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市民環境研究所から

人災でない災害はない-東日本に拡散する放射能 -

 今から45年前に、それまでの研究分野を離れて公害問題に取り組み出したとき、「人災でない災害はない」との思いから、公害研究グループではなく、「災害研究グループ」という研究集団を研究者と学生で結成した。5年前の東北大震災が大津波の襲来以上に人々を困窮させているのは、福島第一原発の崩壊である。これさえなければ、津波による悲しい大災害にも、地域住民はもっと復興を押し進められただろうに。しかし、その気持ちを凍らせてしまった放射能被害は時間的際限もなく続き、この「究極の公害」は、5年後と変わらず100年後も続いているだろう。

 45年前の思い出から書き始めてしまったのは、この4月3日に開催した「チェルノブイリ30年・フクシマ5年京都集会」で「福島原発刑事裁判を支えよう」と訴えた時に、「東電の元会長ら3人には当然のこととして刑事責任があり、福島原発崩壊は人災である」と話し、「人災でない災害はない」と訴えたからである。冬が明けて春がくるかと心待ちにする3月が、5年前からは悲しみが増幅し怒りも増幅する季節となった。

 5年前の3.11以降、この国は責任を取らない人々が支配する国へとますます進んでいる。責任を取らないとはどういうことかと言えば、上司の言うことに自らの考察を加えることなく従うということである。そうなれば、自分が担当している専門部門の問題についてすら考察も何もなく、誰かが言ったことを鵜呑みにして繰り返すだけである。その典型例として丸川環境大臣がいる。1ミリシーベルトなんてなんの根拠もないと公言し大恥をかいたが、責任を取ろうともしない。それもそのはずで、彼女の上司は安倍首相である。オリンピック招致演説でフクシマの放射能は「under control」であると宣ったのだから。

 市民環境研究所では、under controlの放射能がどの程度に東日本に拡散しているかを細々と調べている。試料を採取しに行く資力はないので、被災された人々が持ち込んでくれる試料(土壌とホコリ)を調べている。東日本での地域差はあるものの放射能汚染が蔓延しているのは隠しようがなく、今だに福島第一原発から放射能が放出され続けていることは、安倍以外はみんな知っている。ところが、東京都内では、放射能汚染は福島のことで東京のことではないと思っている人間のいかに多いことか。それならばと、東京の個人住宅内のホコリの放射能を計ってみることにした。掃除機で自宅内を掃除して集めてもらったホコリである。詳細を書くスペースはないが、端的に言えば、放射性セシウムの濃度は関西の数百倍から千倍もある。3.11から5年経過しているのでセシウム134は減少したが、半減期が30年以上もあるセシウム137はほとんど減少せず、これからも東京の家の中に住み続ける。東京の方はこまめに室内を掃除されるのがよい。

 先日、めずらしく東京に出かけたので、上野辺りを散策し、路傍の土を少々持ち帰って放射能を測定した。998Bq/Kgと1190Bq/Kgだった。関西なら5Bq/Kg以下である。東京は汚染地帯であると都民は認識しているのだろうか。屋外では土が、屋内ではホコリが放射能を出し続けている中で生活していると認識して、福島原発、東電、安倍政権を考えてほしいのである。でなければ、庶民が災害を拡大していく。人災でない災害はないのだから。

(市民環境研究所代表 石田紀郎)


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