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連 載:ネパール・タライ平原の村から(36)
    第2回制憲議会選挙

 
ネパールの農村で暮らす、元ょっぱ農産職員の藤井君の定期報告。その36回目。

 「第2回制憲議会選挙」、ラジオ放送からこの言葉が連呼され始めたのは11月上旬。言葉からは“民主化されたネパールにおける、正当な2回目の選挙”そんな印象も受けます。実際のところは、王制解体後5年を過ぎてもまだ憲法を制定できない議会を解散し、議員をもう一度選び直す「出直し選挙」なのです。そしてこの選挙も、昨年5月に議会が解散してから1年半が経過してようやく実施されるのです。

 

議席は小選挙区が240、比例代表が335。これらの議席の獲得に向け、122党が争う選挙戦。投票日とその前後である18日〜 20日はインド国境も閉鎖されました。カトマンドゥでは爆発物や偽装爆弾の発見が相次ぎ、放火もあるなど、否応なく緊張感が高まりました。治安維持のため、特別車両以外の交通、店舗の営業、集会活動が禁止された投票日当日。国道沿いの町に行ってみると人気が全くありません。一方、投票所(学校)へ行って見ると・・・。

学校入口付近や敷地内でみな雑談したり、唯一営業している屋台で軽食を購入したり、投票箱の列に並んだりと、投票所だけが賑やかな雰囲気でした。7時から投票なのに、早朝4時から列もできていたとのことです。近所の人から「ビナジュ(親族関係の呼称で僕を呼ぶ)、投票は済ましたか?」と選挙権のない僕に聞いたり、「日本の選挙もこんな感じか?」と聞いて来ます。投票所では、まず入口で不正を防ぐために事前に配布・作製された有権者の顔写真入り投票証明書の提示を求められます。そして警備員による身体検査を受け、さらに各投票箱の前に立つ警備員に監視されながらの投票となります。その際、政党の名称が記載された“文字”を読むのでなく、鎌/水瓶/手押し糸車/ケイタイといった各政党のシンボルマークの絵が載った用紙を見て、投票用紙に支持政党のマークに判を押す仕組みになっています。

過去最高の投票率投票日から1週間過ぎた現在も、開票集計が続いています。選挙前には「出直し選挙などしても結果は同じ」といったしらけた声が多数聞かれた中、終わって見ると投票率70%と過去最高であったとのことです。その後、開票速報に一喜一憂するゲームを楽しんでいるかのような大盛り上がりの日々が続きます。

今回の選挙では、武装闘争からネパール第一党に躍進したマオイスト(共産党毛沢東主義派)の議席数が注目されていましたが、どうやら大幅に議席数を減らすことになりそうです。かつてマオイストに期待を寄せたネパール国民は、議会政党に転じた後に私腹を肥やし派閥抗争に明け暮れる従来の政治家と同じになってしまった不信感を募らせていたからです。投票に行かなかったり、行けなかったり、拒否したりする人が、僕の周囲では全くいないことにも驚きました。過去にあった選挙では、投票に行かない人などには、各党の支持者や周囲の人が必ず呼びかけに来ていたそうです。
こうした状況、投票率が非常に高かった一方、各政党の具体的な立案、候補者の主張がほとんど伝わって来ない、話題にならない、そんな印象も受けたネパール選挙でした。(藤井牧人)
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