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ネパー ル・タライ平原の村から(52)

インド /ネパール国境封鎖

 9月20日、王制廃止から7年半延期を繰り返し、待ち望まれた新憲法が公布されました。決め手は、「ネパール大地震」です。30億ドル(内インド 10億ドル)の復興援助を受入れるためにも、新憲法公布による政治的安定という国際社会の要望と、ネパール政治の結束が問われました。
 対して、タライ平原のインドネパール両国境沿いをまたがって生活圏とする、ヒンドゥー語、ボジュプリ語、マイティリ語、アワディ語等を母語とする “マデシ”と呼ばれる、インド系住民・政党による、激しい新憲法反対運動が展開。弾圧により、約40名が犠牲の上で新憲法が公布されました。その2日 後から、インド/ネパール国境における、インド側の非公式国境封鎖(経済封鎖)が2か月続いています。
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 インド/ネパール両国民が出入国自由なオープンボーダーの国境地域、“タライ平原のインド化”を恐れるのが、小国ネパールの立場です。新憲法は、民 族や地域性を考慮した新しい自治州を制定します。
 しかし実際は、インド国境沿いのインド系住民を無視した、タライ平原をいくつかに分断した自治州区画が制定されました。正確には、一応公布したけ ど、自治州は、いつでも見直す予定ですよ、ということを織り込んだ、インドを気使った憲法公布となりました。それでもインド系住民にとって、いくつか の条項が非民主的であるとして、国境各所で反対抗争が続いています。インド政府としては、直接の経済封鎖は内政干渉となるため、国境ネパール側地域の 治安を理由に、物資の輸送を止めている状況です。ただし、ネパール側のインド系住民の反対抗争を支えているのがインド政府であるとして、ネパール側も 抵抗している状況です。
 海を持たないネパールは、生活物資・石油の供給をインドに依存しています。そのため、国境が封鎖されるとガス・ガソリンといった燃料不足に陥りま す。今は道路で一般車両はほぼ見かけなくなり、バスが定員過剰で運行し、お正月のような静けさの日々です。一部、閉鎖が解除された国境もありますが、 首都カトマンドゥへ物資輸送の主要な国境都市は閉鎖中です。また、同じく国境を接する中国(正確にはチベット)から、初めて石油を輸送する対抗策がと られました。が、地震で被災したヒマラヤ越えの悪路、コストを考えると、あまり多くは期待できないようです。

 ガソリン給油は、ナンバープレートの偶数・奇数で日が分けられたり、給油量は1度にバイクが3リットル、一般車両5リットル、バス15リットルまで と制限があります。また、密かにインドから持ち込まれるシリンダーガス・ガソリン・ディーゼルが闇市場に流れ、高値で取引きされています。僕の地元で ガソリン1リットルが280ルピー、325円/リットル。薪の販売まで始めた首都カトマンドゥとなると、450ルピー、522円/リットルくらいだそ うです。
 こういう危機状況がメディアから連日伝わる一方、経済や国家にふりまわされることなく、ゆうゆうと過ごしている大半の農家・農村の姿も目に映りま す。               


 (藤井牧人)

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