組織とか協同組合運動とか、民間レベルでの活動というのは、コロンビアだけではなく、ラテンアメリカの他の国も盛んにやっていると聞いています。ただ最近、ニュースを見ていると、ラテンアメリカの国々のリーダーたちが汚職をしたとか、選挙で負けたとか、人気がなくなっているとか、いろいろ伝わってきます。そのような今のラテンアメリカの動きというのは、ミゲルさんはどのように思っておられるのでしょうか。

【ミゲル】

 おっしゃった国々の中で、私は、ボリビア、エクアドル、ベネズエラ、メキシコに滞在したことがあります。そのうえでいくつかの点について指摘したいのですが、一つの大きな懸念があります。たとえばベネズエラではチャベス大統領は演説の中で「協同組合的発展」という政策提案をし、あまりにも短期のうちに協同組合法を発布し、国家主導で、協同組合をたくさんつくっていこうとしました。実際に、協同組合を推奨し、短期間で国庫の資金を投入して12万の協同組合を一気につくってしまった。そしてそれが経済成長を推進したのです。エクアドルの場合は、やはり連帯経済法というものを制定し、8つの協同組合あるいは連帯事業モデルというのをつくって、政府が推進してきました。結局どうなったでしょうか。それぞれトップダウンでやったことなのですが、こういった事例から考えられる問題というのは、社会的な組織あるいは民衆組織がいかに自律性(autonomy)を持ちうるかという点です。社会的組織が自律性をもたず、あまりにも国家に依存すると、協同組合が成功する可能性が脅かされ、困難な状況に陥る可能性があります。これが第1の問題点です。

 2つめは、国政の政治的言説と、公共政策の実施内容とが別々の方向性にあり、一致しない場合、問題が生ずるということです。

 3つめは、汚職の問題は、私の意見では、全権の掌握に由来すると考えられます。ベネズエラのチャベスとか、エクアドルのコレアとか、ボリビアのエボ・モラレス、この人たちは非常に個性的で、強い影響力を持った人たちで、国民にとっては救済者のように登場したわけです。あまりにも個性的であり、とても個人的な(政治)決定を行ってしまう。しかし、個人に権力の集中があると、結局のところ民衆の意見を聞かなくなるので、汚職が発生しやすくなる。汚職の問題は、ラテンアメリカ全体にあり、さまざまなレベルで、蔓延しています。国家権力だけではなく、労働組合さえそうだし、いろいろな組織で生まれることがある。やはり権力が誰かの手に集中すると、結果として必ず汚職が起こる傾向になるのです。

【質問】

 僕は、ラテンアメリカのこうした政権への批判は全部、アメリカの陰謀だと思っていました。反米政権を潰すためにでっち上げたのだと。実際に汚職が多いということには、ちょっと意外な感じがしました。

【ミゲル】

 アメリカが関与しているという疑いが全く否定されるわけではないと思いますが、むしろ国内のガバナビリティ(統治能力)の問題、それから市民の監視力、そういった問題ではないかと思います。

【質問】

 今日、北大阪商工協同組合でお話しをしましたが、その中で企業がつくっている事業協同組合というのが禁止されているとお聞きしました。それは法律の問題なのですか。

【ミゲル】

 コロンビアでは、協同組合を定める法律によって、協同組合が株式会社の形態をとることはできない。なぜかというと、資本主義的な企業のモデルの一部になってしまうからです。よってすべての協同組合、および従業員基金や互助会は、非営利組織で、(協同組合法による)特別な法制度で規定されていなければならないのです。しかし、個人企業が入ることはもちろんできます。

【質問】

 正直申し上げて、これほど広くかつ深い活動をされているということを初めて知りました。どうもありがとうございました。私たちも、ミゲルさんがおっしゃったような問題意識をもって事業活動をしているわけですが、どうしても陥りやすい罠といいますか、ひとつはやはり、この世の中で生き残っていくためには、どうしても経済的なある程度の利潤はあげなければならない、そうなるとどうしても営利優先の企業のモデルを内面化してしまいがちです。一方では、それを避けようとするあまり、ある種閉じた世界で、自己満足するという、その二つの罠があると思います。ミゲルさんのこれまでの活動の中で、こういうことがあったとすれば、どのように克服されてきたのかということをお聞きしたい。

