アソシ 研リレーエッセイ
「過 去に戻るか、前に進めるか」
vs
「マ
ジメに、大阪」
今回のダブル選挙はポスターが掲示された時点で勝負はついていた。「過去に戻るか、前に進めるか」と訴える維新に対して、自民党は「マジメに、大阪」と来た。何が言いたい
のか。橋下が不真面目だと言うなら、これほど的はずれの批判はないし、橋下嫌いの人でも彼を不真面目だとは誰も思ってない。自民党を飛び出して維
新へ走った元同僚たちは確かに不真面目な連中ばかりで、ぼくの地元の港区から出ている2世議員の若造はうまいこと時流に乗っていつのまにか国会の
センセイになっているが、聞こえてくるのは女と金のスキャンダルだけだ。この連中を批判したところで楽屋落ちでしかない。あるいは、自分たちはこ
れからマジメに大阪の問題に取り組みますという反省の弁だったらとても選挙にならない。
一方、維新の「過去に戻るか」は、都構想には反対だが、だからと言って自民党候補に投票するのにも逡巡している人たちの胸にはグサッと来る。実
にうまい。オール与党で市政府政を牛耳って莫大な借金を作ったのは自民党、お前たちではないかと言いたくなる。選挙は市民の義務で何があっても棄
権をしてはならないと考えているウチのカミさんなど最後の最後まで迷っていた。
さらに、朝日新聞によれば維新の選挙運動はすさまじくて、橋下、松井、吉村三者による演説会を分刻みで計画し、しかも3人が同一会場に同時に顔
を揃えずに時間差で移動するほどの緻密なスケジュールで、また国会議員も含めて電話かけ等のノルマを課し、これらを全てやり尽くしたと言う。橋下
が選挙後に「組織運動の勝利です」と語ったそうだが(朝日新聞)その通りだ。大阪都構想の住民投票の時、橋下は「自分以外はしゃべるな」と厳命し
たそうだが、彼にとって組織というのは、考えるのは自分だけで後は手足となって動けばいいわけで、前述したような港区選出のセンセイなど格好の手
ゴマである。こんな組織の方が選挙には強い。公明党だってそうだろう。
橋下のやり方を批判したってしょうがない。イスラム国を生み出したのが、アメリカやフランス自身であるように、橋下を生み出したのは、共産党を
除く自民から社民までのオール与党体制であり、その黒幕だった職員組合なのだから。それよりも、橋下に対して相変わらず大きな支持が集まるこの
「現象」こそ考えたい。
大阪は経済の地盤沈下が激しい。大阪発の企業が本社をどんどん東京に移している。京都のように戦後生まれの新しい企業も出て来ない。元気なのは
吉本興業ぐらいのもの。
この閉塞感を打ち破ってくれそうなのが橋下だと、期待が集まった。大阪都構想にしてもネーミングが受けている。東京都に伍して大阪都を作るのだ
というはったりが人気を呼ぶ。東京一極集中は深刻な問題だが、大阪都を作ったところで解決するわけではないのだが。札幌、仙台、福岡あたりがいず
れもそれぞれの地方の小東京化しているが、地方の地盤沈下と疲弊に拍車をかけているだけである。二重行政の解消というが、そもそも政令指定都市が
なぜ作られたのか。もしそれが問題ならば大阪だけの問題ではない。自分が大阪府知事になってみたが、まんなかの大阪市は独自に権限を持っていて自
分の言うことを聞いてくれない。だったら大阪市をなくしてしまえというだけの話なんだが、うまいことホラ話を作りあげた。
日本の地番沈下への危機感がアベ人気を支えているのと相似形だ。
(やさい村・河合左千夫)