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ネパール・タライ平原の村から(57)

タライ平原の酪農 その2 -集乳所を訪問-

 毎朝6時~8時と夕方3時~7時まで、バイクや自転車で大人・子どもが牛乳缶を提げて、牛乳の集荷場にやって来る、地元の町にある“集乳所”を訪問しました。集乳所の正式名称は、エクリクードゥ酪農協同組合。今回は、この組合の代表パダム・プラサードさんに集乳所の運営についてうかがいました。

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組合員の出荷と計測しているところ
 ネパール全体の生乳生産量の15~20%が都市部へ流通されます。この協同組合もチトワンに1か所とカトマンドゥ2か所、2日に1回ほど供給しているとのこと。設立17年目で組合員は現在、500名(実働300名)。組合員の契約内容は、入会費3500ルピー(3790円)と1年250日500リットル以上の出荷が条件となるとのことです。組合員の特典は、集乳所で販売もされる配合飼料や生乳の売上げに応じて、ボーナス(分配金)が付きます。その他、講習会や先々、人工授精のサービスも検討されているとのことです。乳牛の世話が女性の家業である場合が多いのですが、組合員の約3割が女性とのこと。また、組合員の1割弱が土地なし住民とのことです。乳牛を飼い、堆肥を売ることを収入手段とする、農地を所有しない農家がネパールにはいます。

 集乳量は1日平均2000リットル。半量が各地を巡回して来るタンクローリーで輸送され、残り半量が非発酵チーズ・ギュー(精製バター)・暑季のみヨーグルトに加工され、地元で販売されます。また、集乳所で生乳のまま、1リットル58ルピー(62円)で販売もされるとのことです。1人当たりの出荷乳量は、最大80リットル(30頭ほど飼養)が1人。50~60リットルが2人、30~45リットルが25~30人、5~10リットルが40~50人、2~5リットルが100人、2リットル未満が100人近く。ネパールの牛1頭当たりの乳量から考えて、生産者の2/3が1頭の乳牛から搾り、自家消費分を差引いて、生乳を出荷されていると考えられます。買取りに関しては、組合員以外でも極少量でも可能とのことです(試験的に持って来る人もいる)。また、遠方5か所からまとめて、自転車の後部が荷台のリキシャーで道中売りながら、運ばれて来るとのことです。

集乳所の冷却タンクについて説明するバダムさん
 乳牛の種別は、50%がホルスタインの交雑種、15%がジャージー種の交雑種、5%がコブ牛(在来牛)、30%が水牛。買取価格は、1リットル平均45ルピー(48円)。計量器で重量を計り、少量すくって乳脂率と無脂固形率が検査(表示)され、パソコンに入力して自動的に買取価格が換算されます。1リットル当たりの乳脂分=価格が高いのは水牛。次にコブ牛→ジャージー→ホルスタインの順。乳量は、これを反対にした順番になり、ホルスタインが一番の乳量になります。1リットル当たりの最安値が30ルピー(32円)くらいでホルスタインの牛乳が安く、最高値が80ルピー(86円)ほどの水牛乳とのことで、価格差があるとのことです。1つの冷却タンクに、各種生乳が集め混ぜられると、約4.5%の乳脂率になるとのこと。また、季節によって、集乳量や乳脂分の変動が激しいことが課題とのこと。加えて、インド国境封鎖による、燃料不足とガス不足で、闇市場で購入したガソリンをバイクで運び、タンクローリー車に供給したり、ガス不足のため、地元消費用に加工される牛乳を温めるのに、使用する薪も価格が高騰し、支出が大きいとのことでした。

※3月初旬に国境封鎖は解除され、燃料不足の問題は現在解消されています。

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 ここ2~3年、補助金で多頭飼育を始めた“農業経営者”、と規模拡大化する畜産経営を地元地域で見かけるようになりました。対して「読書きを知らない年配者や普通の小規模農家は、何の支援も補助金も得られない」と代表のパダムさんは語っていました。

 日本で見た地場野菜の小さな集荷場のように、生乳が集荷される集乳所を見ていると、ネパールの酪農は、小規模農家によって支えられ、そうあり続けることで農業と農村が支え続けられると思うのです。

 (藤井牧人)

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