【ミゲル】

 ご指摘のあったジレンマとか内部矛盾というものは、私たちが行っている社会運動においても、当然存在します。たとえば、私たちが関わってきた協同組合の中では、すごく規模が拡大して、5万人以上の加盟者を抱えているような協同組合が2つあります。そうなるとそこに関わっている人というのは日々の日常のサービスを提供するということにあまりにも一生懸命になってしまって、本来の協同の精神とか連帯の精神というのを忘れがちです。

 他方、連帯経済あるいは協同組合経済というのは、倫理的な理念というのを掲げていて、それを自分がつねに実施し、敬意を払っていなければならないのと同時に、社会的にもそれを認識していなければならないという点があります。そういう倫理的な理念に対して、ではどこまで利潤を追求すればいいかという、利潤とモラルのジレンマがあります。それをどうやって克服していくかということですが、そのためにはまず協同組合の事業というものは、経済的な事業であるということは認識しなければならない。経済活動として、当然ながら成果を上げなければならない。ですが、同時に社会的な事業でもあるということをつねに認識しなければならないということです。経済的に成果を生み出せるかということを認識すると同時に、社会的責任を果たしているかということをつねにチェックしなければならない。だから、私たちは定期的にその二つの面から自己評価をするということを心がけています。

【質問】

 自己評価というのは、たとえば、どのようなものですか。

【ミゲル】

 先ほども少し申し上げましたけれども。必ず全員が参加する年次集会というのがありますが、そこで必ず、経済的、量的な報告をします。1年間にどれだけ収益があって、どれだけ資産が残ったかというような経済バランスを量的に報告するのですが、それとともに、社会的バランスも報告しなければならない。具体的にどのような社会的な事業をしたか、どのような参加があったか、参加を促すためにどのような民衆教育の活動をしたかということ、これは質的な評価です。つまり、協同組合の理念を全うしたかどうか、という評価です。これらの報告を同時に行っています。

【質問】

 縁があって、ラテンアメリカにいたことがあって、具体的にはグアテマラとキューバとメキシコにいたことがあるのですが、ラテンアメリカというのはいわゆるガイドが観光客を襲うとか、暴力で物事を解決するということが多いと思います。政府や左翼ゲリラとの関係の中で、全くの非暴力で活動をされているというのが、想像がつきにくいです。左翼ゲリラ側からはある程度尊重されていたということですが、あるいは左翼ゲリラとのつながりがあって、そこで助けてもらったりということがあったのでしょうか。

【ミゲル】

 第三の道を突き進むというのは、コロンビアの状況の中で非常にむつかしい。極右の方は、こういった社会運動を信用しません(ゲリラに近いのではないかと考えて、敵対します)し、逆に左翼ゲリラの方は、この人たちは政府寄りなのではないかと思って、標的にするわけです。実際、このサンタンデール県で一番暴力がひどかったのは1980年代で、そのときに私たちは大集会を開き、そこで「積極的非暴力」という立場をとると宣言しました。私たちがやるべきなのは、対話と武器を持たない抵抗と動員であるということで、具体的には、政府側に対してもデモ行進などの動員をしたし、左翼ゲリラに対しても対話の糸口を探し、対話相手を探しました。どちらの動員においても、我々の権利を尊重してほしいと訴えたのです。

 事実、このうちの一つの社会運動組織であるATCC(サンタンデール県南部の農民の抵抗組織)は、─これには私の身内も参加していましたが─正規軍とも、左翼ゲリラとも対話をすることに成功し、「私たちにかまわないでくれ、私たちの人権と社会運動を尊重せよ」と訴えたのです。これは「農民の人権宣言」と呼ばれました。

 双方(左にも右にも)に問題があります。今日ひとつ言えることは、そういう最中の90年代始めにゲリラ組織のひとつM―19が武装放棄をしたことです。彼らはこうした農民の社会運動にも政治運動にも友好的ではありました。いずれにせよ、対話での交渉を求め続けるということが、一つの方法であると考えます。

【質問】

 無抵抗ということではないのですね。

【ミゲル】

 もちろんです。私たちの活動の中でも3人のリーダーが犠牲になっています。1人の神父がゲリラによって暗殺されました。

【質問】

 同じコロンビアでも、県によって協同組合の数も違うようですが、その辺の要因、地域性のなにが違うのかということ。それとサンタンデール県だけではなく、他の県でも活動を広めようという試みをされているのかということについて、教えて下さい。

