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過去号>135号  

ネパー ル・タライ平原の村から(54)


動 物供養を考える




  昨年、5年に一度、2日間に渡り、数十万頭の家畜が捌かれるヒンドゥーのガ ディマイ祭の動物供犠が、欧米動物愛護団体の圧力により、禁止となるニュースを耳にしました。商業的という批判を始め、野蛮・残虐・迷信・古い慣習と いう批判もありますが、何か単一の価値に呑み込まれてしまった、そんな出来事でもあります。一方で、小さい規模での動物供犠は、ネパール各地で普通に 見る機会があります。

 地元の自然を崇拝する160軒あるプンマガルコミュニティー。彼らが、タライ平原を横断するマハバーラト山脈でもっとも高い2つの山、デヴチュリ・ ヴァルチュリの山の土着神に感謝するこの季節。自分達で出資しあって建てた、デヴチュリ・ヴァルチュリ神寺院で、動物供犠が9番目の月に当たるプース 月、満月の10日に行われました。西暦では、12月25日、クリスマスでしたが、全く無関係とのことです。

 奏 者による太鼓・ラッパ・シンバルが鳴り響く演奏に合わせ、民族衣装を着た人が踊り、ヤギを連れ、鶏を抱え、約300人の行列が町中を行進します。そし て、寺院に着き、祭りの山場を迎えます。
 この日のために準備された、重量のある雄ヤギ(去勢ヤギではいけない)の頭に聖水の滴がかけられ、それを振り払う動作をするのを待ちます。これはヤ ギ自らが、人間に捌かれる準備があることを意味するそうです。準備が整い、1人が脚を抑え、もう1人が首に掛けた縄を固定し、ヤギを静止させます。周 囲は注視して見守る人もいれば、目を背ける人もいます。
 寄合いで選ばれた青年が長い山刀を持ち構え、周囲に沈黙と緊張が走ります。しかし、ヤギはすぐに動きます。何度かためらい、ようやく一瞬静止した瞬 間、山刀が振り降ろされました。苦しめず、一振りで首を落とすことが重要とされています。青年は成功を力強く喜び、周囲も盛り上ります。すぐに後ろ脚 を引きずられ、境内を一周し、血が神様に捧げられました。
 その後、各個人が持ち寄った雄ヤギや出産経験がない雌ヤギ11匹、地鶏33匹、食用としてのつがいのハト6匹の首が次々と切られ、同じように境内を 一周し、血が捧げられました。祭り用のヤギは、寺院脇で火に炙って、毛をむしり、捌いて調理されます。皆で祝い共食され、一日中演奏と踊りが続きま す。各家が屠った家畜は、それぞれの家に持帰り、売らずに身近な親族や近所の人に分配したり、招いたりして食されます。

 少数民族プンマガルは、土地を手放し農業しなくなった人、家畜を飼わなくなった人も多々います。祭りと農業との結びつきが薄らぐ中、毎年、みな集 まって、日本語でいうところの、"いただきます"の意味を体感する行事は、大切に続けられています。

 (藤井牧人)

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