【ミゲル】

 最初の質問ですけれども、データを見ると、対人口比なので、サンタンデールは特別なように見えますが、たとえば首都のボゴダやアンティオ県(首府はメデジン)、バジェデカウカ県(首府はカリ)などの3地方でも、協同組合はかなり組織化されてきました。そこでもサンタンデールと同様の協同組合運動が展開されてきました。教会や労働者の運動の基盤も同様にあったのです。ただ、人口規模がもともと大きいので、人口あたりの比率というのは、どうしても下がっています。また、こういったところは大都市なので、基本的な経済構造があるので、事情が少し違います。また他の地域でも、たとえばメデジンでは互助会を中心とした連帯経済の活動が盛んであるなど、地域的な特色があります。ただ、サンタンデールの場合は人口が少ない中で、教会と労働者の運動が盛んだったという地域性があったので、非常に進んでいるとは言えます。

 他の県での活動のことですが、もちろん試みを進めています。サンタンデールの北側に北サンタンデール県というのがありますが、そこでもいろいろな形で協力して、協同組合が拡大しました。なぜなら、協同組合運動とは、それぞれの土地(地域)において、そこに住む人々のイニシアティブによって発展するからです。

 また先ほどご指摘がありましたが、協同組合部門がすべて理想的な連帯の精神の下に活動しているわけではありません。そのことも見ないといけません。協同組合という名称が、誤った使われ方をされたことがあります。二つの例をあげます。

 ひとつは労働者協同組合が非常にまちがった使われかたをしてしまった経験があります。それは政府が県とか市の公共事業をやるために、労働者協同組合をつくり、そこと契約をして資金を流してしまった。本来の労働者協同組合としてのイニシアティブのない形のものをつくってしまい、汚職の温床になってしまった例。また、たとえば病院などで政府が労働者協同組合をつくるのですが、そこがさらに労働者を確保するための仲介的な役割をはたし、二段階での契約をしてしまった。これは本来だったら、協同組合法に違反する行為であり、労働者の質も低下した。それに対して、本来の協同組合運動を目指す人たちが、政府にクレームを出したところ、その指摘に対して、政府は、今度は逆に自分たちが関わった協同組合を解体するという命令を出した。それによって一時400ぐらいの組織が解体されてしまった、というような失態がありました。

 もうひとつは特に金融関係の協同組合が、規模を拡大してしまうことによって、本来の協同組合としての民主的な理念というのを忘れてしまうということがあります。ですから、あまり規模を拡大すると、特に幹部の人たちが官僚的な行動をとってしまって、本来の協同組合の加盟者とのあいだの民主的な関係を失ってしまう。そして本来は加入者が組合のオーナーであるはずなのに、幹部が協同組合のオーナーのようなことになってしまう。そのように協同組合が、本来の協同組合の理念に反した行動をとってしまうということがあります。その結果として、経営状態も悪化して、三つの大規模な金融組合が90年代に破綻しました。

【質問】

 全体の中で、金融サービスの占める割合が大きいのですが、どういう必要性があったのでしょうか。

【ミゲル】

 協同組合が運営するいろいろな業種がありますが、なぜ金融部門が大きいのかと言いますと、つくるのが一番簡単だということです。貯蓄基金のような形で始めることができるから、ということです。それからサンヒルの場合はいろいろな他の経済部門の活性化を図るために、まずは初期投資の基金を集めることが必要だったので、最初は従業員基金などを使いましたが、さらに投資のためのお金を集める必要があったからというのが2番目の理由です。ただし、実際は、多業種の協同組合というのがずいぶんつくられてきました。たとえば金融部門だけではなくて、流通とか、農村部の技術支援サービスとか、複数の分野を行っている協同組合というのができてきたのですが、1989年に、協同組合法が改正されて、ひとつの部門に特化するようにということになり、その結果、金融サービスに特化するという傾向がありました。もちろん、生産者組合や医療部門、教育部門など他の部門もあるのですが、数からすると金融部門が一番多くなりました。

【司会】

 そろそろ時間がきました。今日は朝の9時からずっと活動してきましたので、ちょっとお疲れもあるかもしれません。そろそろおしまいにしたいと思います。ミゲル・ファハルドさんと通訳をしていただいた幡谷さん、今日はどうもありがとうございました。


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